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第12話(後編) スラム世界「世界進化計画の破壊」

杉本と澄江は、影に縛られて身動きの取れない大森を庇いながら、洞窟の奥へと駆けていた。

魔法によって身体能力を強化しているとはいえ、十二使途の六人を相手に無事に撤退できるとは到底思えなかった。


だが──追手は来ていない。

あの状況でバルゴとスコーピオを撒けたのか? いや、ありえない。


それに……。

洞窟の奥へ逃げ込んだものの、大勢の人々の魂が捕らわれている次元倉庫を止めるには、マナ回路と結界水晶の破壊、そして制御盤の停止が必要だ。

しかも、十二使途に追われながら。


絶望的とも思えるミッションを、必要な手順と問題点を順に思い浮かべながら階段を駆け上がると、鈍い機械音と魔導仕掛けの灯りが揺れる計器室にたどり着いた。

そして、制御盤の前にはサジタリウスとジェミナスの二柱が立ちはだかっていた。


(先回りされた? いや、バルゴとスコーピオが追ってくるなら……挟撃か?)

杉本は冷静に敵の動きを見極め、身構えた。


「進化の歯車を止めに来たか?」


サジタリウスが低く唸ると同時に、槍先から火の粒が飛ぶ。

傍らのジェミナスは、結界の編み糸で通路を締め上げた。


刹那、澄江は抱えていた大森を壁際に下ろすと同時に、〈ライトニングファースト〉を詠唱。

高速移動でジェミナスに接近し、身体ごと体当たりを叩き込む。

その衝撃で、ジェミナスが張った魔法結界網ごと粉砕された。


神官職とはいえ、十二使途に任命された澄江の実力は本物だった。

肉体を活性化させ、並外れた戦術眼で後衛とは思えない動きで場を切り開く様は、まるで武闘神官──モンク僧のようだった。


「今だ!」


澄江が敵二人の連携を崩し、絶対的な隙を生み出す。

杉本はそれに続き、〈クリスタル・リニューアブル〉で鉱石を生み出し、制御盤に激しく打ち付ける。

マナ流路が寸断され、火花を散らしながら制御盤は沈黙した。


「やったか?」


だが、次元倉庫の中にはまだ多くの人々が捕らわれている。

エネルギー供給元の結界水晶とマナ回路は健在だ。

先に制御を止めてしまってよかったのか──杉本は自らの行動に疑問を抱きながらも、今はこの場を脱することを優先した。


壁際で失神するジェミナスと、沈黙した制御盤を交互に見ながら、サジタリウスは渾身の一撃を放とうと十字槍を天に掲げる。

だが、その動きは杉本に察知され、〈パワーエナジー〉で身体を強化し、間一髪で押し返した。


杉本の使う〈パワーエナジー〉は筋力強化の術。

魔法学的には弱い部類に入るが、発動までの時間が短く、即応性に優れている。

対して、サジタリウスの十字槍は強力な技だが、発動までに時間がかかり、大きな隙を生む。


もしジェミナスが健在であれば、その隙をカバーし、強力な一手となっただろう。

だが、彼はすでに無力化されていた。


十二使途との戦闘は、振り返れば澄江がジェミナスを吹き飛ばした瞬間に決していた。

これが、十二使途に選ばれた澄江の実力──戦術眼の証なのだろう。


ともあれ、強敵は杉本と澄江の連携によって打ち倒された。


先に交戦したバルゴとスコーピオ、そしてタウリオスとパイシスも追手として現れると思われたが、最後までその姿を見せることはなかった。

それどころか、一度倒したジェミナスとサジタリウスも、縛り上げているにもかかわらず暴れ出すことなく、まるで事の成り行きを見守るかのように静かにしていた。


(おかしい……。なんだ、この違和感は。罠か? いや……)


杉本は妙に大人しい敵に違和感を覚えながら、周囲の計器類を調べる。

探索者の目を探査機代わりに、床下のマナ回路と壁の隙間にあった結界の結晶を発見し、破壊。

制御盤は完全に停止し、周囲の歪んだマナ結晶は一斉に白く光を放って消滅した。


闇の瘴気は急速に融解し、洞窟は薄明の中へと帰っていく。


目的である『次元倉庫の制御装置』の破壊は達成された。

その影響もあるのだろうか、杉本の気分は妙に晴れやかで、澄み渡っているように感じられた。


しかし、問題はまだ残っている。

なぜ追手が来ないのか。

なぜ彼らは大人しく捕らわれたままなのか。

パイシス──長瀬は敵に操られているのか?


煙に巻かれたような疑問は残るが、杉本の強硬策は成功し、次元倉庫の制御盤は停止した。

あとは、倉庫内に捕らわれている人々をどうするか──それが次なる課題だった。


ひとまず三人は、今回の苦境を無事に脱することができた。

大森は影に囚われ、活躍の場すら得られなかった現実に、苦虫を噛み潰したような表情で無念を滲ませていた。

それでも澄江は彼を讃え、杉本と抱き合うように、三人が無事に目的を果たしたことを喜んだ。


「これで……世界進化計画は……世界の歪みは……収まるはずだよな?」


杉本の問いに、澄江と大森は深く息を吐きながら、静かに頷いた。

──無謀とも思えた次元倉庫の停止は、三人の手によって達成された。

だが、四元素を結合した新生の光が差し込む世界樹の根元では、まだ見ぬ試練が静かに目覚めようとしていた。

**次回、第13話「最終決断—結への序章」。**

新生の扉を開く者と、旧世界を守り抜く者──すべてが選択を迫られる。

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