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第13話(前編)解き放たれた影の枷「最終決断—結への序章」

「杉本、すまないが、サジタリウスとジェミナスの身柄を少し預からせてもらうよ。」


ふと、背後から声が響いた。

慌てて振り向くと、そこには静かに佇むパイシスの姿があった。

……いや、雰囲気が少し違う。これは……長瀬か?


「パイシス!」


敵として切り結んでいたはずだったが、そういえばスラム世界へと転移させられて以来、姿を見ていなかった。

目的だった次元倉庫の停止には成功したものの、喜ぶ間もなく、またパイシスたちと対峙することになるのか。

杉本・澄江・大森の三人は、再び身構えてパイシスへと向き直る。


「待って待って、争うつもりはないよ。俺はもう制御から外れている。そして、他の十二使途もね。」


「……どういうことだ?」


長瀬の制止を受け止め、杉本が言葉を返す。


「ふぅ。君たちが破壊したのは、次元倉庫の制御盤なんかじゃない。この世界……いや、この地方、ミラノーラ方面の制御基板だったのさ。」


「???……パイシス、お前は何を言っているんだ?」


澄江と大森はもちろん、捕らえて拘束していたサジタリウスとジェミナスも、じっと長瀬と杉本のやり取りを見つめている。

杉本が長瀬をパイシスと呼んでいるのは体裁を保つためだろうが、それが妙に違和感を覚えさせる。

彼は、それほど機転の利く人間ではなかったはず。

少なくともこの異世界へ来てからは、早乙女が呼ぶように、猪突猛進の能筋野郎だったはずなのだが。


「あぁ、辺りには風の結界で音を遮っているから、長瀬と呼んでくれても構わないよ。」


「……長瀬?」


「ごめん。説明が少し長くなりそうなんで、一度サジタリウスとジェミナスを預からせてもらえるかな?」


「長瀬……。」


杉本は敵対行動を止め、構えていた杖を下ろして、じっくり考えるような表情を浮かべた。


どういうことだ?

今ここにいるのは、十二使途のアバターとして行動するパイシスじゃないのか?

なぜここに長瀬が?

そもそも、次元倉庫の制御盤じゃなかった?


いや、でも……ん?待てよ。俺はどうして次元倉庫の制御を破壊しようとしていたんだ?

中にはまだ、訳も分からぬままに捕らわれている人が大勢いるというのに。

制御が暴走したら、中の人はどうなってしまうのかも分からないのに。


ふっと我に返ったような表情で、自分のしてきた行いを振り返る。

ぞっとして冷たい汗が背筋を伝った。

思考が堂々巡りとなり、考えがまとまらない。

顔面蒼白となり動きを固めてしまった杉本の様子を察して、横から澄江が会話に加わる。


「長瀬様……お任せしてよろしいのですね?分かりました。ジェミナス様とサジタリウス様を解放いたします。」


澄江は、ジェミナスとサジタリウスの様子を視界の端に捉えたまま、長瀬へ返事をした。

その言葉を聞き、ほっと胸を撫で下ろすような態度で長瀬は礼を言う。


「ありがとう。僕らは一度神殿へ戻るよ。彼らにも、色々説明しておかなければならないことがあるからね。」


長瀬はそう言いながら、手に持った杖をふっと掲げる。

すると、拘束していたサジタリウスとジェミナスの縄が断ち切られ、はらりと床に落ちた。

そういえば……彼らは先ほどまで敵対していたとは思えないほど静かにしている。

その表情は、捕らえられた敵方の者でも、ましてや味方になった者の顔でもない。

むしろ、何が起こっているのか状況が分からず、キョトンとしているような……不可解な表情だった。


解放されたサジタリウスとジェミナスに視線を移し、長瀬は優しい口調で声をかける。


「サジタリウス、ジェミナス。大丈夫かい?すまないね、ちょっと手違いがあって……説明はタウリオスたちにもしておきたいと思う。ついて来てくれるかな?」


「パイシス?……あ、あぁ。ついて行くのは構わないが……」


糸の切れた人形のように虚脱した身体に力を込め、サジタリウスはふっと長身の身を起こした。

パイシスは、傍らで座り込むジェミナスに手を伸ばし、再び「大丈夫か?」と声をかける。


「あ……あぁ。大丈夫だ。」


触れられてようやく意識を取り戻したのか、ジェミナスが澄んだ美しい声でパイシスに返事を返す。

線の細い小柄な男性だと思っていたが、声を聞いて女性だったと気が付く。


二人は、狐につままれたような不思議な表情をしていたが、長瀬パイシスに促され、深淵の門がある方向へ引き返していった。

杉本・澄江・大森の三人は、サジタリウスたちとは逆方向の出口へ向かうようにと長瀬に指示され、反対する理由もないのでそれに従って出口のある奥へと向かった。


道中、澄江が二人を気遣って少し休むよう促しながら、自らも小さな岩を見つけて腰を掛けた。

洞窟内は湿気を帯びてはいるが、それでも濡れるほどの湿度ではなく、むしろ戦いで火照った身体を癒すような優しい冷たさが心地よかった。

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