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第四話

「ご無事ですか?」


 凛となる鈴の音のような少女の声に反射的にテッドは顔を上げる。


 声の正体は装飾の少ない白いローブを身に纏っていた少女だ。

 目深に被ったフードと首元の隙間から垂れる真っ白な長髪はシルクのカーテンのようで、銀色の双眸はガラス細工のように繊細で上品な輝きを孕んでいる。


 しかし、無機質——という表現が正しいのだろうか、どうにもその彼女の表情、感情という変化に乏しいように感じ、その雰囲気はテッドが少し前に対峙したあれらに似ていた。


「お前……いや、お前たちはなんなんだ……?」


 咄嗟に出てきた言葉がそれだった。無論、それを聞いてどうということは考えてなかった。


「私たちは……」


 既に出てしまった言葉を悔いるように唾を飲み込んで、答えを待つ。が、


「う! ぐ……がはっ!」


 血塊を吐き出す。先ほど戦闘でかなりのダメージを負っていたことを無理やり思い出させられる。

 咳はことごとく鉄の味がするようになり、腹部に感じる痛みは特に酷いものだった。


「貴方の治療を優先します。応急処置を施した後、医務室にて四号が治療します」


 少女は駆け寄りテッドに淡々と呼びかけるが、既に視界が霞み危篤状態のそれであることは彼が一番分かっていた。

 酷い眠気が襲う。体から意識が零れていくように微睡みに落ちていく。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 スイッチが入ったように不意に目が開く。

 がしかし、テッドを執拗に照らす強烈な光に直ぐに瞼を閉じる。閉じても瞼を探して光が見える。


「ま、眩しい……」


 パチン、という音ともに瞼を光が弱まるのを感じる。

 恐る恐ると瞼を開けながら周囲を見回す。

 どうやら、病室のベッドのようなところで寝かされているようだ。


「やあ、目が覚めたみたいだね」


 声とともに視界に入ってきたのは白衣を着た長身痩躯の男……ではなかった。頭は白いカラスの頭のようなデザインで、節々に見える鋼鉄の灰色の光沢がやつらと同じものなのだと静かに物語っていた。


「お前も……あいつらと同じなのか……」

「あいつらと言うのは、一号や二〇〇〇番台のことかな? 話は聞いているよ。どうも二〇〇〇番台にはまだ情報が回っていなかったらしい」

「えっと、すまん。一号とか二〇〇〇番とか言われても分からないんだが……」

「む、そうだったね。掻い摘んで説明させて貰うと」


 白いカラス頭の男はテッドの目の前に黒い板を持ってくる。

 男が板をトントン、と叩くと真っ黒だった板は急に色付き、とても鮮明な絵となった。


「な、なんだこれ? 絵なのか?」

「あれ? もしかして電子機器……ケータイとかカメラとか見たことない?」

「は? けー……たい? かめ?」

「ふむ、技術レベルに差が見られるね。まあ、気にしない気にしない」


 未知との遭遇に目を回すテッドを他所にカラス頭の男は説明を続ける。

 絵が付いた板に指を乗せると自在に絵は変化し、やがて見覚えのあるものが写る。


「こいつは……」


 それは、テッドを魔物から救った白い少女だった。


「うん、彼女が一号だね。僕たちEVE(イヴ)の謂わば、女王みたいなものさ」

「イヴ……? 女王?」

「で、彼らが二〇〇〇番台」

「おい、聞けよ……って」


 次に写されていたのは他でもないテッドを一番初めに襲ったタコのようなやつらだった。


「正確には二〇〇二号。君が倒したのはその一型で、二〇〇〇番台である彼らは街の警備を担当している」

「度々すまん。何言ってるかさっぱり分からん」

「全部覚えろとは言わないさ、まあ要するにだ。僕たちはこの街を守るために作られた約十万体のロボットの集団ってわけさ」

「…………ロボットってなんだ……?」

「まあ、そう来るよね」


 よろしい、と一言置いて不思議な黒い板を机に置く。

 そして、右手を軽く額に当てて大袈裟にやれやれと首を振る。


「どうやら君と僕たちの間にある技術レベルの差はおおよそ……五〇〇年といったところのようだ」

「暗にバカにされてる気がするんだが……っていうか、お前はなんなんだ?」

「僕かい? 僕は四号。ドクターなんて呼ばれ方もするね」

「四号……か」


 さて、と一拍置いて四号と名乗ったカラス頭は腰を折り、白い嘴をテッドにぐいっと肉薄した距離まで接近させる。

 自然とテッドの半身は反対方向に反る。


「一先ずこれくらいでいいだろう。次は君の番だ」

「は?」

「僕たちは名乗った。君の質問に答えた。だから、次は君の番」


 四号は、鋼色の指をテッドの眉間に突き立てる。


「まずは、君の名前を教えてくれ」

「いや、ほとんど分からないままなんだが……」


 まあいい、と前置きしてテッドは四号の指を払いのけて上半身を起こす。


「俺はテッド。テッド・ブランデルだ」


 表情は見えずとも、それを聞いたカラス頭はほくそ笑んでいるようだった。

 そして、払いのけられた右手を差し出した。


「よろしくテッド・ブランデル。ようこそパライゾへ。僕たちは君を歓迎しよう」

「……ああ」


 少し間を置いてから差し出された手にテッドは応える。

 灰色の光沢が入ったそれはひんやりと冷たかった。




「あー、ところで」

「なんだよ?」

「肋骨骨折八本、内臓破裂数カ所、その他外傷多数。あと、栄養失調とか水分不足とか疲労とか熱中症とか。まぁ、色々と要因はあるけど……あんまり起き上がらない方がいいよ?」

「は?」


 口元に液体が滴る感触がする。

 目線を下に向ければ、赤い液体が数滴染み込んだ布団があった。

 言うまでもなく、血である。


「おま……それ、早く言え……」

「もーしばらく眠っていたまえ」


 急激に視界が霞み、意識は薄れて崩れるようにベッドに再び伏せる。


「僕たちの最後の希望」

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