第一話 「俺と、付き合ってください」
「俺と、付き合ってください。」
春先の午後三時、柔らかい日差しの差し込む窓辺の席で、私は生まれて初めて男の人に告白された。
私、満月。当時、中学三年生。
目の前には真っ赤な顔で俯く彼、宇宙。当時、大学一年生。
高校の合格祝いに連れてきてもらったケーキ屋さんで、家庭教師だった彼は私に告白した。
今思えばとんでもない家庭教師だったわけだが、彼曰わく、「あの時は、今言わなきゃ会えなくなるって思ったから…」だそうだ。
初めての告白、ましてやそれがちょっといいな~なんて思っていた年上の家庭教師ともなれば、私の返事はもちろんOK。
その年の四月。
高校一年生になった私と、大学二年生になった宇宙。
歳も環境も違う私たちには(ありきたりではあるが)いろいろ壁があり、ケンカもしつつ、でも、二人でキチンと乗り越えてきた。
数年後の四月。
私は幼稚園の先生を目指して大学に入り、宇宙は就職した。
営業職に就いた宇宙は忙しかった。高校生のときより、もう少し大きな壁が立ちはだかったけれど、でも、2人でキチンと乗り越えた。
「俺と、結婚してください。」
春先の午後三時、いつかと同じような柔らかな日差しの中、私は生まれて初めて男の人にプロポーズされた。
私、満月。卒業目前の大学四年生。
目の前には真っ赤な顔の彼、宇宙。社会人四年生。
「……ぶっ。」
返事する前に思わず吹き出してしまった。
「なんだよっ。」
宇宙が少しムッとする。
「ごめん。だって、前にもこんなことあったなぁ~って。」
「確かに(笑)」
二人で笑う。
「「……」」
しんとした一瞬が二人の間を流れる。
「…はい。」
答えなんてわかりきっているのに、その瞬間、宇宙はホッとしたように笑った。その大輪の花が咲くような柔らかな笑顔を私は一生忘れないと思った。
これからの人生をずっと宇宙と過ごしていくのだと、あの時の私は当たり前のように思っていた。