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第4話(後編) 囁かれる実験「真相の考察と余韻」

杉本が振り返ると、瘴気が凝縮されたような黒い影が二体、静まり返った室内へと滑り込んできた。

闇の眷属――これはヤバい。直感でそう感じた。


──朽ちた皮膚に木の根のような瘴気の触手を纏い、低く唸る目だけが淡く光っている。


「退くぞ!」


杉本は瞬時に判断して叫んだ。

その声に無言で応えるように、大森が斧槍を構え、澄江は祈りの結界を展開する。

杉本は〈フィジカルブースト〉を発動し、影の一体を杖で殴り飛ばす。

しかし影は分裂し、1体が2体に、2体が4体に――まるで“幽世”から“現世うつしよ”へ這い上がる餓鬼のように、次々と群がり顕現する。


狭い室内では陣形も取れず、澄江は後退しながら守りの結界を張り直す。

村人二人は恐怖に震え、足がすくんでその場に呆然としていた。

揺らめく影の群れが距離を詰める。

濃厚な瘴気が淀んだ空気を圧迫し、呼吸を妨げ始めた。


「ぐっ……!」


大森は手にする大盾で村人を守るように立ち回っているが、明らかに劣勢だ。

杉本も意地で影を払い除けるが、数の質量差は埋められない。


もう限界か──そう思われたその瞬間、澄江が最後の力を振り絞り、光の大閃きを放った。

防御に、補助に、戦闘にと、澄江の負担はあまりにも大きい。

けれど、蝋燭の火を吹き消すような一瞬の閃光が眷属を一掃し、室内を白い光で満たした。


闇の幻影は断末魔の呻きと共に消え、瘴気も空気の震えとともに霧散していった。

澄江は膝をつき、大粒の汗を額から拭う。

大森は両手で斧槍を支え、荒い息をついた。

辛うじて勝利を収めたものの、気力も体力も限界寸前だった。


「や…やったか…?」


だが、部屋の奥。歪んだ檻に括りつけられた数人の村人の周囲には、まだ多くの闇の影が潜み、こちらの出方を伺っていた。

無理だ。

結界の余波で一時的に優勢に持ち込んだものの、捕らわれた実験体を解放する余裕はない。

通路に戻り、速やかに撤退すべきだ。

杉本は苦渋の決断を下す。


怯える村人二人を優先して通路へ戻し、追い迫る幻影をけん制しながら、必死で階段を駆け上がる。

教会跡を出ると、明るみに踏み込めないのか、影はその場に留まり、やがて追撃を諦めて消えていった。

無事に撤退を終え、なおも追ってくる気配がないか警戒しながら、一先ずの安堵を得る。


「村長に報告しましょう。これは他の村や国、もっと大きな組織に委ねるべきです。」


澄江と大森は、無事撤退できた安堵から僅かに笑みを浮かべるも、捕らわれた村人を救えなかった後悔に、泣きそうな表情へと変わる。

けれど……今は是非もない。

負傷者がいないかを確認し、傾きかけた日が落ち切る前に村へ戻るべく、帰路を急ぐことにした。


村で囁かれていた噂は、事実だった。

しかも、禁忌の実験——アバター化の現場に、まさに出くわしたのだ。


澄江と大森は、捕らわれた人々の安否を気遣っていた。

だが、あれはおそらく……これから村へ溶け込む前の“村人”だったのだろう。


と、すると——


村へ溶け込むための意識調整は、すでに済んでいたのかもしれない。

明日か、明後日か。いつになるかはわからないが、数日後には新たな村人が、何食わぬ顔で集落に加わっていることだろう。

アバター調整の最中に出くわして妨害してしまったため、実際どうなるかは未知数だが。


長老邸に戻る頃には、夕闇が迫っていた。

教会跡から追手が這い出てくるかもしれない。

村へ戻る道すがら、杉本は杖を強く握り直し、再び気を引き締めた。



それにしても……ずいぶんと雑な世界だな。

なんとなくだが、この世界がどういう意図を持って存在しているのか、朧げながら見えてきた。

だが――


──この実験の真意は何か。誰がそれを指揮しているのか。

──立ち塞がる影は、どこから現れるのか。

──そもそも俺は何をしに来たんだ?……そうだ!長瀬!長瀬はどうなった?


ぐるぐると堂々巡りする思考の中で、回想と答え合わせを繰り返していた杉本は、突然視界が晴れたように思い出す。

──闇の眷属から聞こえた言語……“placement of heroes”……あれは、たしかに英語だった。

瞬時に聞き取れはしなかったが、“placement of heroes”の意味は――英雄の配置?


……。


謎は深まるばかりだが、とりあえず今日はもう寝たい。

いや……寝る。絶対に寝る。


帰宅先では、今もまだ宴会の真っ最中だろう。

長老は、アバター実験が本当に行われていたという話を信じてくれるだろうか。

他の村人も、信じてもらえるだろうか。


疲れ果てた足取りで、長老邸の灯りを目指して歩き出す。

影の追手を気にしながら気を張っていた精神も、疲労で上書きされていく。

今はもう、帰って寝ることしか考えられなかった。

──古の言い伝えは、神々によって現実に起こされた実験だった。

標本のように吊るされた新人類。“英雄の配置”という謎めいた言葉。闇の眷属との邂逅は、撤退という形で幕を閉じた。


次回、第5話「神々の加護と人の疑念」

祭事は再び始まり、杉本は旧友・長瀬との再会を果たす。彼は、止まった時の中で異世界の知識を語り始める——。

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