第十七話 不安の影
「木霊が遊びにきたいって言ってるんだけど、どうする?」
夕ごはんの時に宇宙がそう言ったのは、職場復帰してから1ヶ月くらい。
引越しの片付けも終わり、二人の生活にも慣れてきた頃だった。
「…いいよ。」
少しためらいながら満月は頷いた。
正直言うと事故前の宇宙を知る人に会うのは怖かった。
満月から見ても今の宇宙は以前と全く変わらない。
でも何がきっかけでクローンのことに気づくかなんてわからない。
「無理しなくていいんだよ。」
「ううん。木霊さんに私も会いたい。今度はどんな彼女かねぇ(笑)。」
少し心配そうな顔をする宇宙に満月は笑って答えた。
「どんな彼女って(笑)。いい奴なのになんであそこまで続かないのかねぇ。」
「ねぇ。結構一途そうなのにね。」
「俺もそう思う。実は本当に好きな人は別にいる、とかだったりして。」
「え~。許されない恋的な?」
「的な?」
「「ありえな~い」」
そんなくだらない話をしつつも木霊の都合を聞いて近いうちに遊びに来てもらおうという話になった。
そして、その日。
「あれ?木霊さん、彼女さんは?」
満月は一人でやってきた木霊に不思議そうな顔をした。
今日は木霊と彼女と宇宙と満月の四人でランチの予定だったから。
「あっ、満月…」
しまったという顔で宇宙が声をあげる。木霊から彼女と別れたと聞いたのに満月に伝えるのをすっかり忘れていたのだ。
「満月ちゃ~ん、慰めて~。」
「えっ?まさかもう別れたんですか?嘘?何日続きました??」
「宇宙~お前の嫁が冷たいよ~」
「ごめん。満月。今日は木霊だけなんだ。聞いていたのに言い忘れてた。」
玄関に崩れ落ちる木霊に苦笑いしながら、すまなそうな顔で宇宙は満月に伝えた。
「そうだったんだ…」
「安心して、満月ちゃん。俺が二人分食べるから!満月ちゃんの料理は無駄にしないよ!!」
「いや残してください。無理しなくていいですから。」
「宇宙、お前の嫁が~。」
「そのくだり、もういいわ!さっさと部屋に入れ!お前が入らないと俺が入れない!!」
「満月ちゃん、キミの旦那が~。」
「はいはい、行きましょうね。」
「…お邪魔しま~す。」
二人に冷たくあしらわれ木霊はしょんぼりと部屋に入っていった。
「はぁ~美味しかった。ご馳走さまでした。」
「いえいえ、お粗末様でした。」
木霊さんの別れ話から、満月の知らない宇宙の学生時代の話、なんてことない話もしつつ、満月が心配していたようなこともなく楽しくランチは終わった。
ただ一度、宇宙に会社から電話があって少し席を外したときに木霊さんが急に真面目な顔をして満月に話しかけた。
「宇宙、大丈夫そう?」
「えっ?」
「いや…あいつが上司に早く営業に戻してくれって何度も言ってるって噂きいてさ。もともと営業希望だったし、ずっと内勤はしんどいのかなって思ってさ。」
「そんな…宇宙、いつも上手くいってるって…」
思いもしない話に満月は言葉を失う。
「あっ、でも職場でトラブってるとかじゃないよ。むしろ評判いいし。変なこと言ってごめん。でも、あいつ抱え込むタイプだからちょっと気になってさ。」
そんな満月をみて慌てて木霊は言葉を続ける、
「でも、満月ちゃんが側にいるから安心かな。今日の宇宙みたらなんか余計な心配だったかなぁって気がしちゃった。」
「木霊さん…」
「ごめん。ごめん。」
宇宙が電話を終えて戻ってきたことで話はそこまでになった。
「じゃあ、今日はお邪魔しました。お幸せにね!」
「はい。」
そのあとは何事もなかったようにランチは進み、詳しい話は結局聞くことができなかった。
でも、満月の中で漠然とした不安が残った。




