プロローグ
踏み込んだ砂が足を取り、乾いた空気が喉を焼き、
吹かない風が孤独を告げた。
——砂の海を一人進んで、どれほどの時が経っただろうか。
あてもなく彷徨い、水も食料もつき、残ったのはただ一条の槍。それを自身より一歩先に突き立てて進む。
強い日差しがフード越しでも顔を焼いて、遠くを見ようとしても揺らぐ陽炎がそれを阻む。
頭が重い。じわじわと締め付けられ続けるような感覚。
足が痛い。膝がろくに曲がらず半身を交互に前に出して進む。
手が焼ける。杖代わりの槍を持って持って持ち続けて……もう、どれほど力を入れているのか分からない。
ずるり、と柄から手が滑り落ち、フードと頰の隙間に入り込んだ砂の熱で倒れ込んだことに気づいた。
砂のシーツの上で薄眼を開けて限界を悟る。呼吸も不思議と落ち着く。だが、立ち上がる力がない。
——ああ。
感嘆しながら目を瞑った。
心残りはなかった。家族も友人もただの一度すれ違った人すらもいなくなってしまったこの世界に、自分だけが残る理由はない。ただ、強いてあるとするならば、
——あの龍に……。
パスッ、と乾いた音が愚鈍な思考を絶った。
反射的に目を開けば、暫く振りに見たような気になる陽光と砂。そして、砂の上に立つ茶色の体毛で覆われた犬の足。
それをぼーっと眺めているとぐいっとフードの頸部分を中心に引っ張られる感覚。
どうやら足の主が、青年を引きずっているようだった。
——こんなところに犬……いや、魔物か? 巣に連れて行くつもりなの……か?
意識もせずに最後の力を振り絞り、遠ざかる槍に手を伸ばす。手を伸ばすような感覚だけで、実のところ手は全く動けていないとはすぐ分かったが、それでも伸ばし続ける。
そして、そんな自分を青年は嘲笑した。
——畜生。そりゃ……死にたくねーよな。
自然。力尽きて、青年——テッド・ブランデルは瞼を下ろした。




