二章《サムライ》
オンラインゲームの登録は割と簡単である。適当にニックネームとメールアドレスを登録すればそれで終わりだ。後はソフトをインストールしてサーバーを選択したら、キャラクターを作って冒険の始まりだ。
軽いチュートリアルを終えた俺は草原に立たされていた。
見た目はドワーフ族の女の子キャラ。藤色のツインテールに藤色の目が透き通ったような肌に印象を持たせる。如何にも男に媚を売るような女の子のキャラクターに仕上げた。服は入会キャンペーンだとかでもらった魔導石を使い、純白に瑠璃色が浮かび上がるようなアイヌ系の衣装を装備し、職業は味方の回復やステータス増幅できる僧侶を選択した。
とりあえずレベルを上げるために俺は草原を駆け回り、淡々と村人に依頼されたクエストをこなしていった。
それは俺が……いや、ワタシがレベル10になったくらいだったか。順調にモンスターを討伐していたら男性のキャラクターが私に声をかけてきた
「君、見かけない顔だけど新しく入った子かな?良ければ一緒に遊ばないかい?」
見た目は若い男性の戦士といったところだ。ステータスを見たところレベルは30でそのエリアのモンスターを一掃していた。
「え、えぇ。喜んで」
俺は瞬時にかかったと感じた。男ってのは興味の女に近づく時、まず自分が頼りがいがある人間だと思わせるからだ。俺のいるエリアのモンスターを一掃してから話しかければよほど警戒心が強い女性でなければパーティ同行できると踏んでいるのだろう。この男は俺を間違いなく"女"とみている。
「俺は海人、よろしくな!」
「私は……レイ。その、弱くて足を引っ張るかもしれませんがよろしくお願いします」
「気にすんなって、僧侶じゃレベル上がりにくいっしょ!一緒にレベル上げしようぜ」
海人は私にパーティ申請し、レベル上げに貢献してくれた。
「俺も三日前に始めたんだけどさ、このゲーム楽しいよな。いろんなユーザーと一緒に旅ってものをしたかったんだ」
「そうなんですか、私も海人さんみたいな人に出会えてよかったです」
私たちは他愛もない会話をしながら道を進めていた。こいつ、ちょろいな。
「お、ここのダンジョンはレベル50以上推奨だってよ。レイちゃんと一緒なら大丈夫でしょ、入ってみようぜ」
彼は草原エリアの分かれ道にあったダンジョンに入ろうとしていた。しかし私のレベルはまだ30、彼は48だ。さすがに時期尚早ではなかろうか。
「え、さすがに強いんじゃないかなぁ……」
このゲームでは自分の体力がゼロになるといくつかのアイテムと少量のお金を失ってしまう。初心者は死んでもリスクはない設定だが、私のレベル帯では救済措置は適用外なのだ。
「大丈夫だよ、俺がレイちゃんを守ってやるから!」
彼はあふれる自信を胸にダンジョンに入っていった。パーティの仲間は経験値やお金、アイテムがもらえるが、同じフィールドにいなければその恩恵は受け取れない。不本意ではあるがここは彼についていくべきだと判断した私はダンジョンへと奥に続いた。
ダンジョンの中は暗く視界が遮られる作りになっていた。それも そうだ、レベル50なんていったら上級職推奨ではないか。私たちはまだ低級職、そこに見合ったスキルやアイテムはまだ持ち合わせていないのだった。
入口は少し明るいので私達はそこでモンスターを狩ることにし
た。
しかし五分程狩っていた頃悲劇は訪れた。視界の悪い私達は幾十にもなるモンスターに囲まれていた。
「まずい!ターゲットは全部俺に回すからレイちゃんは逃げて!」
海人は最後の力で全体攻撃を行うもどのモンスターもまだ元気があった。私はその隙に逃げようとしよう。
「っつ……!」
くそ、モンスターから速度低下攻撃を受けた!これでは逃げる前に死んでしまう!
私達が死を覚悟したその瞬間、闇に一線の光が差した。
「貴様ら、そこで何をしている!」
そう言うと周りのモンスターは全て消えていった。光の主が一瞬に倒したのだった。思わず私は返答していた。
「何って……レベル上げ」
「たわけが!ここは上級職向けだ、雑魚はかような場所に来るな!」
そう言うとソイツは私たちの退路を確保しダンジョンの外へ導いてくれた。
ダンジョンの外から出た私達三人は一通り回復を行った。
「俺はサムライの絆、バンと読む」
「私はレイ、こちらは海人さん」
一通りの自己紹介を終えたら、絆はダンジョンへ向かおうとした。
「待ってください、先程は助けていただきありがとうございます」
「礼などいらん。俺が通るのに雑魚が道を塞いでいたから掃除したまでだ」
そう言うと絆はこちらに目もくれずに再びダンジョンへ入っていった。
回復した海人が立ち上がりこちらに語りかけてきた。
「ふぅ、ごめんな。ひどい目にあわせちゃった」
「いえ、私のために命を張ってくれたんですもの。かっこよかったですよ!」
私は引け目を感じてる海人を慰めるようにエモーションで励ます。
「そうだ、百花繚乱ってギルドに入ってるんだけどレイちゃんもおいでよ。楽しいところだよ」
「えっと、私はまだあまりギルドとか考えてなくて……イベントとか苦手なんですよ」
不意にギルド勧誘を受け私は思わず本音を漏らしてしまった。
「へーきへーき!うちのギルドは上位とかあまり目指してないから。自分達がゲームを楽しむのを主にって思想だからさ。それに今日のお詫びにまたレベル上げたりしようよ!」
海人は手を振りながら私の背中を押そうとする。しかし……
「わかりました、少し考えさせてください。ちょっと今日は疲れちゃいましたし、またゲームにログインしたらお返事させていただきますね」
私はそう言い、別れの挨拶をすませるとゲームをログアウトした。
「ふぅ、サムライの絆…か。あいつ強かったなぁ」
ログアウトした俺はすかさずゲームの攻略サイトを見た。
「サムライ……体力や防御が低いかわりに攻撃力が凄まじい。特殊 能力の受け流しを使いこなせばダントツ一位のアタッカー。なるほど、そりゃつえぇや」
その時俺は思った。こいつを騙せば面白いんじゃないかと。
確かに絆は強いし優しかった。けど、雑魚とか言われてただで起きる俺でもない。
「LHO、面白いことになりそうじゃねぇか」
にやついた俺は母親に指摘されつつも、夕食を食べて寝る事にした。
受け流し:パリィとよく言われる特殊行動。相手の攻撃を最低限の動きで回避することによってすぐに攻撃に転じることができる。発動がプレイヤーの腕に左右されるので、うまく決まれば相手に大ダメージを与えられる。
LHO:ラインハートオンラインの略
上級職:キャラクターのレベルが50になると上級職に転職できる。攻撃や回復、特殊動作など下級職の比にならないぐらい強くなる。