第二十六話 「俺と、結婚してください」
「俺と、結婚してください」
木霊さんが帰った後のリビングで宇宙が真剣な顔で言った。
あの日のような春の柔らかい日差しはないはないけれど、あの日と同じ真剣な顔が私の目の前にあった。
「どうしたの急に?」
でも突然すぎて私はあの日のようにうなずくことができなかった。
「退院してからの満月は俺からみると心配しすぎな気がして、正直しんどいな、って思ってたんだ」
「だったら……」
「でも、それって俺も悪かったのかなって。それに考えたんだけどさ、やっぱり俺がずっと一緒にいたいのは満月なんだ」
「宇宙……」
「だから、満月さん、俺と結婚してください」
そう言って私をじっと見つめた。
「私でいいの?」
おずおずと聞く私に宇宙は大きくうなずく。
「私も宇宙とずっと一緒にいたい……よろしくお願いします」
私がそう言うと宇宙はホッとしたように笑った。
あの日と同じ大輪の花が咲くような柔らかな笑顔だった。
「ごめんなさい!」
急にテーブルに額が付きそうなほど頭を下げた宇宙に私はびっくりする。
一体どうしたというんだろう?
まさか、紅花さんと何かあったとか?
嫌な予感に私は凍り付く。
そんな私に気づくことなく、宇宙は頭を下げたまま言葉を続ける。
「婚約指輪、まだなんだ」
「へ?」
予想外の言葉に変な声がでる。
「ごめん。やっぱり、なんだそれって思うよね。でも、ちゃんと理由があるんだ」
がばっと机から顔を上げて宇宙は必死に言葉を続ける。
その様子がおかしくて、その言葉が予想外で、私は思わず笑ってしまった。
「えっ? 怒ってないの?」
宇宙は驚いたように私の顔を見つめる。
「そんなことで怒らないよ。それに別になくてもいいよ。結婚しようって言ってくれた言葉だけで十分」
「だめ! それはだめ」
宇宙がすごい勢いで私の言葉を遮る。
「そうじゃなくて、指輪を用意するにはお店に買いに行かないといけないでしょ? 大切なものだから絶対実物を見て決めたいし」
「……う、うん? そうかな」
ちょっと宇宙の勢いにびっくりしながら私はうなずく。
婚約指輪って結婚するまでの間の短期間のものだし、正直、私としてはなくてもいいんだけど、とてもそんなことを言える雰囲気ではない。
「でも、そうなると、俺の帰りが遅くなったりするじゃん。それか休日に俺一人で外出するとか。でも婚約指輪を買いに行くからとか言えないじゃん」
「うん、そうなるかな」
まぁ、確かに実物を見て買うならそうなるかも。
プロポーズ前に婚約指輪を買いに行ってきます、なんて言えないしね。
「そうするとさ、満月をまた不安にさせちゃいそうで」
「え?」
続いた宇宙の言葉に私はびっくりする。
「理由も言わずに帰りが遅くなったり、出かけたりしたら、満月、心配するでしょ? これ以上、満月に不安な思い、させたくなかったんだ」
そう言って宇宙は私の手をとった。
「だからさ、ちょっと格好悪いけど、今度一緒に選びにいこう?」
私は宇宙の優しさに言葉が出なくて、ただただ大きくうなずくことしかできなかった。
そんな私を宇宙はとても優しい目で見つめていた。
その日の夜、私は一人で考えていた。
ずっと宇宙と一緒に二人で幸せになりたい。
だったら、宇宙には隠し事をしてはいけないんじゃないかって。




