第14話(3)早乙女悠馬の魔術理論「四元素理論」
杉本たちは長瀬の転移魔法でミラノーラへ戻ると、まずは早乙女悠真に、これまでの無謀とも言える自らの行動を謝罪した。
ミラノーラで初めて早乙女と邂逅した時の態度から、最近の話を聞かずに神殿へ特攻したことまで。
そして、その異様とも言える行動の背景には、この世界に蔓延る精神汚染――洗脳装置の影響があったこと。
偶然その洗脳装置を破壊できたこと。
長瀬を洗脳の呪縛から解き放ち、『アバターの核とも言える実体』が多数捕らわれていた次元倉庫を、長瀬が取り戻したことを報告した。
「なるほど……僕も多少、その精神汚染の影響下にいたわけだ。」
思い当たる節は多々あった。
彼と初めて会った時も、いきなり戦闘になったし、少し口論になると突然人が変わったように罵られたりもした。
もちろん、杉本にも罵られる原因はあったのだが。
だが、知らぬうちに精神汚染の影響を受けていたことなど、誰にもわかるはずがなかった。
元々、杉本と早乙女は性格的な相性が良くない。
ただ、それが相容れぬほど仲が悪いというわけではなかったはずだ。
精神汚染の影響で反発し合っていたことを瞬時に理解した早乙女は、すぐに頭を切り替え、これから杉本が行動するために最も必要な事柄を伝える。
――神であるシイゴと戦うには、決定的に不足しているもの。
それは、戦力だった。
今までのらりくらりと戦っては来られたが、それはあくまで対人戦での話。
それも、仮にも十二使途の称号を得た澄江と、女神テラの祝福を受けた杉本が、対等以下の条件で戦いを強いられてきた。
それもこれも、三人――杉本、澄江、大森が、正しい戦術を取れていないことで、度々窮地に追い込まれていたからだ。
それは早乙女に言われるまでもなく、三人とも自覚していた。
「まずは……スキルと魔術の理解を深めることから、だな。」
早乙女は三人の魔術構成や得意とする戦い方を聞き取ると、彼らに言い聞かせるように魔術論の講義を始めた。
---------
精霊は火、水、風、大地といった自然の要素に宿り、呪文を唱えることで交信し、力を貸してくれる。
けれど……実のところ、それは元素を認識したり理解していない者が、元素の代わりに想像で生み出した“まやかし”だと僕は思っている。
現に僕は、呪文を唱えることなく意識内で――そうだな、たとえば空気中の元素をCO₂に配列し直して、その元素量を把握し、元素に含まれるマナに「動け」とイメージを通じて命じるだけで、水を生み出す魔法を発動できる。
どれくらいの水のマナで、どれくらいの水を生み出せるかを、元素単位のイメージで完全に把握しているって感じかな。
その水が、大気の――明確には大気中の元素を動かすイメージをマナに伝えることで、ウォーターボールやウォーターミサイルといった魔法を使えるようになった。
ウォーターボールとは、こういう元素の動きをすると認識してイメージを強固にすることで、魔法名「ウォーターボール」とマナに呼びかけるだけで簡単に発動するよう意識付けた。
要は、すべての元素にはマナという力が宿っていて、マナは意識の力でどんな形にも、どんな力にも成り得るということ。
だから僕は、この元素を理解することで、この世界的には“四元素魔術師”――火・水・風・土を扱える魔術師として名を広めることになった。
四元素魔術の素養があったわけではなく、ただその大元になる元素を理解していたってだけなんだけどな。
火も水も、分解してみればただの元素配列に過ぎないから。
ただ……。
そう言いかけて、話を続けるか迷ったような表情を見せた後、意を決したように続きを話し始める。
光と闇の属性は特殊でね。
光と闇は、元素そのもので表せない力なんじゃないかと僕は思っている。
「光れ」とイメージしただけでは、ただ熱量を持つ元素配列に組み直しただけ。
けれど、光属性の光魔術は、“光る要素の元素そのもの”を生み出している。
元素そのものを生み出すような不可思議な力は、本来ありえないんだ。
ああ、そうだ。余談だけど、真空の状態――宇宙空間にも元素は存在する。
絶対真空の状態が生み出せれば、話は別だけどね。
そして、幸運とか不運とか、“運”に作用する力も説明できない。
幸運を呼ぶバフ魔術、不幸を招くデバフ魔術。
どちらも元素では説明できない、光属性と闇属性の領分だ。
不可解な力を生み出すのが光属性。
反対に、不可解な力を消失させてしまうのが闇属性。
闇を司る闇魔術は、元素を消失させることで闇を生み出している。
元素そのものを消失させてしまう不可思議な力も、本来ありえない。
元素の動きでは言い表せない、いわゆる“神がかり的な力”が作用しているとしか思えない。
だから僕は“四元素魔術師”。
神がかり的な力との接点を持たない、光と闇の属性だけは使えない魔術師なんだ。




