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第二十四話 狂い始める歯車③

「なんでこんなことに」

宇宙そらの出ていった玄関を見つめて私は呆然とした。

どのくらいそうしていただろう。

「仕事、いかなくちゃ」

のろのろと支度をし、重い体を引きずるように仕事にむかった。

仕事中もずっと宇宙のことが気になって、ミスばかりだった。

宇宙に電話する? それともご両親に? 木霊こだまさんに?

どれも今はいい結果にならない気がして、結局何もできないまま一日は過ぎていった。


「ただいま」

玄関をあけ声をかけるが、真っ暗な部屋からは当然返事はなく。

暑いくらいの夏の日、日中の熱気が残る部屋で、なぜか私は震えが止まらなかった。


ガチャ

部屋の電気もつけず、ただリビングに座りこんで呆然としていた私は鍵を開ける音に飛び起きた。

「ただいま……満月みつき、まだ帰ってないの?」

「宇宙!」

「おわっ! びっくりした。電気ついてないから、まだ帰ってないのかと……」

「ごめんなさい!」

リビングを飛び出すと宇宙が玄関で靴を脱ごうとしかけた体制でびっくりして固まっていた。

そんなに宇宙の言葉を遮り、私は謝りながら宇宙に抱きつく。

「ごめんなさい!私、宇宙の気持ち全然考えてなくて。これからは気を付けるから、だから……」

「ちょっと待って。転ぶから。って、満月、俺の方こそ不安にさせてごめん。落ち着いて。とりあえず部屋にいこう?」

宥めるように私の肩を叩く宇宙に頷き、私は宇宙から離れてリビングに向かう。

ちゃんと宇宙がついてきてくれているか、チラチラ振り返りながら。


「お茶でも淹れるね」

そう言ってリビングの電気をつけた宇宙はそのまま台所へむかう。

「あっ、ごめんなさい。夜ごはんの準備してない」

気づいた私が謝ると宇宙は、いいよ、と優しく笑った。

「はい。ごめんね。不安にさせて」

そう言って宇宙は私の前にマグカップを置き、自分もテーブルを挟んで向かい側に腰かけた。

「ありがとう。ごめんね。私……」

宇宙からマグカップを受け取りながら私は謝ろうと口を開く。

「あのさ、満月」

そんな私の言葉を宇宙は遮った。

「俺ね。正直、最近の満月と一緒にいるのしんどいなって思っていたんだ」

宇宙の言葉に私は目の前が真っ暗になった気がした。

「でもさ、だからって今朝の行動は間違ってた。ちゃんと話すべきだったんだ」

私の前で宇宙が何か言っている。でも何も耳に入ってこない。

耳が、頭が、宇宙の言葉を理解することを拒否していた。

「あれだけの事故だったんだ。満月が心配するのはわかるよ。でも時間は過ぎているんだ。もう怪我も治ったし、仕事だって満月のいうとおり営業に戻りたいと思ってる。いつまでも心配しなくて大丈夫だから、満月も事故のことは忘れて、もっと先のことを考えていかないか?」

嫌だ。前みたいに一緒にいてよ。優しい宇宙に戻って。

私を好きだって、結婚しようって言っていた宇宙に戻って。

……もう私を置いていかないで。

「満月?話を聞いて……」

様子がおかしいことに気づいた宇宙が私の名前を呼ぶ、

「……しよう」

「えっ、何?」

私の口から溢れた言葉は小さくて宇宙の耳には届かなかったようで、宇宙が私に顔を寄せる。

「結婚しよう!宇宙。式なんていらないから今すぐ」

「えっ……」

私の言葉に宇宙は戸惑いを隠せない。

その顔を見て、私はハッと我に返った。

しまった、私、なんてことを。

窮屈だって、束縛しないでくれって言われたばかりなのに。

「ごめん。今のなし。気にしないで」

「満月?」

慌てて否定する私を見ると宇宙の目が戸惑いに揺れる。

「私、ちょっと疲れてるみたい。そうだよね。宇宙の言うとおりだよ。私、気を付けるね。……えっと、夜ごはん何にしようか?」

早口でそう言うだけ言うと私は台所へ向かおうと立ち上がった。

「待って」

そんな私の腕を宇宙が掴む。

「満月、大丈夫か? 今日は俺が作るから少し休んだ方がいい」

そう言って宇宙は私を座らせると代わりに台所へと消えていった。


その後、宇宙の作ってくれた夜ごはんを一緒に食べた。

お互いさっきの会話なんてなかったかのようにテレビを見ながらくだらない話をして、食事が終わったら交互にお風呂をすませてベッドに入った。

いつもと同じ夜。でも、二人の間で何かが決定的に食い違ってしまったような気がして、私はやっぱりずっと震えが止まらなかった。


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