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第5話(後編)神々の加護と人の疑念「選択」

長瀬が言い終えるのと、時が動き出すのは、ほぼ同時だった。

ギリギリのタイミングで、時の魔術が限界を迎え、停止していた時の流れが再び動き出す。


辺りには風がそよぎ、鳥たちは天空高く舞い上がる。

村の人々もまた、何事もなかったかのように活動を再開した。


「天の神よ、祝福よ──この地、この場所、この時をもって、英雄十二使途の同胞に藤沢澄江を加え、アクエリスの名を与える」


均整の取れた顔立ちと、背中まで伸びた黒髪の青年──長瀬良治は静かに頷き、揺るがぬ低音で告げた。

その変貌した態度と口調に驚きつつも、杉本は静観する。

これは……演技なのか?


長瀬の言葉に促されるように、緊張した面持ちで藤沢澄江が青年の前へ進み出る。

よく見れば、簡素ながらも丁寧に着飾った服装をしていた。

澄江や大森からは何も聞かされていなかったが、この祭事の主役として計画されていたのだろう。


「我は“パイシス”、帝都ルーメンより遣わされた神の使途。──全能神シイゴ様に代わり、新たな同胞アクエリスへ神々の叡智と守りの祝福を与える」


広場の空気が一瞬にして凍りつき、村人たちは歓声を止めて息を飲んだ。


祭服姿の人々は、十二柱の英雄像を台座に置き、一斉に剣を構えて、パイシスとアクエリスに祈りを捧げる。

眩いばかりの荘厳な光が、神官たちが掲げる剣から大空へ放たれ、天で収束した光の渦が、神妙な表情で祈るアクエリスの元へ降り注ぐ。

祝福を身に受けたアクエリスは、若干苦悶の表情を見せたが、神光を収束させると、穏やかな顔でパイシスの隣に並び立った。


ひとしきり儀式の舞踊や演説が終わると、村人たちの喝采が響く中、二人は祭壇裏へと引き下がっていく。

その時、祭壇の最後の段を降り切ったあたりで、杉本が唐突に動いた。


「待ってくれ。真相を探りたい。君が何者で、何を為そうとしているのか──」


杉本は杖を構え、戦う覚悟さえ厭わない態度を見せる。

予定外の行動に、澄江──アクエリスは動揺の表情を見せるが、冷たい視線で彼女を制すると、パイシスは荘厳な態度で杉本に対峙した。

氷のように冷たい仮面を被った表情で、静かに言葉を返す。


「君はたしか杉本と言ったか。何が知りたいのだ?

この世界の骨組みは神の業。神の使途として配置された私たちは“世界進化の鍵”──

だが、それすらも君たちの預かり知らぬ計画の一部に過ぎない」


長瀬は言葉を紡ぎながら澄江に視線を向ける。

その一連の動作に何かを感じ取ったのか、村長がはっと意識を取り戻したように動いた。


「お待ちください、パイシス様。この者は澄……アクエリス様と共に、教会跡地にて不可思議な現象に出くわしてしまったため、一時的に不審な感情に捕らわれた可能性があります。

何やら、噂話として伝わる禁断の実験──アバター化の現場を見てしまったと聞き及びました。

恐れ多くはありますが、疑念が残ったままのアクエリス様も、心情ただならぬ想いを抱えているかと。

つきましては、事の真相を究明すべく、同様の噂が広がる同盟都市ミラノーラへ、噂の調査として、また修行の一環として旅に出ていただくのが宜しいかと愚申いたします」


汗が噴き出るような表情で必死に懇願する村長を見ながら、パイシスは何やら思案にふける。


──ヤバい。

どうやら長瀬の進行を止めてしまったことは、思っていた以上に重大な罪だったようだ。

杉本は、村長の必死の懇願を見て、さぁっと後悔の冷汗を流した。


だが……時の止まった世界で語られた事柄を思い返しても、先に起こったアバター実験の真相を知らぬままにしておくことはできなかった。

この世界独自の事情があるとしても、倫理的に人を攫って作り、働かせるなど、どうしても正しいとは思えない。


なぜ辺境の地でアバター実験が行われていたのか。

なぜ秘匿されているはずの実験が、噂として広がっているのか。


この世界を管理する異世界神への不信感も、あまりにも大きすぎる。


けれど、感情に任せて突っ走り、周囲を巻き込んで事を荒立ててしまった杉本も、さすがに状況の悪さを痛感していた。

どうこの場を取り繕うかと困っていたその時──祭壇の灰色の石がゆらりと揺れ、闇と光が交錯する。

背後で囁くような、女神の声が辺りに響いた。


「私は遠い別の世界、地球を司る神、テラ──我が使途、杉本信也よ。選択の道を示しなさい」


汝は、老いた長の想いを尊重し、旅立つのか。

汝は、古きより親交を結ぶ友を連れ、この場から逃げ出すのか。

汝は、己の信念を貫き、世界の破壊を望むのか。


──さあ、我が眷属、杉本信也よ。選びなさい。


女神テラの荘厳なる声が、辺境の地オレリウムに高らかに響き渡る。

再開された祭事の中で、杉本は長瀬との再会を果たした。

止まった時の中で語られた異世界の事情──それは杉本の理解を超える複雑な情報だった。

そして時は動き出す。無知が招いた苦境に、女神テラは神託を授けた。


**次回、第6話「同盟都市ミラノーラへの旅路」**

手慰みに語られる澄江と大森の過去。十二使途の追憶。

世界知識に知らされた赤羽事件の真相に、杉本は激しい怒りを見せる──。

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