ねえ、お母さま、聞いてちょうだい
寒い、冬の夜。
あるところに、小さな家が、ありました。
そこには、セレーネという、小さな女の子が、住んでいました。
「今日は、星がきれいね。」
窓の外を見たセレーネは、さびしそうに、そうつぶやきます。
「そうだ!お母さまと、約束していたんだった!」
セレーネは、何かを思い出しました。
ちょっぴり大きいコートを着て、ランタンに火を灯して。
あっ、お母さまの大好きなリンゴも忘れてはいけません。
カゴいっぱいのリンゴと、明るいランタンをぶら下げて、セレーネは外に出ました。
約束とは、何なのでしょう?
さふ、さふ、さふ。もぎゅっ、もぎゅっ、もぎゅっ。
白い雪の上を歩くたびに、そんな音がなります。
「おや、セレーネ。こんな夜中に、どこに行くんだい?」
雪うさぎが、聞いてきました。
「お母さまといっしょに、お空の星を見るの。」
「そうかい、気を付けてな。」
一言二言だけ話し、セレーネはふたたび歩きはじめました。
さふ、さふ、さふ。もぎゅっ、もぎゅっ、もぎゅっ。
やがて、小さな丘にたどり着きました。
丘のてっぺんには、大きな木。
セレーネは、木の根もとに座りました。
まわりには、誰もいません。
「ねえ、お母さま、聞いてちょうだい。」
セレーネは、ひとりで話しはじめます。
「あのね、あのね、最近、シルヴァが優しいの。なんでだろうね?」
誰かに話すように。
「こないだなんて、花束も作ってくれたの。お気に入りの杖に飾ってくれて。嬉しかったなあ。」
家族に話すように。
「それでその時、不格好なプロポーズまで言われちゃって!それで、2人で笑ったの。でも、不格好でも、なんでか、かっこよかったな。」
母親に話すように。
「来年は、シルヴァもここに来てくれるって。楽しみにしててね。」
木のそばに、リンゴの入ったカゴを置いて。
セレーネは、立ち上がりました。
「また来年ね、お母さま。」
ランタンの火が消えないうちに。
きらきらと光りまたたくダイヤモンドに見守られているうちに。
セレーネは家へと帰りました。
リンゴがカゴからこぼれ落ちました。




