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第10話(前編) 地下聖堂の囚われ人「十二使途会議」

「おぅ、おめぇら神様相手に正面から挑むたぁ、なかなか無茶やるじゃねぇの」


筋骨隆々の獅子のような男が吠えるように称賛した。

酒宴の席でただ飲んだくれていた彼は、騒ぎを聞きつけて身を起こし、のっそりと現れた。


「不満があるならガツンとブチかますのが一番だわな!クソつまんねぇ宴席に付き合わされて、俺もうんざりしてたんだわ。おぅ、アクエリスの嬢ちゃんよぅ、初めましてだな!俺は第五使途のレオニスだ、よろしくな!」


これが千鳥足というのだろうか。

覚束ない足取りでふらふらと澄江――アクエリスの元へ向かって歩いてくるが、途中で躓いたり、視線とは違う方向へ進んだりと、絵に描いたような酔っ払いの動作に、杉本たちは面を食らった。


神シイゴと入れ替わるように現れた十二使途の一人、レオニス。

その登場は、緊張感とは無縁のものだった。


「レオニス!あなた、シイゴ様に逆らった反逆者を称賛するなんて……お酒の飲みすぎで思考が働いていないのではありませんか?」


神経質そうな印象を持つ十二使途のラビハブラが、ひょろ長い体躯をしならせながら、蛇のような縦長の瞳孔でレオニスに鋭い眼光を浴びせて非難する。


「いいじゃねぇかよ、そんなことどうでもよぉ。シイゴサンが止めも刺さずに引いたってんなら、それが答えだろうがよぉ。なぁ、パイシスの旦那!旦那ももうドンパチは終わりでいいよな?」


「それですよ!」


レオニスの言葉に、ラビハブラが鋭く反応した。


「パイシス、あなたは不意を突いたとはいえ、シイゴ様に楯突いた蛮民を庇い、叛意を剥き出しましたね? 一体どういう了見でしょう。あれほどシイゴ様にご寵愛いただいたというのに」


パイシス――長瀬は、面倒くさい奴に絡まれたという表情で、コンっと杉本の肩を叩き、申し訳なさそうにラビハブラから視線を逸らす。


「すまん、杉本。彼奴はいつも突っかかってくるんだ。どうにも俺が気に食わないらしくてね」


異世界神シイゴに仕える十二使途のパイシス――長瀬、レオニス、ラビハブラは、『聖なる島』の大聖堂で酒宴を開いていた。

女神テラの使途である杉本、シイゴの使途に任じられながらも叛意を見せたアクエリス――澄江、そしてその護衛の大森。

杉本たちは帝都ルーメンへ向かうため、大聖堂に侵入していたが、偶然か必然か、異世界神シイゴに遭遇し、戦いを挑むことになってしまった。


杉本とパイシス――長瀬は友人同士。

杉本の窮地を見ていられず、長瀬は思わず手を貸してしまった。


普通に考えれば、酒宴に忍び込んだ杉本たちが異世界神シイゴに襲いかかり、長瀬も裏切って杉本側に寝返った。

彼らに非があるようにも見えるが、事情は複雑に絡み合っている。


なにせ、異世界神シイゴは元地球人の十二使途を拉致し、洗脳して手駒にしている主犯格。

部分的に見れば杉本たちが悪いが、根本的にはシイゴこそが悪の元凶なのだ。


レオニスは、敵方とはいえ、強大な力を持つ異世界神シイゴに挑む杉本たちに好感を持ったようだ。

だがラビハブラは、主であるシイゴに逆らった者たちがどうしても許せない。


両者の差は、洗脳の強さか、性格の違いか。

あるいは、別の野望を抱えているのか。

真実は不明だが、元々ラビハブラとパイシス――長瀬の相性は悪く、普段からいがみ合っている間柄だったようだ。


喧々囂々とパイシスを責め立てるラビハブラ。

このままでは埒が明かないと、場の空気を制したのは、十二使途の中でも一番の巨体を持つリブラだった。

終始オロオロしていたようにも見える彼が、おどけた表情のままラビハブラの正面に立ちはだかる。


「あのあの、このまま討論していても何の解決にもならないと思います。シイゴ様は帰ってしまいましたし、十二使途会議で決着をつけたらどうですか?」


十二使途会議――それは、彼らによる裁判のようなものだろうか。

だが、焦点は杉本たちに罰を与えるかどうかではない。

異世界神シイゴは、そもそも杉本たちを歯牙にもかけていない。

おそらく、ラビハブラがパイシス――長瀬に何らかの罪を着せ、罰を与えようとしている。

それを他の使途たちが認めるかどうかが、会議の本質なのだろう。


杉本は、彼らのいがみ合う様子を冷静に分析し、そう結論づけた。


この場にいるのは――

第5使途レオニス

第7使途リブラ

第8使途ラビハブラ

第11使途アクエリス

第12使途パイシス


彼ら十二使途は、同じ地球人の同胞。

だからこそ、味方してくれるかもしれないと杉本は期待していた。

だが、ここは敵地。

異世界神シイゴの行為が悪であることを、彼らが知らない可能性は高い。

いや、むしろ洗脳によって、シイゴこそが正義だと信じているのかもしれない。


杉本は冷静に思考を巡らせ、自分の考えが甘かったことを痛感した。


十二使途ではない杉本と大森は、危険な存在とは見なされていないのだろう。

何をされるでもなく、別室に通され、ただ時間が過ぎるのを待っていた。

今後どうなるかは分からないが、少なくとも今は拘束されているわけではない。


杉本は、十二使途会議が終わり、澄江と長瀬が戻ってきたら、今後の方針を話し合おうと大森と意思を疎通させた。


──もう何時間が経ったのだろうか。


澄江と長瀬を伴って大広間を出て行った五人の使途。

聖なる島へ上陸してから、少なくとも十二時間は経過しているはずだ。

幸いにも、別室では水分や食事が運ばれ、最低限の待遇は受けていた。

だが、ただ待つだけの時間がこれほど辛いとは思わなかった。

地下深くにある施設のため、今が昼なのか夜なのかも分からない。


そろそろ深夜と言ってもいい頃合いか――そう思いかけた時、控室の扉が勢いよく開いた。

慌ただしく駆け込んできたのは、アクエリス――澄江だった。


言うが早いか、彼女は杉本と大森を伴って部屋を出ようとする。


「お待たせしました。行きましょう」


「お、お疲れ……って、どこへ? 長瀬は?」


澄江に手を引かれながら、杉本は問いかける。


「ミラノーラへ。長瀬様は捕らえられてしまいました」


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