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第二十五話 狂い始める歯車④

 翌朝、宇宙そらは昨日のことも、結婚のことも、何も言わなかった。

何もなかったようないつもの朝食。でも気まずい朝食。

「あのさ」

会社に向かう宇宙に思い切って声を掛ける。

「ごめん。急ぐんだ」

宇宙はそんな私の言葉を遮って玄関を後にした。


 どこで間違っちゃったんだろう?

中学三年生のあの春の日からずっと宇宙が好きだった。

もちろん喧嘩もしたけれど、宇宙も私もずっとお互いが好きで大切だった。

結婚して、平凡だけど幸せな家庭を築いて、ずっと一緒に生きていくんだと思っていた。

あの夏の日さえなければ、あの事故さえなければ。

そう思ってクローンを創った。宇宙そらさえ戻ってきてくれれば全てが元通りになると思っていたのに。

私はどうしたらいいかわからないまま、今日も職場へと向かった。


「大きな声をだすな」

仕事帰り、もうすぐ部屋に着くというその時、人通りの少ない道でそれは起きた。

背中に何か固いものが当たる。漫画とかでよく見るアレだ。

変質者? 防犯ブザー! 咄嗟にそう思うが恐怖で体が動かないし、声もでない。

「な~んちゃって」

背後の人物は凍り付く私の前に周りこみ、笑顔で私の顔を覗き込んだ。

「えっ、満月ちゃん? 嘘! そんなに驚くと思わなかった。ごめん、ごめん」

慌てるその顔を見て私はその場にへたりこんだ。

木霊こだまさ~ん」

「うわ~。本当にごめん。大丈夫? 偶然見かけたからつい。立てる?」

差し出された手をとり立ち上がる。

「本当に心臓止まるかと思いましたよ。珍しいですね。木霊さんがこんなところにいるなんて」

「うん。えっと、宇宙いる?この前、つい言いすぎちゃってさ。帰りに謝ろうかと思ったら、アイツもう会社にいなくてさ」

「えっと、私も仕事帰りなので……でも、どうかな……」

宇宙の名前を聞いて昨日からのことを思い出しあいまいな返事しかできない。

「そりゃそっか。ごめん。えっと、今からお邪魔してもいいですか? 奥さま」

歯切れの悪い私から何か感じ取ったのか木霊さんがわざと軽い調子で聞いてくる。

でも、私は上手に返事ができなくて、私たちはそこからは無言で歩いた。


部屋に明りがついていることを確認して私は思わず走り出していた。

「えっ、満月ちゃん?」

慌てる木霊さんの声も無視して私は急いで部屋のドアを開ける。

「宇宙!」

「えっ、何? って木霊?」

宇宙は急に抱き着いてきた私を受け止めながら、その後ろにいる木霊さんに気づいて驚きの声をあげる。

「おう、急に悪いな。この前のこと謝りたかったんだけど」

木霊さんの声に我に返った私は慌てて宇宙から離れる。

「まぁ、それだけだから、帰るわ。んじゃ、また会社で」

「お、おう」

「満月ちゃん、さっきはごめんね。お邪魔しました」

「は、はい」

そういって木霊さんは帰っていった。


「なんだ、アイツ?」

「宇宙、帰ってきてたんだね」

「えっ、あぁ、うん、仕事早く終わったから……って、満月、泣いてる! ごめん。今朝あんなだったから」

宇宙に言われて自分が泣いていることをに初めて気づいた。

「帰ってこないかと思った」

「ごめん」

気づいたら止まらなくて、私はまた宇宙にしがみついて泣いた。

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