第十二話 クローンができるまで②
「失礼します。担当の藤と申します。」
そういって入ってきたのは暗灰色のスーツに身を包んだ中年の男性だった。
差し出された名刺の名前には「藤」とだけ書かれてた。苗字も名前もなく、藤の一文字。
「藤…さん?」
「はい。本日の手続きのみならず、今後のサポートを専任で行います。何かございましたら名刺に書かれた電話番号にお電話ください。365日24時間、私が直接対応させていただきます。」
訝し気に名刺を受け取る私に男性は完璧なビジネススマイルで答えた。
「いや…はい、よろしくお願いします。」
聞きたかったのはそこじゃないんだけど…
宇宙に早く会いたくて私は続く言葉を飲み込んだ。
「では、始めさせていただきます。」
藤と名乗る男性はいくつもの書類を指し示しながらいくつもの説明をした。
そして私はいくつもの書類にサインした。
「ありがとうございます。こちらが最後の書類になります。こちらにご署名いただきますとあとは宇宙さまの最終設定を行ってお連れする形になります。」
「はい。」
やっと宇宙に会える。早速サインしようとすると藤さんが私の手を止めた。
「お待ちください。あと3点ほどご説明させていただきますので、ご署名はそれからになります。まず1点目、再三のご説明になり恐縮ですが、今回の対応はごくごく稀な特殊なものとなります。このことが世間に広く知られることは無用の混乱を招くことになりますので、第三者に情報を開示することは固く禁じられています。今回ではお二人のご両親以外に情報がもれた場合、どのような理由であってもクローンは回収となりますので、ご注意ください。」
「はい。…あの、1つ聞いていいですか?」
「…はい、なんでしょう?」
今まで質問らしい質問をしてこなかった私がいきなり口を開いたので、藤さんは一瞬驚いた顔をして先を促した。
「その…もしも…もしも、回収ってなった時って…その後って…」
「クローンは廃棄となり、その時点でご本人は死亡で処理されることとなります。なお、関係者の方々には一生監視がつき行動に制限がかかることになります。」
「えっ…」
淡々と告げる藤さんの言葉の内容に私は絶句する。
このことが世間に知られたら私たちだけではなく両親にまで大きな迷惑をかけてしまう。
どこでどう情報がもれるかわからないような時代なのに私はそこまでの責任がもてるのだろうか…
「ですが、ご本人の意図しないところで情報がもれたことは過去に例がありません。マスコミなどの無関係の第三者への対策は弊社で完璧にフォローさせていただきますので、その点はご安心ください。」
「そうですか。よかった。」
にっこりと笑って告げる藤さんの言葉に私は胸をなでおろした。
「なので、注意すべきは外ではなく内、自分自身ということです。」
そう告げる藤さんにさっきの笑顔はなかった。




