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第二十一話 いけなかった夏祭りをもう一度②

「どうかな?」

この日のために新調した浴衣を着ると満月みつき宇宙そらの顔をうかがった。

「うん。いいじゃん。」

そう言って笑う宇宙に満月は嬉しそうに笑う。

「宇宙も浴衣にすればよかったね。」

「いや、俺浴衣なんて着れないし。それとも満月が着せてくれる?」

いたずらっぽく言う甚平姿の宇宙に満月は「ばか!」と顔を赤くする。


「てや!」

シャカシャカ、パシーン。

手元のヨーヨーを面白がって宇宙にぶつけてみる。

「やめろよ。割れたらどうするんだよ。」

そう言って宇宙が笑う。

そんな宇宙を見て、来てよかったと満月は心から思った。

果たせなかった約束も、こうやって楽しい思い出に変えていけばいい。

私たちにはその時間があるんだ。

そのことがただ嬉しかった。


「あれ?宇宙さん?」

見知らぬ声に先に振り返ったのは満月の方だった。

「えっ、紅花べにばなさん?」

驚いた宇宙に、知り合い?と聞くより先に目の前の女性が話始めた。

「偶然ですね。近くに住んでいるんですか?…あっ?彼女さんですか?初めまして。宇宙さんがよくいらっしゃる書店で働いてます紅花です。」

「えっ、あっ、はい。満月です。えっと…」

ハキハキと答える紅花に気圧されながら満月もなんとか自己紹介をする。

「宇宙さん、こんなかわいい彼女がいるのに教えてくれないなんて水臭いなぁ。そうそう、宇宙さんが好きなあの作家の新作がでたんですよ。次お店にきたときに紹介しますね。」

「黙っていたわけじゃないんだけどさ。本当?ありがとう。」

ちょっと困ったような顔で宇宙が笑う。


私のこと黙ってたの?…聞かれもしないのに言うのは変かもしれないけど、黙ってこの子と楽しく話をしていたの?

好きな作家って誰?…私、宇宙に好きな作家がいるなんて知らない。そもそも本なんて読むっけ?

次って何?…仕事帰りに勉強しているんじゃないの?

「宇宙…」


「あれ?宇宙じゃん!」

聞きなれた声に満月は、はっとする。

私、今、宇宙に早く紅花と別れようって言おうとしてた。別に何があったわけでもないのに。


木霊こだま、どうしたの?」

「どうしたのじゃねーよ。仕事帰りだよ。仕事帰り。…って、満月ちゃん、かわいい!浴衣姿、最高!!…人が汗水たらして仕事しているってのに、お前は可愛い満月ちゃんといちゃいちゃかよ!

ズルだ!不公平だ!ビール奢れ!ビール!あんず飴もな!!」

「うるせーよ。ちゃんと有休とってんだよ。ズルとかガキかよ。奢らねーよ。ビールにあんず飴ってどんな組み合わせだよ!」

「満月ちゃん!宇宙が冷たい…って、そちらは?」

ひと騒ぎしてやっと紅花の存在に気づいた木霊が不思議そうな顔をする。

「紅花です。宇宙さんの会社の側の書店で店員をしています。」

「そうなんだ。木霊です。宇宙とは同じ会社。…っていうか、宇宙、満月ちゃんと言うものがありながらー」

「ちげーよ。紅花さんに失礼なこと言うな!偶然会ったの。…紅花さん、ごめんね。」

木霊の言葉に宇宙は慌てて紅花に謝る。

「いえいえ、気にしてませんから。それよりお邪魔しました。またお店で。」

「うん。じゃあね。…木霊も謝れよな。」

そう言って申し訳なさそうにする宇宙に紅花は笑顔で手を振って去っていった。


そんな紅花の笑顔を自分がどんな顔で見送っていたかも、

その宇宙の顔を固い表情で見つめる満月にも、

そして、そんな宇宙と満月に背を向けた後の紅花の顔も、

満月ちゃんじゃなくてその子に謝るのかよ、そう呟いた木霊の声も、

その場の誰もが自分以外の気持ちに誰も気づかなかった。

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