子狐神祇官、飛び出す
今回はTRPG卓のお話。
コハギの中の人がGMを務めた卓のシナリオ開始直前から。
初夏のまだそこまで強くない日差し、そして穏やかに吹き抜ける心地よい風。ガタンガタンと揺れる馬車の中はすごく居心地がよくって。
思わず自分のしっぽを抱えてくるりと丸まればついついうとうとしてしまう、そんな午後。
「おーい嬢ちゃんー、そろそろ言ってた場所に着くぞー」
低めな〈大地人〉さんの声にピクリと耳が震える。
ふわふわと夢の中にあった意識がはっきりしていく中、そういえばなんでわたしは馬車のなかにいるんだっけ……っと思いめぐらせた、ところでガバッと身を起こした。
と、御者台から振り返ってこちらをやさしい目で見ていた〈大地人〉さんとパッチリ目が合ってしまう。
あ。
「よく寝てたな」
「ご、ごごごめんなさいっ!!!」
飛び起きる反動を使って慌てて正座。すると〈大地人〉さんはげらげらと大きい声で笑い出す。
うぅぅ…一応護衛ってことで同行させてもらっているのにー……寝てたら意味ないよぉ……。
「大丈夫さ。結局最初の〈棘茨イタチ〉の群れ以外は特に何も出てこなかったしな」
笑いが収まらない様子でこいこいと手招きされて、おずおずと御者台に近付く。
と大きな掌が頭の上に振ってきてワシャワシャと豪快に頭をなでられる。
お、思わずはぅっ?!と変な声が出てしまった……。
けど、頭をなでてもらえるのは、嫌いじゃない。
素直にワシャワシャされるがままになりつつ見上げると、〈大地人〉さんの目は笑ってた。
ちょっとだけ、それに安心する。
「確か〈氷茱萸〉(アイスシルバーベリー)はあの森の中で何本か木が生えていたはずだ」
馬車を見守るように並走していてくれたわたしの《式神》、大きな白狼の雪華を呼び寄せて、御者台からぴょんと飛び移る。
これくらいの軽業みたいな事には、さすがにもう慣れた。
その背後からかけられた言葉にこくり、と頷くとさっきから一転して心配そうな表情がちらりとのぞく。
「本当に嬢ちゃん一人で行くのか?」
その心遣いが嬉しくって。
だけど同時にそんな顔をさせてしまったことがちょっと辛い。
「大丈夫です!」
だからできるだけ笑顔で、心配させないように元気に返した。
確かに、わたしは〈大地人〉さんからみてもまだまだ子供で。
身長も平均より低いし性格も子供っぽいこともよく自覚しているし知らないこともまだまだ多い。
それにいくら付け焼刃の〈剣の神呪〉をスキルスロットに入れてたってわたしの得意なのは障壁だっていう事実は変わらない。
先頭に立っての戦いは、苦手分野。
だけど。
「わたしだって、〈冒険者〉ですから!」
満面の笑顔で、そう言い切って見せた。
冒険に挑まずして何が〈冒険者〉だろう。
その心だけは折れちゃいけないって思うから。
「いってきますっ!」
それだけ叫んで、わたしは森へと飛び出した。
コハギのビルドの軸となるスキルは
・〈鈴音の障壁〉〈禊ぎの障壁〉 障壁スキル
・〈パシフィケーション〉 ヘイト低下呪文
の二つ。
なのでこの子単体での戦闘は『ほぼ』できないに等しいのです