第二十三話 狂い始める歯車②
***side宇宙***
「一体、何なんだ…」
仕事が終わり、久しぶりに実家に帰った俺を待ち受けていたのは、すぐに満月のもとに帰れと慌てる両親だった。
訳がわからず理由をたずねる俺に何もこたえず、ただ戻れと。
結局、ろくに話も聞いてもらえず、俺は実家を追い出された。
さすがにそのまま満月の待つ部屋に帰る気にもなれず、かといって木霊もあの調子だから転がり込むわけにもいかず…
どうしたものかと当てもなくふらふらとしていたら、知らぬまに紅花の働く書店に来てしまってきた。
とりあえず、いつもの席に陣取って本を広げてみるが、とてもじゃないが本を読む気にもなれない。
事故以来、異様なまでに心配性な満月、明らかに態度のおかしい両親。
一体、何が起きているんだ…?
考えたところで何もわからず、俺は一人ため息をついてテーブルにつっぷした。
「こんな時間に珍しいですね。」
かけられた声にふと顔を上げると目の前に紅花がいた。
どうやら仕事終わりのようで、書店のエプロンを外し、手にはリュックサックを下げている。
「あぁ、ちょっとね。紅花さんは仕事終わり?」
「えぇ、ここいいですか?」
隣の席を指差す紅花に俺は頷く。
「お仕事忙しかったんですか?こんな時間にくるなんて珍しいですね。」
「いや…」
紅花の言葉に俺は曖昧な返事をする。
「…どうかしたんですか?」
怪訝そうにたずねる紅花に今までのことを話してしまったのは、事情の知らない誰かに話をきいて欲しかったからかもしれない。
「…う~ん。難しいところですね。」
俺の話をきいて紅花は腕組みをして唸る。
「まぁ、帰るしかないんだけどさ。」
俺はテーブルに肘をついてため息をつく。
「いや、そこはネットカフェでも、ビジネスホテルでも、やりようはあると思いますけど。難しいのはそこじゃなくて。」
「えっ?じゃあ、どこ?」
紅花の言葉に俺は聞き返す。
「この手の問題はですね…」
そんな俺に紅花は神妙な顔で続ける。
「どちらの立場に立つかで答えは変わるんです。満月さんは客観的に見てよい彼女さんです。事故にあい、目覚めない彼氏をひたすら待ち、目覚めたあとは彼氏が内勤に左遷されても文句も言わず、自分の仕事をセーブしてまで支え続けている。」
「…内勤は左遷ではないよ。」
俺は一応否定しておくが無視された。
「そして、今の話から察するにそんな状況なのに結婚の話もでていない。」
「いや、事故の前に婚約はしていたよ。」
「事故後、結婚の話は?」
「してない。」
「じゃあ、でてないようなもんじゃないですか。」
「いや、それは乱暴すぎないか?」
「ともかく。彼女さんは確たる結婚の話もない保留状態にも関わらず献身的に尽くしてくれているわけです。違いますか?」
「…違いません。」
紅花の話に言い返せず、俺は渋々頷く。
「木霊さんとご両親は満月さんの立場なのでしょう。であれば非難されるべきは宇宙さんで、宇宙さんはすごすごと満月さんのもとに帰るしかないのです。」
その言葉に俺はまたテーブルにつっぷす。
「ですが。」
そんな俺の姿を見ながら紅花は続ける。
「私は満月さんより宇宙さんに思い入れがあるので。」
俺は目線だけあげて紅花を見る。
「正直いうと、ちょっと満月さんがウザいです。確かに事故で心配なのはわかりますが、そこまで献身的だと息が詰まります。木霊さんや両親が味方なのも外堀を埋められている感じがして、なんか策士な感じです。狡さを感じます。」
「いや、いいすぎだろ。満月に悪気はないんだ。いい子なんだよ。」
思わず言い返した俺に紅花は笑う。
「ふふっ。なんだかんだ言って好きなんじゃないですか。」
「えっ…」
驚く俺に紅花は続ける。
「帰ったらいいんじゃないですか?それで言えばいいじゃないですか。ちょっと束縛がキツくてしんどいって。いい子なんでしょ?話せばわかってくれますよ。」
「わかってくれるかなぁ…」
尻込みする俺の肩を紅花が叩く。
「そんなこと私がわかるわけないでしょ。でも、言わなきゃ何も始まりませんよ。」
「…そうだよな。うん。話してみる。ありがとう。」
「どういたしまして。」
お礼を言って席をたつ俺に紅花がひらひらと手を振った。
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