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いぬもたぬきも歩いたらいろいろあたるらしい


「うわ~・・・。じじぃ、えげつねえ~」


まったくのん気に船のてっぺんから覗き込んで言ったもんである。


「もっとゆっくりやってくれなきゃ意味ねぇじゃん。

 俺が侵入する前に片付いちゃったよ・・・。」


船の横で口元を紅く濡らした巨大な狸を見ながら綜嗣は息を吐いた。

それは深い深いため息というものに違いない。

それが聞こえたのかたまたまか宗雅がこちらを見て


にたり・・・。


と意地悪く笑ったのである。

途端。


ズズン!!

ゾゴゴン!!


どうしようもないほどの揺れと、音。

巨体を船にぶつけているのである。


「うっわ!あんのくそジジィ!!俺がいるのわかってやってやがる!」


綜嗣が座り込んでいたてっぺんにはちょうど良いことにアンテナが立っており、

それにつかまって震源が巨大な狸の地震に耐えているのである。

『ウルトラマンが降り立った足元はこれくらい揺れるんじゃなかろうか?』

などとどうでもいいことを考えながら綜嗣は足の下のほうからわらわらと

出てきた兵隊を見ていた。またお決まりの黒服姿である。

今度のは格好は同じだがさほどマッチョではない。


「倭の異能者だ!!迎撃しろ!!」


宗雅を見て呆然としただけのその他大勢とは違い一人必死に号令を出したやつがいる。

声に反応しその他大勢も動き出したが、おう!とかやあ!とかいいながら

切りかかってみたり、殴りかかってみたりするばかりだった。

どうやら融合者は今回は出てこないらしい。

もはやアリが数匹群がっているようにしか見えない。黒服だけに。


「あ~ぁ。あんたらじゃじじいに殺されるぞ~・・・っと」


綜嗣は出てきたものがすべて宗雅に行ったのを見てひょいっとドアの前に降り立つと

手を振りながら中へ消える。

それを見届けた宗雅はふんっと鼻を鳴らすと二度目の食事に取り掛かったのである。





船の中は意外にも狭く感じた。

一本の廊下がありその左右にいくつかの部屋が入れ違いに配置してある。


「でけえ図体の割にゃあずいぶんとせせこましい廊下だなぁ、おい」


人っ子一人いないのはこの狭い廊下にはありがたいことではあったが。

遙か先に見えるドアが開こうものなら隠れる場所すらないからである。

実に静かなのは宗雅が陽動(なの・・・か?)してくれているおかげであろう。

最初の部屋にさしかかる。

その次の部屋も、そのお次の部屋も、同じ装飾のドアが並ぶ。

どうも客室のようにしか見えないが、こんな身内しかいないであろう

誘拐犯の巣窟に客室もくそもないような気がする。

まぁ、自分はその誘拐犯からさらに誘拐してやろうという極悪人であるわけだが。


「あら~・・・?な~んかおかしくないか?」


自分はいくつ部屋をとおりすぎた・・・?

振り返ってみてもいくつかのドアが並んでいる。

むき直しても同じような数のドアが立ち並ぶ。


「ふ・・・ん?気のせいか?」


又歩き始める。が、違和感をぬぐえない。


「おかしい。やっぱりおかしいぞ。さっきからいくつドアをとおりすぎた?

 さっきから前も後ろもドアの数が変わっていない!」


『ふははは。腐っても異能者か!思考すら衰え、普通ならば気づきもしないのだがな!』


「! へっ。やっと俺の今夜のお相手がきまったってぇとこかあ。

 いやに静かすぎるとは思ったけどなぁ」


『単身乗り込んできたことはほめてやろう。外で騒いでいる狸も貴様の連れか?』


「そんなところだ。

 ところでな、俺は先を急がなきゃならない身でね。

 早々つきあってもいられないんだ。さっさと通してくれ」


『そうつれないことを言うなよ。さっき自分で言ったじゃないか。今夜の相手だってな』


「しかたねえなぁ・・・。そんなにいうなら相手してやるぜ・・・っと!」


グボッ・・・


まるでヘドロに勢いよく手をつっこんだような音をたてて自分の影につっこむ。


「へへ・・・つっかま~えた~っと!」


にこにこしながら引き出した右手には猫のように首を捕まえられた男が

逃れようと必死に暴れていた。こいつも黒服だ。


それと同時に空間にひびが入り、ぱりぱりと小気味よい音を立てながらはがれていく。


「ばばば・・・ばかな!!なんでこんな、簡単に!!この、タウンゼントの力が!」


「ばかばかしいだろ。おまえの力じゃ俺のお遊戯の相手にもなんねーんだよ」


「ふざけっ・・・るなよ!!!」

掴んでいた手に何かが絡まる。

相手の手と言わず足と言わず、植物のようなツタに変わっていく。


「ふぅ・・・ん。神仙の類じゃねえな。あやかしか」


「だまれ!我が神はこの呪われた力すら許してくださった!祝福してくださったのだ!

