第15話(中編)祝祭の影に潜む神柱浄化「女神の祝祭」
各自のスキルや戦術の確立は、今後の戦闘における優劣を左右する。
そして、自分にできること・できないことを正確に知ることは、勝敗に大きく影響する。
「なんとか……間に合ったか?」
杉本と大森の模擬戦を遠目から眺めていた早乙女が、つぶやくように言う。
近くでは、瞑想しながら魔力操作の修行をしていた藤沢澄江が、いくつもの魔法球を周囲に浮かべていた。
電撃を帯びた球体が、パチパチと放電を繰り返している。
「来週、帝都ルーメンで神々を祭った祝祭が行われる。
大地に感謝を捧げ、女神テラに信仰を捧げる祭りだ。
この星の主神シイゴも、どこかでこの様子を伺っているだろう。」
早乙女は続けて、澄江の肩口にちょこんと腰かけている小さな人形に話しかける。
「長瀬、君も動き出すつもりだろう?」
長瀬を模したミニアバターは、コクコクと頷くような仕草を見せた。
彼と人形は通信魔法で接続されており、直接会話はできないが、こちらの状況は把握しているはずだ。
約2週間という短い期間だったが、三人は修行を終え、聖なる戦いの本番へと戻っていく。
神に挑む戦いは、これが最初で最後になるかもしれない。
薄暗い雨雲に包まれたミラノーラの曇り空は、いつ降り出してもおかしくない空模様。
その不穏な空は、未来への不安を暗示しているようだった。
どんよりとした空は、三人と早乙女に休息を促すように湿気を帯び、やがて少しずつ雨粒を落とし始める。
「杉本、大森。雨も降ってきたことだし、今日はこれまでにしよう。
話もあるから、汗を流したらいつものミーティングルームで。」
早乙女は修行に集中する三人に声をかけ、アーカム魔導学院の外れに間借りした研究棟室内へ退避するよう促し、その場を後にした――。
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時は流れ、祝祭日当日――。
深紅の暁光が、帝都ルーメンの石畳を染め上げる。
帝都を貫く大通りは、今宵の女神テラの祝祭を待ちわびる市民で溢れ返っていた。
四方に立ち並ぶ聖柱には光の紋様が描かれ、夜空へ向けて優雅な祝賀の彫像が鏡面のように輝いている。
杉本真也、藤沢澄江、大森剛志の三人は、群衆に紛れて祭壇へと続く大聖堂前の広場に潜入していた。
早乙女悠真は隠密行動中で、別行動を取っている。
長らく人々の魂を拘束していた次元倉庫を解放し、新生の光をもたらした誓いを胸に、闇の神シイゴの「神柱」を探し出す――。
シイゴと繋がる神柱を破壊できれば、倒すことはできなくとも、多少のダメージは与えられるはずだ。
広場の中心と繋がる表通りでは、道が掃き清められ、賑やかさの中にも凛とした雰囲気が漂っている。
遠く離れた異界の地でも崇められる女神テラの祝祭。
この祝祭は、何を求めて催されているのだろうか。
人混みに紛れ諜報しつつ、シイゴに繋がる黒き野望を突き止めることが今回の目的だ。
「ここが大聖堂前か……盛大だな」
大森が声を潜めて見上げる。
夜空を覆う花火が打ち上がり、天の裂け目から女神テラの姿を映す鏡面が煌めく。
「人混みをかき分けて、祝祭の最奥を目指そう」
杉本が杖の先で地図を指し示す。
立ち並ぶ出店からは食欲をそそる香りが漂ってくる。
肉を焼く音、楽しげに話す人々の声。
中には酒を片手に酔い潰れ、さっそく衛兵のお世話になっている者までいる。
広場の人混みを避けて賑わいを遠目に見張る衛兵の何人かは馬に騎乗し、聖堂の横から鋭い眼光を覗かせていた。
澄江は静かに咳払いし、俯瞰結界で周囲のマナの流れを読み取る。
「聖堂の裏手ですね。女神の祝福に紛れて、何らかの力の奔流が見えます。
おそらく、マナを取り込む魔術が設置されています」
四方を聖柱で守られた聖堂の背後に立つ古びた石柱――それが、シイゴの遺した「神柱」だと直感する。
漆黒の瘴気を微かに帯びて揺れるそれは、スキルを発動していない杉本の目にも認識できた。
石柱へ通じる花道の途中では、黒甲冑の衛兵隊が並び、市民を警戒している。
聖堂隣の塔の上からは、遠隔石弓が行き交う人々を見張っていた。
「ここで正体を知られれば強制退場だな。慎重に侵入していこう」
杉本は〈スニーキング〉の呪文を唱え、大森は盾を構えながら身を屈め、澄江は光の囁きで防御結界を張った。
と、その時、一騎の騎馬隊が石畳を轟かせて進み、隊長格の矢が放たれる。
瞬間、杉本は〈フィジカルブースト〉で身体を強化して身構え、大森は盾を掲げて跳ね返す。
だが、神柱への道は閉ざされてしまった。
「ちっ……そう上手くはいかねぇか」
どうやら澄江の魔術反応で見破られたようだ。
魔法を使ったのは失敗だったか。
注目を浴びた先に、巨体の大森がコソコソしていれば、警戒されて当然だったかもしれない。
だが……思った以上に警戒が厳しい。これは――。
祝祭の女神に対する敬意から警戒を強めていたのか。
それとも、異世界神シイゴが張った罠だったのか。
どちらにせよ判断がつかない今は、無力化に留めておいた方が良いだろう。
杉本は、衛兵隊と戦うことにはなったが、殺傷沙汰にならなかったことに、心の底から安堵していた。




