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一章《ラインハートオンライン》

MMORPG……それは多くのプレイヤーが一つの世界で共生し、あるものはモンスターを倒し、あるものは物を作り、あるものはプレイヤーを殺し己の名声を上げる場所。

この世界において一つの絶対的なルールとしては人との繋がり。


協力、欺瞞、誘惑


プレイヤーは己が欲望を満たすために最大の力を発揮し、その頂を目指すのである。


東山 嶺。彼もまたこの深淵に迷い込んだものであった……

「嶺くん……私たち、もう無理だよ」

 静かな夕方の喫茶店のテーブルで少女は悲しみを込め、しかし俺の心を見透かすような目でこちらを見ていた。


「な、なんでだよ。いきなりどうしたんだよ」

 俺は焦りを隠しながらもなぜこのような結末になってしまったのかと落胆していた。

「だって、嶺くんは……女子力が高すぎて。あなたといると私は自分が嫌になるの。だからお願い、これで最後にしましょ。お互い違う高校に行くんだし、嶺くんにはもっと素敵な女の子が似合うよ!」


 唐突の別れであった。俺は少女と別れたあと、彼女のために買った交際一周年のペンダントを箱ごと握りつぶした。


 ……い ……れい

 誰かが俺を呼んでる

 俺は自分の名前が嫌いだ。親が頂上に立てるようにと名付けてくれたことには感謝している。けど、レイなんて名前で呼ばれると女の子のように聞こえる。ただでさえ中性的な容姿に加え、母さんの手伝いとかしてたら料理や家事なんかもそつなくこなせるようになった。おかげで中学の時は嶺ちゃんとクラスの連中にはよくバカにされた。


 れい……嶺ってば……

 せっかく出来た彼女にも一年で振られて高校に上がってひと月弱。俺は次の一歩を踏み出せもせず未だに過去を引きずっていた。いっそあの時死んでいればと思うくらいには後悔していた。


「おいバカ嶺! いい加減起きろ!」

 大きな声が聞こえてきたと思ったら頭に鈍痛が広がった。

「……いってぇ。」

 俺は過去の夢の嫌悪感を大声の主に矛先を変え悪態を吐いた。

 身長はいうほど高くないが低いわけでもない、パリッとしてるワイシャツから清潔感を漂わせる印象、肩まで伸びる金髪は一本にまとめられている、目の細さが一見悪そうだが、眉間のしわ跡が全くないところを見ると喧嘩とは縁が遠そうだ。いいとこのお坊ちゃまがヤンキーになったらこんな感じだろうか。いや、こんなヤンキーいてたまるか。

「授業が終わったのに起きないお前が悪い。」

 そういうと牧野圭佑はカバンを持ち上げ席を立った。

「今日もいくだろ?ゲーセン。」

 月のように綺麗な金髪を揺らし、にかっと笑いながら誘うものだから俺はさらに悪態を吐くことにした。

「そういうことならさっさと優しく起こせよ……」


「そういやお前、ネトゲってやらないのか?」

「はぁ? なんだよいきなり。」

 俺と牧野は近所のゲーセンで三年ぶりに出たシリーズのガンシューティングをしていた。先に死んだ方がジュースを奢る約束なので気が抜けない。

「いやさ、もうすぐゴールデンウィークだろ?お前だってバイトあるとはいえ、どうせ家で暇してんならやろうぜラインハートオンライン。夢と希望で溢れるオンラインゲームだ」

 俺の体力はまだ余裕がある。このゲームは右プレイヤーが狙われやすいから当然と言えば当然なのだが。

「俺は人と群れながらやるゲームは嫌なの。イベントとかあると強要されたりするし」

 やはり話しながらゲームをするのは難しい。気づいたら俺は牧野と同じ位の体力になってた。

「そりゃスマホゲーだろ。パソコンはそこまで強要されないしいいと思うぜ。ユーザーの一割は女の子もいるし」

「女なんてそれこそめんどくせーよ。やる事やらないくせに可愛い装備ばっかり使うから弱いし、基本人頼みだろ」

「はぁー、わかっちゃいないねー。そこを叶える王子様に惚れるんだよ」

 脳内お花畑の牧野に思わずガンコントローラを向けるところだった。俺はあまり人に関心がない、というか人の下心をよく知っていた。

 中学時代の俺は中性的な顔立ちでよく女と思われた。なぜか男から告白されたり女からは疎まれる存在になった。それだけ人間の欲望は業が深いというのだろうか。

「いいじゃねーか。試しにやってみろよ。俺はナルラトサーバーでやってるから来いよ……うわ!死んだ!」

「ざまーみろ。ジュース一本な」

「へーへー。わかりましたよ」

 そんな俺もその直後ボスの攻撃ですぐに死んだがまぁ賭けは賭けだ。牧野にはしっかり奢ってもらうことにしよう。


「ネトゲねぇ」

 俺は家に帰り、牧野からもらったジュースを飲みながらパソコンでSNSを開いた。

現実の友人とネットゲームをするのはあまり好きではない。牧野にも行ったが教養や引退、個人の自由が絶対のゲームで他人に干渉されるのが好きではない。ましてや現実の友人となると、ネットを超えて論争を持ち込まれるのが実に嫌いだ。

《ネカマはマジで楽しいわー。童貞どもがホイホイレアアイテムよこしやがる(笑)》

タイムラインをだらだら眺めていたら、ふとそんな書き込みが流れてきた。そいつはネトゲのユーザーネームも公開していたのですぐに炎上していた。

 千を超える返信すべてが憎悪に満ちた誹謗中傷で埋め尽くさるなんて、並の神経だったらアカウントを消してすぐに逃げるだろう。この投稿者は謝ってネトゲ内で賠償するとか書いてるが、まぁ十中八九逃げるだろうな。

「ネカマか……」

 ネットオカマ、通称ネカマ。彼らはインターネットの匿名性を最大限に活かし、自らの性別を偽り生きている。女性が男性と偽るとネナベと呼ばれる。どちらにせよ異性に憧れて生きる者、周りにチヤホヤされたく演じている者、性を偽ることで自分が有益になることを目的とするものが大半である。


「嶺くんのそういった女子力高いところが無理なの。」

 ふと脳裏によぎる彼女の一言。俺は今も引きずっているんだろう。人より多少気遣いできるのが女子力なのか。裁縫や料理が少しできるだけで女なのか。そしたら世の男性の大半は女性を凌駕してしまうだろう。逆を言えば世の女性も男性を凌駕するような男子力だってあるはずだ。少し流行になった言葉を使いたい気持ちはわからなくもないが、言われる側にとってコンプレックスになることだってあるんだよ。

「だったらなってやるよ、女子に負けないくらいの女性にっ……!」

 そう自分に言い聞かせながら俺は夢と希望で溢れるオンラインRPG、ラインハートオンラインの入会ページにアクセスしていた。


初めまして。結月竜と申します。

この度はネカマの男の娘は好きですか?を読んでいただきありがとうございます。

今回の小説ではネットゲームって題材を使うのですが、ゲームをあまりしない方や、MMOってなによ?って方も結構いらっしゃると思うので、これ以降の後書きでは小説内に出てくる用語やスラングなどは後書きで解説していきますので何卒宜しくお願いします

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