子狐神祇官、吹っ切れる
「えぇぇぇ?!12才?!」
救出劇から、数日経って。
正式に〈三日月同盟〉の一員になれたわたしだったけど。
町中の人たちが活気づく中でどうしても表に出る気になれなくって。
「ってことは小学生?!」
気がついたら〈ハーメルン〉から一緒に〈三日月同盟〉に異動していた五十鈴さんにピクニックに連れだされてた。
「じゃ、じゃないですよぅ?!……一応。中1です」
バタバタと手を振って抗議する、ものの。
中学一年の5月なんて小学生と大差ない、のは身を持って感じてる。
後半すこししぼみがちになったのは、その小学生から成長できていない私自身が嫌になってるから。
知ってるもん。まだまだ子どもだってことくらい。
「あぁそっか、4月に進学したばっかり?」
もそもそと下を向いておにぎりをぱくつく、と敬語禁止ーっと言葉と同時におでこにピシっとデコピンが飛んでくる。い、痛くはないけど…行き成りやられるとびっくりするよぅ…。
「やけに身長低いなぁって思ってたんだけど、そっかロールじゃなくって本当にその身長なんだ?」
おにぎりを手にしていたのとは逆の右手でおでこをすりすりしてる間にも、五十鈴さんは話し続ける。
それがありがたくもあり、少しだけ羨ましくもあり。
「あ、うん……132cm。お姉ちゃんに勝手に測定表見られて設定されちゃって…」
そうやって話をし続けるのはわたしは苦手だから。話しかけてもらえるのは嬉しい。
でも、それで思い出してしまったのは…ちょっと痛い。
「なーるほどー…って、そのお姉ちゃん、はー…ログインしてたら〈ハーメルン〉なんか入らないよね」
それを五十鈴さんは気づいていないのか。
うん、と一回だけ頷いてから手にしていたおにぎりを口の中に放り込んでしまう。
話の内容は難しかったけど、でも一生懸命説明してくれたマリエールさんの顔を思い出しながら、まだ本当かわからない予測を口にする。
「んっと、マリエールさんたちが言うには、なんだけど」
手を伸ばして、ステータス画面を呼び出しながら頭の中で言われた言葉をもう一度繰り返す。
えっと、確か。
「わたしは、お姉ちゃんと同じパソコンから〈エルダー・テイル〉やってたの。それで〈大災害〉の時にはわたしの、コハギのアカウントでログインしてたから…わたしだけ、巻き込まれたんじゃないかって…」
アクティブになっていたアカウント?がわたしのだったからわたしが巻き込まれた…だっけ。
確かそんな風に言われた気がする。その証拠に。
「お姉ちゃんのキャラ、ログインになってないし…」
空が透けて見えるステータス画面から呼び出したフレンドリストの数少ない名前の中にはお姉ちゃんのキャラ名がちゃんとある。
だけど、それはずっと灰色のまま。この世界に来てから一度だって光ったことはなかった。
わかっては、いるんだけど。
きゅっと胸の前でにぎりしめた拳が、痛い。
「コハギちゃん?」
顔を落としちゃって見えないけど、でも心配そうな五十鈴さんの声。ふるふると強く頭を振って、嫌な思いを振り払う。
駄目だ、泣いちゃ。またあのどうしたら良いかわかんない状態に戻っちゃう。
今はもう頼っていいってわかってる人達がいるんだから。抱え込まない。
「大丈夫っ」
パッと立ち上がってくるりと五十鈴さんの方へと向き直る。身体の動きに合わせてふわりと揺れる真っ白な小袖にも、もう大分慣れた。
「何したらいいのか、とかはまだわかんないけど。でも、わたしもみんなにお返ししたいから。頑張れることしたいから」
本当はまだ大人の人に声かけられたりすると怖くて逃げちゃうし、わたしのスキルの組合せだと一人じゃ依頼も受けられない。それに、レベルも30で止まったまま。
できることなんて、あまりにも少ない。だけど。
わたしにもできることがきっとあるって、思うから。
「だからもう泣かないって決めたのっ」
笑ってればええんやよ。
そうマリエールさんは教えてくれたから。
それが最大の恩返しだから、って言ってくれたから。
あの人みたいに、笑顔で人を和ませられるように。
できるだけ笑っていたい。
ようやくこのこらしさが出てきてホッとしてます。
本来、オドオドしつつも前向いて歩く子なんですけど…
〈ハーメルン〉いたらそんな余裕もないですからね。