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第12話(中編) スラム世界「アダムとイヴ」

神々の理を語り終えた澄江は、静かに息を整え、さらに深い知識へと踏み込んだ。

赤黒い火の粉が舞う風化した世界の中、腐敗しかけたアバターたちが意識の混濁を引き起こすように徘徊する。

その異様な光景の中で、澄江は神々の“創造”の限界に挑んだ存在について語り始めた。


「けれど、地球の女神──テラ様は、その限界に挑みました。

遥か昔、人が生まれる以前の神話の時代。

地球という大地を整えるために、一対のゴーレムを創造し、そこに受肉させたのです。

それは、無機質な存在ではなく、自らエネルギーを摂取し、行動することができるように設計された──知性の萌芽でした。」


僅かな違いが、大きな変化の渦を呼び起こす。

それは、グレートフィルターを突破した瞬間だった。

あるいは、女神テラが“インテリジェント・デザイン”を呼び起こしただけなのかもしれない。

どちらにせよ、彼らは活動を活発にするために、エネルギーを効率よく摂取する術を学び、より広範囲に活動するために数を増やすことを望み、番った。


この一対の受肉したゴーレム──それこそが、我々の世界で空想上の物語として語られる“アダムとイヴ”。

遥か遠い昔の、原初の地球人である。


自ら行動することを覚えた彼らを、女神テラは我が子のように愛した。

それゆえ、実体を持たないテラ様も、意思を伝えるために降臨する際には、愛した人間の姿を模して現れる。

シイゴに関しても同様だ。

おそらく、神々は自ら行動する知性に、憧れに近い感情を抱いているのだろう。


しかしその反面、彼らは自らと類似した存在──思考はあるが実体を持たない者こそが至高であると、潜在的に信じている節がある。

ゆえに、肉体を捨て去った先にこそ安寧があると考える。

だが、肉体が滅びただけでは、思考は残らない。


兄神サトゥルヌスは、このスラム世界で消失が間近に迫った人間を隔離しながら、思考が肉体を脱し、神々に近づく瞬間──“進化”を待っているのかもしれない。

それは、神々が人間に課した最後の試練であり、ある種の“救済”なのだ。


澄江は、神々が残した一節を歌うように静かに詠唱した。


「夢は儚い

気づいたら消えてしまう幻のような存在

幸せな夢が確固たるものとして根差すことができますように」


その言葉とともに、暖かな光が三人を包み込む。

まるで祝福するかのように、光はゆるやかに収束していった。


このスラム世界は、地球史上で語られるアトランティス伝説やノアの箱舟の物語に登場する大災害の際、簡易的な避難先として運び込まれた星でもある。

神々にとっては、人類の故郷であり、永遠の眠りにふさわしい地──最後の楽園として認知されているらしい。


神々の意図がどうであれ、杉本・澄江・大森の三人は、この地に沈むわけにはいかない。

彼らは脱出を決意し、出口を探してスラム世界の廃墟を彷徨った。


だが、苛酷な魔力汚染が身体を蝕み、幻視と錯覚が視界を狂わせる。


「剛志君!」


突如、澄江の呼ぶ声が響き、大森が呻き声を上げて足を取られた。


「何だ!?」


杉本が駆け寄ると、黒い縄索と瘴気の触手が大森の腕を絡め取っていた。


「サトゥルヌス様の眷属…!」


澄江はすぐに結界を強化したが、敵は数十体の影となって次々と絡みついてくる。

大森は必死に抵抗するも、触手に体力を奪われ、立ち上がれない。


「剛志!」


杉本が杖を構えるが、不意に闇の渦が彼を包み込み、刹那に意識が遠のいた。


「くそっ! 澄江! 剛志! 無事か?」


遠のく意識の底で、杉本は必死に仲間を呼びかける。

暗転する中、澄江はアクエリスの力を振り絞り、高濃度の光結界を張った。

すると、闇の束縛が緩み、大森は崩れ落ちるように地面へ倒れた。


「剛志君!」


澄江は〈ライトヒーリング〉で即座に大森の消耗を癒し、〈フィジカルブースト〉で身体能力を上昇させ、彼の巨体を支える。

同時に、彼女は視界の変化に違和感を覚えた。


「ここは?………杉本様、祭壇です。戻ってきたようです」


……まさか、夢だったのか?

そういえば、十二使途との戦闘中に、突然スラム世界に飛ばされたと思っていた。

あの廃墟の景色も、架空だったとでも?


杉本は、スラム世界の後景に、夢の中で視た世界と錯覚に近い感覚を覚えた。

けれど、あの地面のざらつき、乾いた風が頬を撫でる感触──それらは錯覚とは思えない。

現実に戻った今も、思考は混乱していたが、確かに“何か”を体験したのだ。


そして、十二使途のタウリオス、バルゴ、スコーピオ、ジェミナス、サジタリウス、パイシスとの戦闘は、なお続いている。


杉本は、バルゴとスコーピオの猛攻を杖と小剣で捌きながら、影に捕らわれた大森の元へ急ぎ駆け寄る。


「拘束は強固だ…影が複雑に絡み合ってやがる」


度重なる世界を越えた混乱から意識を回復した杉本は、探索者スキルで罠の源泉を探し出す。

床下に潜む霧のマナ回路、壁の隙間に仕掛けられた結界の結晶、そして制御基板──解除すべきポイントは三箇所。


「俺が足止めをする。二人は先に行って管理装置を止めてくれ」


杉本は大森を庇うように、闇の瘴気を遮断する結界を展開する。

澄江は頷き、影に縛られて身動きの取れない大森を抱え上げ、洞窟の奥へと駆け出した──。

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