旧校舎の黒い君
暗い暗いただ白い世界。
それが僕の原風景。
暗い残酷なまでに白さで塗りつぶされた空間に僕と一人の少女がいる。
その少女は僕に何か必至に訴えている。
僕にはそれが聞こえない。
少女の声はただ白の静寂に塗りつぶされ、消えていく。
何故、ここに居るのか。 少女が誰だったのか。
僕は何なのか。
それすらも分からない。
全てが白と少女で構成された暗い世界。
それが僕の原風景。
「先輩、起きてください」
突然の背中への激痛に僕は深い眠りから意識を戻す。
「そこ。私の指定席って昨日も言いましたよね?」
痛みから意識を外に向け、ようやく僕は口を開く。
「……だからって蹴り落とす事は無いじゃないか」
そう言いながら僕は黒髪の少女、黒浄緋奈子を睨みつける。
「それに、これを買った来たのは僕だ」
「先輩はただ買っただけでしょう。ここまで運んだのは私です」
黒浄は声を荒げる事もなく、普段通りにソファに身を委ねる。
髪が無造作に揺れるその様が美しい。
「先輩」
「ん? 何だよ」
「今日って……何曜日でしたっけ?」
「水曜日だ」
「衝撃的な事言っていいですか?」
「何だよ」
「私、制服5日間着替えてません」
「汚ねえ!? お願いだからそのソファから降りてくれませんか!?」
「太陽が綺麗ですね」
「動けよ!!」
何か部室が獣臭いと思っていたが、まさか後輩の体臭だったとは。
「お前風呂くらい入れよ……」
「失礼ですね。私シャワーは一日2回浴びる派です」
「何でだよ……逆に汚いよ……」
黒浄が持ってきた書類を片付けながら尋ねる。
「今日はお客さん来ないかね」
「さっき外に出た時にはチラホラと居ましたけど」
「いや、そっちじゃなくて、普通の」
「あぁ……今日は来ないんじゃ無いですか?」
そう黒浄は怠そうにソファで寝返りをすると、瞬間部室に大きなノック音が響いた。
「……あ、あの! ……祓い屋さんでしょうか!? 頼みたい事があるんですが!」
「さあさあ、どうぞ。汚いけど中入って」
僕がドアを開けると、そこには黒浄と同じ制服を着た背の小さな女の子が居た。
「……ホントにあったんだ……」
「ん?」
「い、いえ……旧校舎に人が……居るなんて、驚きまして……」
「あぁ……まぁ、勝手に占拠しているだけなんだけどね」
僕の頭に本が飛ぶ。
「痛いだろ! 何するんだよ黒浄!」
「占拠しているわけじゃありません。ちゃんと使用許可は申請しました」
「申請しただけだろ……」
彼女に意識を戻す。
こんなバイオレスな先輩を見せられ彼女を驚いているに違いない。
「ごめんね。僕は部長の久我命です。これがもう一人の……」
「こ、黒浄先輩ですか!?」
「えっ……?」
彼女は僕の話を完全にスルーして黒浄の元へ走り向かう。
「黒浄先輩ですよね!? 二年の黒髪の君こと黒浄緋奈子先輩ですよね!?」
「え、えぇ……私が黒浄ですけど……」
あの黒浄が動揺している。正直僕もドン引きだ。
大人しい女の子だと思ったのに……
「あ、あの……用事があってきたんだよね……? その話を聞きたいんだけど……」
「あ、はい! 申し遅れました! 私一年の原百合と申します!」
彼女は身体は動かさずに礼儀正しく僕に向かって挨拶をする。
「原さん……で、頼みってのは……」
その僕の言葉を聞いて思い出したかのように、今度は僕に飛びかかる。
「先輩! 助けてください! 私……死ねないんです!」