 この姿を見て生きて帰れると思うなよ!!神の力の前にひれ伏して死ね!」


「あ~あ~。自分の力すら、神とやらの許しがなくちゃまともにつかえねえのかよ。

 なにもかも神のせいにできれば楽でいいわ。

 そんなだから、そうまでしても俺に勝てねえんだよ」


腕に巻き付いていたツタはすでにほぼ全身を包んでいた。

それでもまるで何もないかのように笑みを崩さず立っている。


その笑みはただ張り付いているだけの仮面にすぎないことを、タウンゼントは悟った。


「そんじゃ教えてやろう。荒御霊の戦いってやつをなぁ」



ぐにゃああ


そう表現するのが正しいだろう。

綜嗣の躰は歪み、崩れていく。

すべて崩れ熔けていく。

その崩れた液体のような、気体のようなものから

無数の、文字通り枝分かれした、狗の顔が、あらゆる方向に向かって生えていた。


「ななななああああ・・・なんだ!なんだおまえ!!なんんだあぁぁああ?!」


『異能者の端くれがこの程度で怯えるな。仮にも異能者の中でも最強と称される融合者だろう」


「ふざけるなぁあ!!おまえのは融合じゃない!!化け物そのものじゃないか!!

 ああああああ!喰うな!ああ!喰われちまう!ああぁぁぁうあああ!!」


「ふん。おまえより誇り高い異能者はたくさんいるぞ。融合者じゃなくてもな。

 黙って死ね。おまえは俺の餌だ」


あらゆる方向から。

あらゆる場所を。

大小様々な狗が、いや、正確には狗の顔が。

喰らう。

喰らいつくしていく。


「あああああああああぁぁああぁぁああああああぁああ!!!」


『最後までうるさいやつだな。植物な分、下手に生命力があるからよけい災難だったな。

 最後までしっかり生きていられる。おめでとう。そしてさようなら』


大きな。廊下いっぱいに広がった狗の顔が。

通り過ぎていった。

空間は割れ、本来の姿を取り戻したようだ。

それまでの客室のような部屋も、狭い廊下もなく。

ただ、鉄の板と機械が敷き詰められた無機質な通路。

その一角に赤黒い唯一の有機物であろう水たまりがある以外は何の変哲もなく。

ただ、無機質が広がる廊下にはもはや誰もいなかった。




「ふーむ。腹の足しにならん奴らじゃのう」


すっかり人の姿に戻った宗雅である。なにやら肉を食いながらぼやいている。


二人ほど足の下にボロぞうきんのような人間を敷いてはいるが。


「こ、この・・・化け物めぇ・・・」


「ふん。そんなことは言われんでもしっとるわ。わしらは物の怪の類よ。

 だからこそわしらはおまえらみたいなのも喰らう。

 何か勘違いしとるようじゃからのう。この際はっきり言っておこう。

 家畜を喰うのに貴様らはどうだ?苦しいか?泣けてくるか?

 苦戦するか?同情するか?うまいか、まずいか、だけだろう?

 最早わしらにとって貴様らはその程度のもんじゃ。

 違うのは家畜のようにわしらは貴様らを飼っていないというだけじゃ。

 食物連鎖で言えば貴様らの上に立つのがわしらよ。

 何が異能者じゃ。笑わせるな、餌どもが。貴様らの魂、喰らい尽くしてやるぞ」


にこやかに笑いながら骨をはき出す。どうやらしゃぶり尽くしたらしい。


どう見てもそれは、人の手であったが。


「ぐ・・・。いつか!我々の神にひざまずくのだ!貴様のような邪悪なものに!我々は!!」


「黙れ小僧!!同胞はらからかどわかし、幽閉した貴様らがわしを邪悪というか!

 何もせねばわしらもわざわざ貴様らを取って喰おうなどとは思わんよ!

 わしらの家に土足で侵入した愚か者に、分をわきまえさせる。

 己の立場というものを知らしめてやるのじゃ。

 貴様らがそれを邪悪というのなら、謹んで受けてやろう!!」


「絶対正義である我らが神のお役に立ててやろうというのに・・・!

 おとなしく従えばこちらもおとなしく・・・」


「それがいらんお世話だというておるのじゃ。押しつけがましい正義など迷惑千万!

 貴様の正義はわしにとっての正義ではないわ!

 貴様は自分の娘が新興宗教に誘拐されて、『どうぞお役に立ててください』と笑っていえるのか?」


「我々は新興宗教などとは違う!!」


「ふん。ばかめ。主観でしか物事を計れぬ愚か者め。貴様はもう飽いた。

 もう一人は・・・・死んだか。ならばおまえも死ね」


三度目の食事はずいぶん荒っぽいものだったとは、後の綜嗣の談である。

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