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第6話(前編) 同盟都市ミラノーラへの旅路

藤沢澄江──アクエリスは祝福を受け、村長の老婆に見送られながら、杉本真也は大森剛志とともに村の外を歩いていた。

杉本の背には杖と、リュックとはとても呼べない大きな革袋が背負われ、中には食料や日用品が詰まっている。

大森は腰に斧槍を携え、重量のある大盾の代わりに軽量の小型バックラーを持ち、後に続いていた。


女神の神託に後押しされる形で、杉本は村長の提案を受け入れ、同盟都市ミラノーラへの旅路を選んだのである。


足元には砂利道が続く。

陽光を浴びる大樹の下、朝露に湿った草の匂いが心地よく漂う。


「大森、澄江さん。最初に確認しておきたい。ミラノーラまでは三日ほど歩けば辿り着けるんだよな?」


路程を少し外れ、日陰となる大樹の下で、杉本は澄江たちに話しかける。

秋から冬にかけての気候だろうか。少し肌寒い空気の中を進む旅路は、じんわりと体温を上げ、うっすらと汗が滲む程度の疲労で済んでいる。

しかし、長い旅程では無理をするべきではない。


早めの休息を取りながら、杉本は地図を杖でなぞるように示す。

村長が用意した羊皮紙の地図は、所々擦り切れており、使い込まれた歴史を感じさせる。

地図には、北東の山脈を越え、川沿いに進むルートに、煤を擦り付けたような順路が記されていた。


「山越えは険しいが、昔から使われている迂回路なら、比較的安全だろう」


視界の広い草原を通るルートでは、何かと危険も多い。

大勢で進む大商団であれば話は別だが、少数で進む旅路では、広すぎる視界が逆に仇となることが多々ある。

身を潜める場所がある山脈越えのルートが、古くから最も多く使われてきた旅の道筋なのだろう。

大森は頷き、地形を確かめながら地図と道筋を確認する。


澄江は杖の結界を軽く揺らしながら、後続の村人二人にも念のため祈祷結界を広げていた。

道程に不安はないが、都市への旅路には何が待ち構えているか分からない。

厄介な存在に目を付けられるのは得策ではない。

杉本・藤沢・大森の三人に加え、オレリウムで共に戦った村人二人が後方を守る形で、少し距離を取りながら続いてきている。

念には念を──慎重を重ねた安全策で、ミラノーラへの旅程に臨む。


「杉本様、少々お話しておきたいことがございます。剛志君も、今は何を話しているのか分からないと思うけど、少しだけ聞いててくださいね」


「!……はっ!」


大森剛志は、澄江が唐突に切り出した話に驚いた表情を浮かべ、恭しく返事をする。

礼を守りながらも、どこか嬉しそうに口角を上げていた。


大森剛志と藤沢澄江の二人は、オレリウムの村を故郷とする幼馴染である。


そのすべてをここで語ると長くなってしまうので簡単にまとめるが、

大森は子供の頃、「澄ねぇ、澄ねぇ」と澄江の後をついて回るような子だったらしい。

今でこそ巨体を生かしたタンク職であり、防衛の要とも言える力強さを持つ大戦士だが、

幼い頃は身体も小さく、近所の子供たちと遊んでは泣かされて帰ってくるような、脆弱な子だったという。


その脆弱だった子が、これほど大きく育ち、自分を守ってくれる頼もしい存在になったことに、

嬉しさが蘇ってきたのか、澄江は涙腺が緩み、時折目頭を拭う仕草をしながら「懐かしいね」と優しい笑顔を浮かべる。


そして、正直驚いたが──実は村長の老婆は、澄江の祖母らしい。

もう何年も前に、帝都ルーメンへ修行を兼ねて旅立つ際、家族としての会話ではなく、聖者と平民のような話し方になってしまったのだそうだ。

その時、身辺警護の護衛として抜擢されたのが大森で、主従関係を周囲に示すために「澄江様」「大森」と互いに呼ぶようになったという。

今日のように「剛志君」と呼ばれたのは、もう何年ぶりだろう──と、大森は嬉しそうに語った。


しばしの間、想い出話に花が咲いた。



だが澄江は先日、十二使途に昇格した貴人だ。

すぐに主従の関係に戻り、大森は表情を硬くし、気を引き締める。

そんな大森の立派な姿に、また涙腺が緩んだのか、澄江は目頭を押さえながら、杉本に話を切り替えた。


「少し脱線してしまいましたね、すみません。そろそろ本題に入りましょう。

杉本様はパイシス様……長瀬様の前世でお知り合いだった方と思ってよろしいですね?」


そう話す澄江に、今さらながら敬称で呼ばれたことに、杉本は気恥ずかしさを覚える。

「様なんてやめてくれ、普通に呼んでくれ」と頼みながら、会話を続けた。


「前の世界のことを理解できるのか?……君は、別の世界があるなんて話を信じられるのか?

それに、十二使途なんだろう?……俺は敵方の人間じゃないのか?」


「問題ありません。私も……地球人でした。

十二使途として洗礼を受けた時に、断片的ではありますが、思い出したのです」


杉本に、敬称で呼ぶことにもう慣れてしまったからと断りを入れながら、澄江は話を続ける。


「この世界は、異世界神たちの実験場──いえ、箱庭です。

すべての知識を得たわけではありませんが、この世界を構築する倫理の端に触れました。

私もまた、アバターの“二巡目”の人生のようです」


衝撃の告白に、杉本も大森も目を白黒させて驚いていたが、澄江は気にせず、さらに話を続けた。


「十二使途の洗礼を受けると、ある程度この世界の知識が得られるようです。

そして……洗脳でしょうか。異世界神様を讃え、忠実な臣下となる意思が芽生えるのを感じました。

ですが、この洗脳は長瀬様が遮ってくださったようで、私は洗脳されるには至りませんでした。

どういう倫理で洗脳を抑えたのかは分かりませんが、朧げだった意識が突然クリアになり、はっきりとした自我を保つことができたのです」


「今の私はアバターです。

本体──本物の自分の身体は、天空に浮かぶ月のどこかで、今もスリープ装置で眠らされています。

このアバターの身体が朽ちようとも、本体さえ無事なら、何度でも蘇ることができる存在なのです」


「本体からアバターへ知識をインストールし、何度でも人生をやり直せます。

ですが、この生まれ変わりには精神に大きな負荷がかかるらしく、七〜八回も繰り返すと、精神は回復できないほどに摩耗し、廃人のようになってしまうそうです」


「その廃人となる前──限界を迎える寸前の、朽ちかけたゾンビのような存在になったアバターは、一か所に集められ、新たな人材を(さら)ってくるよう命じられます。

それが……杉本さんや長瀬さんが被害に遭った、赤羽事件の真相です」


──そんな馬鹿な!!


澄江の話は、脳天に雷が落ちたかのような衝撃だった。

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