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第4話(前編) 囁かれる実験「眷属たちの噂話」

村に戻ると、廃坑の迷子捜索と一夜の戦いを乗り越えた祝賀会が再び開かれていた。

祝福の祭儀とやらは、迷子騒ぎで延長でもされたのか、まだ中断されたままのようだ。

祝勝会は静かながらも活気に満ちて、飲み歌い、騒ぎは次第に熱を帯び、ほろ酔い気分の村人は、時が流れるにつれ、楽しさと賑やかさが増していった。


・・・なんだろう。この感じ・・・既視感?まるで昨日と同じだ。

それに、大事な祭儀は行わないのだろうか? そんなに軽々しく中断できるものなのか?

まぁいい。村には村のルールというものもあるだろう。俺が口を出す問題ではないな。


杉本は心の中に、幾つもの疑問が沸き起こっていたが、周りの雰囲気に溶け込むように、素知らぬ顔で酔っ払い達の中に混じっていた。だが、宴の賑わいをよそに、村長の老婆が重い面持ちで杉本達を呼び寄せた。


「昨夜、古井戸のほとりで不思議な光を見た者がいると報告があった。おそらくじゃが・・・新たな村人が降臨したのかもしれん。それと・・・冒険者殿。この話は知っておるかな?」


ニチャリと笑う村長の笑顔に、どこかゾクッとしたものを感じたが、極力表情に出さぬよう注意深く話に合わせて受け答えする。


「村人の降臨?何でしょう・・・想像も付きませんが・・・どんなお話でしょうか?」


「邪な実験——“アバター化実験”の噂じゃ」


それに乗ってきたか!と言わんばかりに、村長は機嫌を良くし、得意げに話し始めた。

どうやら自信ありの話のようだが・・・何だ?百物語でもするつもりなのだろうか。



アバター化実験——。

それは、どこからともなく噂されるようになり村に伝わる伝説のような言葉だった。


どこから現れたのか、旅人でもなく、また村で生まれたわけでもない。

突然、村の住人に加わり、違和感も無く村へ溶け込んでゆく。

そんな人々が村には、いや、村にも居るのだと言う。


その者達は、ある日突然、村人の輪に加わる。

そして、昨日も一昨日も・・・まるで何年も前から生まれ育ったかのように自然とそこに居る。

当然、その者達は家も無ければ、明日食べる食料も持ち合わせていない。


だが、なんとかなるのだ。


次の日には、いつの間にか村はずれに新しい母屋が出来ていて、食い扶持を賄うべく畑もあり、また時には家畜も飼っていた。

不思議な事に村の大工が言うには、その母屋は老朽化が進んでいたので、一度取り壊して新しく建てたと言う。

それが何時だったかは忘れたが、とにかくその村人の為に建てたのだと言う。

それも一人二人ではない、大工共の面々が口をそろえて言うのだ。


変な話だが、突然加わる村人に違和感を感じる者もおり、当然『その村人は誰なんだ』と騒ぎ始める。

けれど騒いだ翌日には、「あぁ●●ではないか?今日も良い天気だね」と言った感じで、昨日騒いだことも忘れて『最初から居た村人』として受け入れてしまうそうだ。



これは、人に成りすました神の眷属が世界を構築する為に村人に加わった「遣わされた使途様ではないか?」「アバターと称される人型の使途様なのでは?」と噂された。


この噂話が広まったのが何時からだったか。

誰も覚えては居ないが、昔から「神の眷属たちの噂話」として語られる逸話があるのだと村長は言う。


「ふぉっふぉっふぉ。噂じゃよ、噂。どうじゃ冒険者殿、少しは楽しめたじゃろうか?」


話し終えた村長は、はにかんだ顔で杉本の顔を覗き込んだ。

噂話としては、誰も信じてはいないのだが・・・昔から宴などで催される不思議な逸話として語り継がれていたらしい。


なんだ……都市伝説みたいなものか。

村長も、意外とおちゃめな一面を持っているんだな。

雰囲気に押されて身構えてしまったが、どうやら催し物としての話だったようだ。


機嫌良く楽しげに笑う村長に、杉本はほっと胸を撫で下ろした。

だが――村長の話が終わった直後、偶然とは思えないほど絶妙なタイミングで、子供たちのひそひそと話す声が、そこかしこから漏れ聞こえてきた。


「夢の中で見たんだ。壺のような部屋に人が詰め込まれて……光と闇が混じる気配があったって」

「奴らは誰かを実験台にしてるんだ。村外れの旧教会跡で、変わった足音がするらしいぜ?」


子供たちの話に反応して、澄江と大森も互いに顔を見合わせた。

彦星のように交差する月明かりの下でささやかれる噂は、ただの怖がらせ話かもしれない。


だが、村長に確認を取ってみると、井戸のほとりで不思議な光を目撃したり、旧教会で気配を感じた人がいたことも事実らしい。

思えば、廃坑での罠や瘴気に包まれた魔物なども出る世界だ。

光だの気配だのの話は、なんら不思議なことでもない。

現に村長も、報告は受けているが、さも当然のことのように聞き流していた。


けれど杉本は、この“アバター話”に、迷子クエストのような“作られた奇妙な違和感”を感じていた。

何か不思議な力が関与しているのかもしれない。

それが何を求めているのかは、まだ分からないが――


この奇妙な違和感は何なのか。

誰かが何かを仕組んでいるのだとしたら、何をしようとしているのか探って問い詰めたい。

捕まえて、引きずり倒して、すべてを吐かせたい。

やや暴力的な感情が、心の中で渦巻いている。


だが……


ただの旅人を装ってこの村に世話になっている以上、こちらからあれこれと詮索するわけにはいかない。

杉本は、どうしたものかと表情を曇らせて困っていると、澄江が小さく袖を引きながら声をかけてきた。


「行ってみましょう。噂の現場を確かめます」


ありがたい。

本当に良いタイミングで誘ってくれた。

杉本は表情を明るくして喜びながら、澄江の提案に頷いた。


「お? 何じゃ? また探索かの?」


茶化すように声をかけてくる長老が、酒で顔を赤らめながらフラフラと絡んできたが、「ちょっとした余興に様子を見てくる」と軽くいなして、大広間から出ようとした。

宴会の場から離れる杉本と澄江を見て、大森もハルバードを肩にかけて後ろに続こうとする。


「何じゃ、大森もか。それじゃあ、ついでじゃ。あの二人も同行させよ」


廃坑に赴いた三人が再び探索に向かうと見て、仲良し五人組が遊びに行きたがっているとでも思ったのだろうか。

村長が大森を呼び止め、それなりに酒を飲んで顔を赤くしている村人二人を呼び寄せ、同行するように命じた。


廃坑に赴いたパーティが再結成された。

おそらく、このメンバーがこの村での最大戦力なのだろう。

けれど、杉本・澄江・大森の三人も多少酒を飲んではいるが、村人二人は完全に酔っぱらいだった。


村長も気を使ってパーティを再結成させてくれたのだろうが、正直、今回の村人二人は役に立ちそうにない。

酔っ払い二人を連れ歩くには不安が伴う。

三人は苦虫を噛み潰したような微妙な表情で顔を見合わせたが、村長の指示では断ることもできない。


まあ、軽く様子を見てくるだけだし、なんとかなるだろう。

杉本と大森は、村人二人に肩を貸しながら、軽い気持ちで宴会会場を後にした。

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