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第13話(中編)解き放たれた影の枷「星々の心部、世界樹」

辺りは明るいとは言えないが、ほんのりと光苔のような光源が空間を包み、たまたま身を下ろして休憩しただけの場所が、まるで幻想的な聖域のように感じられた。

戦いに身も心も擦り減らした戦士たちを祝福するかのように、その光は優しく彼らを癒していた。


一呼吸して、ようやく人心地ついた後、杉本は静かに澄江と大森に話しかけた。


「……あの、二人とも。危険な冒険に付き合わせてしまって、すまない。」


「大丈夫ですよ、杉本様。私も……大森も無事に生きていますし、結果を振り返れば、何か良い方向に好転したようにも感じます。」


澄江の返事に、大森も頷き、同じ思いを共有していることを示した。


「好転……か。こう言ってしまうと変に思われるかもしれないが、何か……そう、頭がクリアになるような、そんな清々しい気分でもある。次元倉庫の件は何も解決していないのだけれど。」


「そうですね。私もなんだか、すっきりした気分になっています。不思議な感覚ですけれど。」


澄江の言葉に、大森も大きく頷いて同調する。


「さて……これからどうなるのか先行きは見えないが、そろそろ行きますか。」


「ええ、行きましょう。まずは長瀬様のお話を聞かないと、何も始まりませんし。」


小一時間ほど身を休めただろうか。

会話を交えながら三人はゆっくりと立ち上がり、幻想的な休息場――ただの洞窟内の通路ではあったが、身も心も十分に癒された場所――を後にして、先へと向かった。


洞窟の出口をくぐった瞬間、三人の視界は一変した。そこは外へと続く出口ではなかった。


制御盤破壊の衝撃で散ったのは、闇だけではなかった。

彼ら自身の意識もまた分断され、闇の底と光の裂け目から這い上がった世界は、ミラノーラともスラム世界とも異なる――澄んだ朝の光が降り注ぐ幻想的な空間。そこは星々の中心、世界樹の間だった。


「――ここは?出口じゃなかったのか?」


杉本が手探りで杖を掲げると、薄紅の花びらが舞う大樹の下、幾重にも重なるマナの振動が彼らを包み込んだ。

巨大な根が大地を抱くように伸び、神殿にあるような石柱が円形に並ぶ――まるで世界樹の心臓部を守護する神域のようだった。


その並んだ石柱の中心に、ひとりの人影が佇んでいる。

闇と光、両属性のマナを纏い、漆黒の髪を風に任せた長瀬良治である。

彼の瞳は、蓄えられた四十五年の記憶を映すように、静かに燃えていた。


「――長い間、お待たせした。アバターの僕は、ちゃんと取り戻せたよ。」


唇に浮かぶ微笑みは温かく、そして凛然としている。

盛大な饗宴に紛れたアバターの仮面とは違い、ここには揺るがぬ意志が宿っていた。


「僕の記憶は今、完全に戻った。君たちと出会ったあの日から、海辺の市、市場のざわめき、海竜と共に舞った帆船の記憶――すべてがひとつに繋がったんだ。」


言葉は静かだが、その奥底には火のような決意が揺れている。

澄江と大森は抱き寄せられるように隣へ進み、三人は肩を並べた。


「長瀬……つまり君は、俺たちと同じ思いで戦ってくれていたのか。」


杉本の問いに、長瀬は頷いた。


「アバターの僕は、ずっと疑問を抱えていた。

この世界を発展させる実験が、本当に“新しい命を紡ぐ”のか。

それとも、滅びゆく魂の救済に過ぎないのか。

僕は知る必要があった。

断片的な記憶が余計に思考を鈍らせ、シイゴに対する一手も打てなかった。

でも、君たちが偶然破壊した制御盤で闇の枷が外れて、ようやく行動に移せるようになった。本当に感謝しているよ。」


「長瀬……けれど、皆が捕らわれている次元倉庫は……」


悲痛な面持ちで、本来の目的を果たせていない嘆きを打ち明けると、長瀬は明るい表情で言った。


「大丈夫。次元倉庫は僕が取り戻した。」


掌を広げると、次元倉庫に蓄えられた霧の欠片が薄く漂う。


「ここには無数の思い出と願いがある。皆を地球に返せる手段さえ見つかれば、僕たちの勝利だ!」


記憶が戻った影響だろうか、妙に饒舌な長瀬の口調が気になる。

だが……今までとは違って、何をどうすれば良いのか見当もつかなかった頃と比べれば、気の持ちようは雲泥の差だ。


「はは……長瀬、お前そんな顔もするんだな。俺は初めて見たかもしれないぞ。」


朗らかな長瀬の様子を見て、杉本も釣られるように冗談めかして笑いかける。


「45年……45年だ。こっちの世界で3回アバターの身体で生まれ変わり、先の展望も見えぬまま、中途半端に覚醒してずっと生き抜いてきたんだ。その人生がやっと報われると思うと、笑わずにはいられないよ!」


「お前……苦労したんだな。けど……」


ふと杉本は気になった。

まだ地球へ帰還する方法も、捕らわれた次元倉庫内の人々の目覚めも確実ではない。

少し軽率すぎやしないだろうか?

心の奥底で何かが引っかかる。


「けど……本当にうまく事が運ぶのか?」


杉本は心に宿った疑問を長瀬にぶつける。

冗談めかして笑っていた杉本の表情が、不安の影に怯えるようなものに変わると、長瀬もそれに合わせるように真剣な表情で応えた。


「たしかに……うまく行く保証はどこにもないし、難しくはあると思う。

ただ……影の枷も取れた今は、最大のチャンスでもあるんだ。」


そう力説する長瀬の言葉に、杉本はある種の違和感を覚えた。


「待った……長瀬、ちょっと聞いていいか?その……“影の枷”って、なんだ?」


杉本は長瀬との会話の中で、ずっと感じていた違和感の正体に気づいた。

“影の枷”――それは、この話の核心を突いた質問だった。

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