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第17話(前編) 光と闇の終焉「世界樹の間」

深紅の光が夜空を裂き、帝都ルーメンのティーベリウム大聖堂を包み込む。

聖者の鐘が最後の音色を奏で、その響きは光へと変わり、四人の身体を優しく包み込んだ。


次に目を開けたとき、彼らはすでに別の場所に立っていた。

そこは星の中心を模した、天と地を繋ぐ大樹の根元――『世界樹の間』。

天を突き抜けるほどの巨木がそびえ立ち、枝葉は無数の星々を抱くように輝いている。

大地は新緑の衣に覆われ、空気は澄み渡りながらも、どこか張り詰めた緊張を孕んでいた。


「人の子よ……本当に我を倒せるとでも思っているのか?」


その声は、かつての少年のような響きではなかった。

地底から響き渡るような重音、魂そのものを震わせる慟哭の声。

世界樹の根元に散らばっていた闇水晶の粒子が、見えぬ力に引き寄せられ、黒き渦を描く。

やがてそれは人の形を模り、漆黒の闇が産声を上げた。


異世界神シイゴ――その化身が姿を現す。

その存在は、ただそこに立つだけで四人の身体を圧し潰すほどの重圧を放っていた。

心臓は鉛のように重く、呼吸は細く途切れ、筋肉は石のように硬直する。

澄江の額には冷や汗が滲み、大森の腕は震え、早乙女の矢は弦にかけられたまま動かない。


それでも――彼らの視線は逸れなかった。

ただ一点、闇の神の化身を捉え続けていた。


「それでも俺たちは戦う!」

杉本が声を張り上げる。

その叫びは重圧を打ち破り、仲間たちの胸に火を灯した。

「戦わねばならない理由がある! 悪を許せぬ心が、俺たちにはある!!」


その言葉に応じるように、世界樹の枝葉がざわめき、星々が瞬いた。

澄江は胸に手を当て、女神テラの加護を呼び覚ます。

「光よ、我らを導け……!」

彼女の掌から溢れた浄化の光が仲間を包み、重圧を和らげる。


大森は斧槍を構え直し、低く唸る。

「ならば俺は盾となろう。仲間を守り抜くために!」

その足元に大地の力が集まり、石のように揺るがぬ守護の気配が広がる。


早乙女は静かに息を整え、結晶弓を引き絞った。

「影を射抜く矢は、必ず届く……」

彼の矢先に宿る蒼白の光は、闇を裂くための誓いそのものだった。


シイゴは嘲笑を浮かべ、世界樹の幹に手をかざす。

「愚かなる人の子よ。世界そのものが我である。星も、大地も、命も、すべては我が影に帰すのだ!」

その言葉と共に、世界樹の根元から闇の触手が無数に伸び、空間を覆い尽くす。

枝葉に宿る星々が次々と掻き消され、光と闇の奔流が激しくぶつかり合った。


四人はその奔流の中で、互いの存在を確かめ合うように立ち続ける。

光と闇の境界はもはや曖昧で、世界そのものが揺らいでいた。


澄江──アクエリスは深く息を吸い、呼吸を整えて魔力を増大させる。

大聖堂を覆う静寂は、まるで氷の上を歩くように脆く、ひとつの音で砕け散りそうだった。

彼女はその静寂を切り裂くように、低く澄んだ声で詠唱を紡ぐ。


「コンセントレーション……多重結界……清浄結界……」


言葉が重なるたび、澄江の周囲に光の層が幾重にも重なり、四重の結界が彼女を包み込む。

その姿は、先ほどまで傷に苦しむ少女ではなく、神の代行者たる凛とした神官そのものへと変貌していた。

光の膜が淡く脈動し、闇の瘴気を押し返すたび、聖堂の空気がわずかに澄んでいく。


「我は星、我は万物、我は理……それでも……抗おうとするか?」


シイゴの声が大聖堂全体に響き渡る。

その言葉は音ではなく、存在そのものが放つ圧力として四人の心臓を締め付けた。

重圧はさらに増し、澄江の結界すら軋みを上げる。

大理石の床にひびが走り、仲間たちは次々と膝をついた。


それでも――


「それでも、だ!!」

杉本真也は声を張り上げ、己を鼓舞するように強く叫んだ。

〈フィジカルブースト〉の詠唱が彼の身体を駆け巡り、筋肉が熱を帯びる。

重圧に押し潰されそうになりながらも、彼は立ち上がり、杖を握る手に力を込めた。

その姿は、闇を拒む灯火のように仲間を奮い立たせる。


大森剛志は歯を食いしばり、巨体を揺らしながら立ち上がる。

大盾を構え、剣を天へ突き立てると、低く力強い声が響いた。

「ストレングス! ライフフォース! インティミデイション!」

鎧の隙間から赤い紋様が浮かび上がり、彼の身体を覆う。

その姿はまるで動かざる城壁。

仲間を守るための決意が、彼を揺るぎなき守護者へと変えていた。


「マジック・ラピッド・アローズ!」

早乙女悠真は地に膝をついたまま、結晶弓を引き絞る。

放たれた二本の矢は蒼白の光を帯び、空を裂いて飛翔した。

矢はシイゴの結界を穿ち、瘴気を押し返す。

その瞬間、神殿の尖塔が軋むように唸り、空気が震えた。


「無駄だ……何をやっても届きはしない。」


シイゴの声は冷ややかで、しかしどこか愉悦を含んでいた。

確かに、纏う闇は早乙女の矢に貫かれ、一度は霧散した。

だが、それはほんの束の間の幻影に過ぎなかった。


再び、つむじ風が大聖堂を駆け抜ける。

砕け散った闇の粒子が粉塵のように舞い上がり、渦を巻く。

その中心から、再びシイゴの影が浮かび上がる。

まるで「これこそが始まりだ」と告げるかのように。


四人は互いに視線を交わす。

まだ決戦は始まっていない。

これはただの牽制、互いの力を測るための前哨戦に過ぎない。

だが、その一手一手が、すでに命を削る覚悟を試すものだった。


そして、次の瞬間こそが――

本当の戦いの幕開けであることを、誰もが理解していた。


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