子狐神祇官の異世界落下
さらさらと風が流れる音がする。
ぐるぐるする頭を抑えてパチリ、と目を開ける。
さんさんと降り注ぐ日光。それにそよそよと揺れる木の葉っぱ。
見たこともない景色。
「……ここ、どこ……?」
ふらり、と立ち上がろうとすると膝にまとわりつく長い布の感触。見下ろせば、真っ赤な袴に白い着物みたいな…確か小袖、ってお姉ちゃん言ってたっけ。
あれ、これってもしかして……〈エルダー・テイル〉でのコハギの装備…?
立ち上がって慌てて周りを見渡せば、わたしの周りの人たちが大きい声で騒いでいるのが見えた。
「なんだよこれはぁぁぁぁっ?!」
「〈エルダー・テイル〉なのかこれ?」
「ログアウトできないぞどうゆうことだ!!」
怒った声、泣き出す声。
嫌な感情ばかりが辺りに広がっていく。
駄目だ。ここにいちゃいけない。巻き込まれる。
とっさに、それだけ思って走りだす。何処に行けばいいのかなんてわかんない。わかんないけど、ここにいつづけちゃいけないってことだけはわかるから。ただそれだけで走る。
どうしよう、何処行けばいいんだろう。
どうしてこんなことになっちゃったんだろう。
だめだ、考えがまとまんない。取り敢えずわかるのはこの悪意の中にいたら自分にまで伝染しちゃうってこと。だから、逃げないと。
確か、わたしはお姉ちゃんと一緒にこっそりパソコン付けてゲームしてて……。
思い出して、走っていた足が動かなくなる。あれ、なんでわたし一人なんだろう?すぐ横にお姉ちゃんがいたはずなのに。一緒に大型アップデート…だっけ?待ってたはずなのに。
「お姉ちゃん……?」
くるり、と振り返って人混みの中に目を凝らすけど。そこにはやっぱりお姉ちゃんの影はなくって。
町中のあちこちから響いてきた怒号や泣き声からただ逃げたくってまた走りだす。
どうしよう、どうしたらいい?
どこにいけばいい?
「わかんないよぉ……っ!」
聞きたいけど、誰にも聞けなくって。
取り敢えず今はただどこかで一人になりたかった。
ポロポロと零れ落ちる涙を必死で堪えながら、わたしはただ人のいなさそうなところへと走っていた。
コハギ
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この時点では神祇官Lv20前後のガチ初心者ちゃんです(・ω・)ノ