5.彩られた家
行きとはまた違い、夕焼けが牧草地を茜色に染め上げる景色を通りながら俺は思い切って父に聞いてみた。
「お父様、お父様は魔術は使えますか?」
魔感房は遺伝する。すなわち父が使えなければ俺が使える可能性も限りなく低いのだ。
だから父には「使える」と言って欲しかった。
しかし俺の願いに反して父は苦い顔をしながら俺を見る。
「・・・魔術のことは誰に聞いたんだい?」
「ルーデンの村にいた魔術師の方です」
そうか、と父はつぶやき意を決したように息を吸い込んだ。
「子供たちに余り期待をさせたくなかったから言わなかったんだが、僕は魔感房がない。だから魔術は使えないよ」
ゴーンゴーンゴーン......
俺の頭で鐘がなる。
そうか......父は魔術が使えないのか。
即ち俺は10%の賭けに負けたわけだ。うーむ。
「すまないな。期待させちゃって。だけどそうだな、魔法ぐらいなら使えるんじゃないか?」
なにやら父がニューワードを持ち込んできた。
「魔法?魔術と何が違うんですか?」
「魔法は基本的に生活を便利にするためのものだよ」
父がにっこり笑う。
あぁこの感じ。お目当ての品物が品切れしていた時に店員が進めてきたものが余りにも想像と違いすぎてがっかりするやつだ。
「戦闘には余り向かないが.....結構重宝するよ?」
・・・うん。ソレハスゴイ。
いやでも、意外に魔法はチートでしたっ!なんてこともあるかもしれない。
だいたいメジャーな魔法がそんな扱いでたまるかっ!
なんだか開き直った俺は、馬に揺られて屋敷に帰るのだった。
*
屋敷に着くと、我が家の紋章「ガディウス」というユニコーンっぽい聖獣を縁取ったマークが印されている馬車が屋敷の目の前に止まってあった。
馬車の所々に金箔が打たれている一目で高級とわかる馬車だ。
その馬車から降りてきた三人の女性ーー女の子ーーがちょうど屋敷についた馬乗りの俺たちを見る。
「・・・お父様、今日でしたっけ?」
「・・・違う明日だ。・・・またカレンの気まぐれが発動したんだろう」
そんな会話を交わしつつ呆然としている俺らをよそに綺麗な金髪をしている若い女性が父に駆け寄ってきた。
「あなた~!帰ってきたわよ~!」
手をバンザイしながら駆け寄るその女性は俺の母だ。姉ではない、母だ。
現28歳の母はその美貌から数多の誘いを受けらしいが、なぜか父を選んだという。ほんとに謎だ。
「カレン~!!」
駆け寄ってきた母を父は両手を広げ、馬の上からガバッと抱きしめる。
そしておもむろにキスまでし始めた。さすがバカ夫婦、結婚して十数年も経つのに未だにべったりで、時々俺に「シェルも弟ほしい?」とか聞いてくるからさあ困ったもの。
まあ俺は「お鳥さんが運んできてくれるんでしょー?」と無邪気に答えていたりする。
いつまでこの答えで持つか.....。
俺がそんなバカップルに失笑していると、「うわぁ....」というドン引きの声とともに2人の女の子がやってきた。
右の堂島ロールならぬ縦縞ロールの金髪を持つ女の子が妹のティティー。
左の長髪ロング金髪のモデルのような女の子が姉のミルシィだ。
2人ともなかなか個性的な名前(だけでなく性格もだが)をしているのはあのバカップルの影響だ。俺は普通の名前でよかった。
「シェル、どこ行ってたの?」
妹のティティーが手で堂島ロー.....違った縦縞ロールの髪の毛をいじりながら聞いてきた。
その目には「どうせカエデの所でしょ?」と書いてあるのだから聞くのはやめてほしい。
「ルーデンの村だよ?」
「「ですよねー」」
姉妹がニヤニヤしながらこっちを見てくるものだから俺も負けじと言い返す。
「ティティーは旅行でまた太ったんじゃない?ミルシィ姉さんは婚約者見つかったの?」
「「うっ.....」」
あどけない笑顔を浮かべながら、ん?ん?という風にグイグイ行く。
そんな感じでフヘヘへへとしていると後ろからガバッと抱きしめられた。
「シェルもただいま。元気にしてた?」
耳元で囁かれ、思わずピクリとする。
「や、やめてください!」
咄嗟に母の手を振り払うと、さっと俺は父の背中に隠れた。
それを見て苦い顔をしていた姉妹が、ぷくく、と口を手で覆ったのが見えた。
何から何までそっくりな姉妹だ。
「し、シェル....。あぁ!私のシェルがどんどん成長していくっ.....。ヒセルは見向きもしないし私なんかダメダメなんだわっ.....」
ズガガガーン、と効果音がなったように母は胸を押さえて地面にパタリとうずくまる。
なんて面倒な母なんだ。
「お母様、後で旅の話いっぱい聞かせてくださいね?」
ここで俺のアフターフォロー。
母はパッと顔を上げるとパアァと顔を輝かせる。
「シェ、シェル....!今日は一緒に寝ましょうね」
そう言い母は抱きついてくる。
なんて面倒な母なんだ。
「それで、なんで今日に帰ってきたんだい?」
父が聞くと姉妹が苦い顔をし、母はキョトンと首をかしげる。
「故郷のご飯が食べたかったからですよ?」
・・・・そういうオチか。