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第十八話 紅花との出会い①

***side宇宙***


「ふぅ…」

会社の側の書店に併設されているカフェでコーヒーを飲みながら一息つく。

窓の外はそろそろ夏の気配だ。

あの日からもう1年が過ぎようとしているんだな…

あの夏の日、あの場所にいなければ…そう思いかけて、思っても仕方ないことだと首を振り、手元のノートに目線を戻す。

内勤業務は基本的に定時に仕事が終わるので、仕事終わりにここで勉強をするのが日課になっていた。


「営業、戻れるのかな…」

ダメだ。考えても仕方ないことばかり頭に浮かぶ。

こんな日は一人で勉強していてもいいことはないとわかっているのだけど、かといって満月(みつき)の待つ部屋に帰る気にもなれなかった。

ひどい奴だと我ながら思う。

満月は良くしてくれている。あれだけの事故だったのだ。心配するのも仕方がない。

…わかってはいるのだけど、満月が時々見せるこちらを気遣う目がどうしても重かった。

あの目で見られると、いつまでもあの日から抜け出せないような妙な息苦しさに襲われるのだ。


何か気分転換になるような本はないかと書店コーナーに足を運ぶ。

とはいえ、もともと読書の習慣がさほどないのでどれがいいか全くわからない。

平積みされた本を眺めるがどれを選んだらいいものやら…


ふと本の整理をしている書店員が目についた。

「あの…」

いつもなら書店員に声をかけるなんてことしないのにやっぱりどうかしていたのだと思う。

気づくとその書店員に声をかけていた。

「はい。どうしました?」

満月より少し年下くらいだろうか?明るい茶色の髪を思い切りのよいショートにした女性が手を止めてこちらを見た。

「あっ、あの…」

彼女の返事を聞いてから急にどぎまぎしてしまう。

「はい?」

そんな自分の顔をみて彼女が怪訝そうに眉を顰める。

「おっお薦めの本、ありますか!?」

彼女の表情にますます焦って思わず大きな声がでてしまう。

「漠然としすぎてなんとも言えませんが…」

彼女は眉間の皺をさらに深くした後、黙り込む。

「すっすみませ…「お客様くらいの世代の方に人気があるのはこちらです。じっくり読みたいならこちらのミステリーもいいですし、軽いものということであればこちらは最近人気のある作家の方々の短編集です。こちらで好きな作風の先生をみつけるのもいいかもしれません。」

そういって彼女は平積みされた本の中でいくつかを指し示した。

「えっと…」

謝罪してその場を立ち去ろうとしていたのに予想外の展開に一瞬思考回路が停止する。

「それとも好きなジャンルや作家がありますか?」

「いっいえ。これにします。ありがとうございました。」

相変わらずの憮然とした表情で聞いてくる彼女に焦り、最後に紹介された短編集を思わず掴みその場を後にした。


これが自分と紅花(べにばな)との出会いだった。

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