第十六話 帰ってきた幸せな日常②
「「お疲れ様~」」
二人で声を揃えて乾杯する。
一緒に暮らし始めて1か月。今日は宇宙と私の復職初日だ。
「初日はどうだった?」
夕ごはんを食べながらお互いの初日を報告しあう。
宇宙は営業職だったが暫くは内勤中心のサポート業務にあたることになったし、
私は担任を持つ予定だったが暫くは他の先生がたのサポートにあたることになった。
正直、お互い自分の仕事が好きだったから残念な思いがないと言えば嘘になる。
でも、あれだけの長期休暇をもらってしまったのだ。
仕事の感覚も鈍っているし、なによりそんな状態の私たちに居場所を残していてくれただけでもありがたい。
暖かく迎えてくれた職場の人たちには本当に感謝しかなかった。
「これから少しずつ取り戻していけばいいさ」
そういって笑う宇宙に私も頷いた。
「宇宙…」
体調は大丈夫?と言いかけて私は口を噤んだ。
いつまでもこんなこと言っていたら変だし、宇宙が自分の秘密に気づいてしまったら大変だ。
そう思って控えようと思っているのに、つい訊いてしまいそうになる。
「満月、どうしたの?」
急に黙った私を見て不思議そうな顔をして宇宙が尋ねる。
「えっと…おかわり、いる?」
…くっ苦しい。我ながらわざとらしすぎる話の変え方に思わず宇宙から目を逸らしてしまう。
「どうしたの?」
そんな私に宇宙はふっと優しく笑って問いかける。
「えっと…」
「言って。どうしたの?」
優しく私を見つめたまま根気強く問いかけてくれる宇宙に私は重い口を開く。
「あのさ…体調大丈夫?…って、ごめんね。いつもこればっかりで。」
自分が情けなくて俯いてしまう。私がこんなじゃダメなのに。
もっと私がしっかりしなくちゃ。私が宇宙を支えなくちゃいけないのに。
フワリ…
そんな私の頭を宇宙の手がそっと撫でる。
「大丈夫だよ。ごめんじゃないよ。心配してくれてありがとう。」
「ごめん。何度もごめんね。」
頭をなでる宇宙の手が優しくて涙が零れる。
こんなことじゃ宇宙に嫌われちゃう。鬱陶しいって思われちゃう。
「大丈夫。何度でもきいてって言ったでしょ。
満月は大丈夫?いつも早く帰ってきて食事の支度や家事をやってくれているけど疲れてない?
?」
宇宙の言葉に私は慌てて頭を振る。
「大変じゃない。私がやりたいの。」
「ありがとう。でも無理はしないでね。俺も一緒にやるからさ。」
「うん…」
しんみりしてしまった食事に申し訳ない気持ちが募る。
「うりゃ。」
急に宇宙が私の頭をくしゃくしゃとかき混ぜ始めた。
「えっ。ちょっと何するの??」
びっくりして私は宇宙の手を取る。
そんな私の手をスルリと抜けて、宇宙がまた私の頭をくしゃくしゃにする。
「やだ。やめてよ~。」
宇宙の手を止めようとする私と、そこから逃げようとする宇宙。
「ふふっ」
なんだかおかしくて思わず笑ってしまった。
「やっと笑った。」
宇宙が手を止めて私をみつめる。
「えっ…?」
「満月には笑っていて欲しいな。俺は満月の笑顔が好きだよ。」
「宇宙…ってどうしたの??」
宇宙の優しさにまた涙が溢れてくる…と思ったら目の前の宇宙が急にテーブルに突っ伏したのでびっくりして宇宙の肩に手をかける。
「ごめん…ちょっと待って。自分で自分のセリフの臭さにやられてるところ…ちょっと立ち直る時間をください。」
「何それ~。」
「笑うな~…いや、笑ってください。笑い飛ばして~。」
突っ伏した顔から除く真っ赤な宇宙の耳を見て、私は大爆笑してしまった。
宇宙、大好きだよ。ずっと一緒にいようね。




