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第二十二話 狂い始める歯車①

「ただいま。」

夏祭りの翌日。

宇宙そらは書店の袋を片手に帰ってきた。

「あぁ、これ?」

気づかない間に凝視していたみたいで、宇宙が手元の袋を持ち上げる。

「ハードカバーは持ち歩きに不便だから文庫の方が便利なんだけどさ。この作家気に入っちゃって、文庫になるのが待てなくて買っちゃった。」

「そっか。」

私の浮かない顔に気づかず宇宙は嬉しそうに話を続ける。

「本なんて今まで興味なかったけど面白いもんだね。満月みつきにも今度貸してあげるよ。」

「それも紅花べにばなさんが教えてくれたの?」

「えっ…?」

「…なんでもない。うん、今度貸してね。楽しみにしてる。…今日は茄子のカレーにしたんだ。すぐ用意するね。」

思わず口をついてでた嫌味を慌てて取り繕うように言って、私は台所に向かった。


***side宇宙***

「お前さぁ、あの子誰だよ。」

会社の昼休み、久しぶりに社員食堂で木霊こだまに会うと開口一番この前の夏祭りで会った紅花のことを聞かれた。

「誰って、すぐそこの書店の店員さんだよ。ちゃんと自己紹介してただろ。」

「そうじゃねぇよ。…お前さ、満月ちゃんいるのに何が不満なんだよ。」

木霊の言葉に俺はびっくりする。

「何言ってんだよ。別に紅花さんとはそんなんじゃないよ。ただ本を教えてもらったり、ちょっと世間話したりしてるだけだよ。」

「お前さ、それ満月ちゃんが同じことしても許せる?」

「えっ?満月が?…って何考えてんだよ。」

俺は木霊の言いたいことがわかって苦笑する。

紅花と俺は単なる書店員とお客だ。木霊は何を心配してるんだか。

「…満月ちゃんのこと大切にしろよな。満月ちゃんは事故に遭って全然起きないお前をずっと待っていてくれて…」

「わかってるよ!」

俺は木霊の言葉を遮る。

「えっ?」

「…ごめん。わかってるから大丈夫だよ。…じゃあ、俺、仕事あるから。」

びっくりした顔の木霊を残して俺は社員食堂を後にした。

***********


「宇宙、最近疲れてない?」

夏祭りのあの日から気にしだしたらきりがなかった。

定時で仕事を上がった後の勉強も前は宇宙が前向きになってくれていると思って嬉しかったのに今は不安しかない。

「…大丈夫だよ。」

「本当に?」

「…そんなに心配しなくても大丈夫だよ。」

宇宙はいつもどおり優しいのに、その返事にどこか違和感を感じてしまう。

それが寂しくて、不安で、私は言ってはいけない一言を言ってしまった。

「あのさ、宇宙、このまま内勤でもよくない?前の仕事に戻りたい気持ちはわかるけど、帰りも遅かったし、今の方が…」

「なんでその話知ってるの?俺が営業に戻りたがってるって?」

宇宙が固い声で聴き返す。

「…あっ…えっと…木霊さんが…」

私の言葉に宇宙が急に立ち上がる。

「いい加減にしてくれよ!木霊まで使って俺を監視かよ!これ以上、俺を縛るなよ!!…ごめん。今日は寝るわ。」

そう言って宇宙はテーブルを後にした。


翌朝。

「少し一人になりたいんだ。しばらく実家に帰るよ。」

「そんな。ごめん。私…」

「満月は悪くないよ。…頼む。」

止める私を無視して宇宙は出ていった。

私は玄関で茫然と立ち尽くすことしかできなかった。

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