第三話 病室のベッドで①
目覚めると私は見知らぬベッドの上にいた。
「…!!」
起き上がろうとしたが体が全く動かない。
「あ…」
声をあげようとしたが、かすれた音が喉からもれるだけだった。
「満月!!」
でも、そんな私の動きに気づいた母が弾かれたように私を呼んだ。
「おか…さ…ん…?こ…」
お母さん、ここどこ?、聞こうとしたが言葉がうまく出ない。
「満月、満月!!」
お母さんはただ私の名前を呼び、なぜか泣いていた。
あの日、宇宙と私は、夜の繁華街に突っ込んできた車にひかれたそうだ。未成年の飲酒運転。夏の陽気に調子にのったガキの行動は死者7名、負傷者22名の大事故となった。
その22名の中の一人が私で、7名の中の一人が宇宙だった。
私がこの話を聞かされたのは、目覚めてから三日が過ぎた頃だった。
頭を強く打っていた私は丸一週間、意識が戻らなかった。目覚めた直後は記憶も少し混乱していて周りを慌てさせたが、幸いなことにすぐに記憶は戻った。怪我も打撲ばかりで、骨折は足だけだった。
私は一緒にいた宇宙のことをすぐに聞いた。でも、「検査が終わってから」「今は自分の体のことを考えて」と、のらりくらりとかわされて、とうとうキレた私に、お母さんは重い口をやっと開いた。
「……」
やっぱりそうか…言葉にはださなかったがそう思った。
宇宙が私より軽症なら、目覚めた私に会いに来ないわけがない。重傷でも命があるなら、お母さんが隠すわけがない。話さない、のは、つまりはそういうことだ。
「宇宙…」
それ以上、何の言葉もでて来なかった。