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第8話(2)黒帆のギルドと女神の杖「港町の親子」

ミラノーラに到着したのも束の間、杉本たちは再び旅路へと出発した。

早乙女に「もっと強くなれ」と発破をかけられたため、修行の旅に出ることになった。


具体的には、ミラノーラから半日ほど南へ下ると、海に面した港町カルタリスに着く。

その港町には、冒険者スキルを授けた女神テラの遺品があるらしく、主な目的はその遺品の入手だ。


ミラノーラまで護衛を引き受けてくれた村人二人は、これまでの報告をするためにオレリウムの村へ戻った。

杉本は二人に「余計なことは言わなくてもいいからな」と念を押していたが、衛兵とのいざこざや醜態も報告されてしまうだろう。

とはいえ、戦力的には心もとない村人ではあったが、何日もかかる徒歩の旅路に付き添ってくれた彼らに、感謝を告げて別れた。


ミラノーラからカルタリスへ拠点を移し、宿を取った。

大森のいびきは場所を変えても健在だったが、港町特有の潮風に乗って漂う塩気のある海の匂いが、ミラノーラとの確かな違いを感じさせた。


魚を焼く香ばしい匂いに釣られるように目覚めた杉本・澄江・大森の三人は、魚介類で彩られた朝食を済ませると、町中を見て回ってくると女将に告げて宿を出た。

港の市場では、獲れた魚や甲殻類、貝などの売買が始まっており、その場で焼いて提供される出店にも人だかりができるほどの賑わいを見せていた。

買い物をするつもりはなかったが、興味をそそられて市場に踏み込んでみると、朝の仕入れを行う商人たちに混じって、一般の買い物客も入り混じり、ごった返していた。


---


「おか~さ~ん、コレ欲しい~~~!」


何やら得体の知れない巨大魚を抱えながら、おねだりする子供の甘えた声が聞こえる。

(うんうん、大きな魚はカッコいいよな。でも、それはきっと高いぞ~。)


「うん、要らない。」


即答で断る母親の容赦ない強さ。


(おぉぉ……こっちの世界でも母親はすごいな。強えぇ……)

自分だったら、子供のおねだりに耐えられるだろうか。

杉本は、母子のやりとりを見ながら、心の中で感心していた。


なんだか和む親子の日常を横目に見ながら、辺りを散策する。

木製の桟橋には漁船と商船がひしめき合い、小さな魚市場は常に活気に満ちている。

杉本真也は、探索者の目で木組みの桟橋を走るマナの流れを追い、次の目的地を定めた。


「目的は『女神の杖』の断片だ。密輸ギルドが関与している可能性が高い。」


澄江――アクエリスは、大ぶりのマントを翻しながら頷く。


「女神の杖。地球の女神テラの遺品ですね。破片でも強力な加護を持つと聞きます。」


澄江は、杉本と真面目に会話を続けながらも、目では先ほどの親子を追っていた。

母親におねだりを断られてしょぼくれている子供の様子が気になっているようだった。

甘やかすだけが愛情ではないと承知してはいる。

けれど、澄江の落ち着いた性格ゆえか、心配している気持ちが態度に出てしまっている。


おそらく澄江には、子供のおねだりは断れないだろうな――そんな感情が浮かび、杉本はふっと小さく笑みをこぼした。


そんな澄江の様子を気に掛けながら、大森剛志は地図を開いた。

港町の東外れに「黒帆の集会所」と呼ばれる建物があり、そこが密輸ギルドの拠点と噂されていた。

絵に描いたような真面目さを持つ大森は、淡々と状況を報告する。


元警察官の杉本、元児童養護施設職員のおばあちゃん澄江、そして大森の三人は、多くの市民に紛れて市場を散策していた。

杉本と澄江は、警護や保護の観点から「子供や市民の様子が気になる」職についていたが、大森は子供が何をしていようが、まるで気にしていない様子だった。


大森は地球では何をしていた人なのだろうか――杉本はふと興味を持った。

このパーティで、大森だけが地球での記憶を持っていない。

アバター体であることは、マナの反応から判別できた。人体とアバターでは、体内のマナ反応が微弱ながら異なる。

だが、それ以外は何もわからないのだ。


早乙女にも指摘されたことだが、杉本のパーティは、シイゴ神を相手に戦うには圧倒的に戦力が足りない。

大森も、体内を流れるマナの含有量が一般人より多いため、将来的には簡単な魔法を使えるようになるらしい。

それを加味したとしても、まだまだ足りない。


今後どうするかはまだ決めていないが、神々の先兵とも言える“12英雄”と衝突する可能性も高い。

パーティメンバー個々の強化はもちろん、アタッカー役と回復も務める杉本の強化は、最優先課題だと皆が感じていた。


---


ミラノーラで情報収集を兼ねて入った酒場で、偶然「女神の杖」の断片の噂が耳に入ってきた時、杉本たちはその情報を話す酔っ払いに接触を図った。

酒場の口が軽い連中から情報を引き出すのは簡単だった。


面白そうな話をしているなと興味を示し、「一杯酒をおごるから、聞かせてくれよ」と声をかけるだけで、ペラペラと情報を提供してくれる。

もちろん、ガセ情報である可能性も考えてはいたが、それでも杉本たちにとっては魅力的な話だった。


不思議なことではあるが、この世界には、ある種の“強制力”のようなものが存在しているように感じる。

まるでゲームのクエストが発生するような、特殊な力を感じた。


ミラノーラへ来たことも、街の衛兵と衝突して力の無さを痛感したことも、早乙女にさらなる旅へ出されたことも、そして酒場で“偶然”女神の杖の欠片情報を得たことも――すべてが繋がっていて、意味があるとしたら。

この女神の杖の欠片情報の出処は疑わしいが、信憑性は高いと思ってもいいだろう。


女神の杖を入手できれば、杉本の戦力を大きく引き上げることができる。

杉本たちは市場の散策を切り上げ、本格的に「女神の杖」を知る“黒帆の集会所”の捜索に乗り出した。

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