仲間詩織先輩は一流な香りがする。
『最終下校時刻の15分前になりました。グラウンドおよび体育館で使用中の部活動は、直ちに片付けを開始し、時間内に完全下校してください』
夕方の暗くなり始めたグラウンドに放送部の放送が流れた。
現在、まだ部活をやっているのは、陸上部の棒高跳びだけだ。
「先輩、片付けましょ」
「まだ15分あるって言ってるじゃん」
「いやそうじゃなくてですね」
「最後だから」
仲間詩織は、陸上部のエースだ。
だからちょっとわがまま。
安里千里が止めたにも関わらず、仲間詩織は走り出してしまった。
仲間詩織が棒高跳びのバーの上に来た時、仲間詩織はふっと消えた。
「えっ?」
夕方の暗闇で見失っただけ?
安里千里と松木沙耶と城井加奈子は、マットの方へ走った。
「えっ?」
「消えた?」
「マジ?」
3人は、なす術もなく消えた地点を、見つめた。
『こらーーー棒高跳び!またお前らか!さっさと帰宅しろ!』
教頭の声だ。
この警告を無視すると、教頭が怒鳴り込んで来る。
その放送の声と同時に、仲間詩織はバーの上の地点に姿を現し、そのままマットに落ちた。
「仲間先輩!」
マットに寝ころんだままの仲間詩織は、
「みんな、いいもの見つけたよ」
と微笑んだ。
陸上部の棒高跳び部員は女子のみで構成される。
なぜなら仲間詩織に憧れた女子の集いになってしまっていたから。
現在棒高跳び部員は、仲間詩織の他は、安里千里、松木沙耶、城井加奈子の3人だ。
「とりあえず!仲間先輩、お着換えしましょうね。早く出ないとまた教頭がうるさいから」
と恥ずかしがる仲間先輩の着替えの手伝いをするのが、いつもの日課だ。
1流の選手の身体は、強く美しく、何か違うオーラを放っていた。
その身体に触れると、自分も特別な存在になったような気持ちに成れた。
「わたしたちとは違うんだ」と言うのが3人の共通認識だった。
3人になすがままの仲間詩織は、
「わたし、あの瞬間異世界に行ってきたの」
それぞれのフェチに従い、松木沙耶が仲間詩織の胸に顔を埋め、城井加奈子が、仲間詩織の足の匂いを嗅いでいる時、仲間詩織の髪に櫛を入れている安里千里は、仲間詩織の真剣な目に見つめられた。
「異世界に?」
「多分、放送部が【帰れコール】を入れた時間に、あの地点に到達すれば、異世界に入り込める」
その内容に、安里千里、松木沙耶、城井加奈子の3人は、動きを止めた。
「あちらの出口は、異世界を見渡せる塔の様な木の上にあるの。そこには話せるモモンガがいて、色々話してくれたわ」
「えっでも?」
安里千里の疑問符に、仲間詩織は、
「こちらとあちらでは時間の流れが違うの。あっちの1日が、こちらの1秒って感じかも」
仲間詩織が真剣に話している時に、口元を触っても気にしないので、安里千里は仲間詩織の口元に触れた。仲間詩織は気にすることなく、話を続けた。
「それでね、そのモモンガが言うには、塔の様な木が倒されるかも知れないって、だからね、わたしはそれを阻止すべく、木の下に行ってみようと思うの」
「「「ええええええ!そんな危ない事、やめてください!」」」
3人同時に同じ言葉が出た。
「もう決めたから無理」
仲間詩織の素早い回答に、3人は呆然とした。
仲間詩織の強い意志を伴う言葉に対しては、3人は無力だった。
「「「わたしも一緒に行きたい!」」」
「駄目、貴女たちは普通の女子高生でしょ、世界はそんなに甘くない」
仲間詩織の意見は大体正しい。
その通りなのだ。3人は普通の女子高生で、仲間詩織はそうではない。
その強靭な身体つき、その強い意志、その素早い判断能力。
どれをとっても普通の女子高生とは言えない。
安里千里は、その強い視線の仲間詩織の目を見た。
「異世界のその出口に行くだけでも駄目ですか?」
仲間詩織は、数秒考えて、
「あの場所は安全そうだから良いよ」
と言ってくれた。
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『最終下校時刻の15分前になりました。グラウンドおよび体育館で使用中の部活動は、直ちに片付けを開始し、時間内に完全下校してください』
の放送の後、仲間詩織に続いて、棒高跳びを飛んだ。
その地点に着くと、パッと景色が変わった。
「わあ」
目の前には美しい異世界が広がっていた。
そして可愛らしいモモンガが出迎えてくれた。
仲間詩織は、素早く甲冑姿に着替えると、
「ここから離れちゃ駄目だよ」
と安里千里に告げた。
仲間詩織の言葉は絶対な安里千里は、静かに頷いた。
仲間詩織は、安里千里の頭を撫でると、3匹のモモンガの武者と伴に、木を降りて行った。
安里千里は、モモンガたちが持ってくる木の実を食べながら、仲間詩織の帰りを待った。幻想的で美しい異世界を眺めながら。
完




