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第6話(中編) 同盟都市ミラノーラへの旅路2

「そんな……そんな非道なことが許されるのか!

(さら)われて、腐るまで使われて、最後には(さら)う側として、新たな被害者を連れてくる役目を負わされるなんて!」


澄江から赤羽事件の真相を聞かされ、杉本はカッと頭が熱くなるのを感じた。

怒りの感情が身体を支配し、どこにぶつければいいのか分からないまま、無意識に拳を握りしめる。

血がにじむほど強く握った拳に気づいた澄江は、慌てて杉本を制止した。


ややあって、平静を取り戻した杉本を確認しながら、澄江は事の顛末を語り始める。


(さら)われてきた地球人の何人かは命を落としたようです。

ですが、今は限界が訪れる前に、別の異世界へ送られ、隔離されながら余生を過ごしています。

そこは魔物も弱く、気候も穏やかな楽園のような場所らしいです。

ただ……文明は発達しておらず、大地もかなり荒れ果てた状態だそうですが」


そうした地球人の成れの果てを聞いて、杉本は再び怒りが込み上げてきたようで、小刻みに震えながら澄江に向かって叫ぶ。


「荒れ果てた世界が楽園なのかよ!」


それを見て、静かに話を聞いていた大森が割って入る。


「すまない、また熱くなってしまった」


杉本は、大森に止められて、再び冷静さを取り戻す。

澄江に怒りをぶつけるのは、筋違いだ。

彼女は十二使途として得た知識を語っただけであり、この非道な世界の仕組みに直接関わっているわけではない。


「大森は……今の話を聞いて平気なのか?」


ふと、妙に冷静な大森に疑問が湧き、問いかけると、意外な答えが返ってきた。


「俺は……澄江様を守れるのなら、他はどうでもいい」


(意外というか、大森らしいというか……本当にお前は、澄江が好きなんだな)


杉本はそう口に出しかけたが、言葉にはせず、心の中に押しとどめた。

好き嫌いは、本人を前にして他人が口を挟むべきことではない。

ただ、半ば呆れるような真っ直ぐな惚気を聞かされ、怒気が抜けたのは感謝すべきだろう。


そんなことを思いながら、杉本は大森の肩をぽんっと軽く叩く。

大森はなぜ叩かれたのか分からず、きょとんとしていたが──

その姿を見て、杉本はまた笑った。



人間の感情は大切だ。

怒りもまた、人間に必要な感情だろう。

けれど、それは無暗に表に出していいものではない。


鋭利に剥き出された感情のまま怒りに身を任せれば、目に映る世界は血を欲し、永遠に続く憎しみが待っているだろう。

紅に染まった刃は、何の願いも叶えてはくれない。

暴力の世界が間違っていることは、地球の歴史が証明している。


その、表に出してはいけない感情を抑えることこそが、人間が他の生物より優れている証──人類の美徳の一つでもある。


吹き荒れる怒りの感情に囚われ、澄江に当たってしまったことを後悔しながら、杉本は森林を抜ける。

木漏れ日に照らされた丘陵が視界に広がる。


思い出したくないことがあるなら、忘れてしまえばいい。

記憶に残らない夢で見るくらいが、ちょうどいい。

そんなふうに気持ちを切り替えられたら、どんなに楽だろうか。


背後を守る村人二人の視線は、時折遠ざかり、蝉の声が道案内のように響く。

警戒任務は、付かず離れずが基本だ。

時として接近し、前を歩く守るべき対象を視界に収め、時として離れ、周囲の様子を伺いながら警戒を続ける。


そんな警戒に慣れた旅人が背後を守ってくれていることにも気づかず、杉本たちのミラノーラへの旅は続く。



「俺は……どうすればいいんだ。何をするべきなんだ……」


杉本は無意識に呟く。

怒りの感情はなんとか抑えたものの、アバターシステムの真相を知ったことで、思考のすべてがそのことに囚われていた。

大都市への旅路の途中であることも忘れ、盗賊や野党、魔の獣が潜む世界で警戒もせず、ただ思案にふけりながら歩き続けていた。


山のふもとには薄紫の花畑が広がり、小川がせせらいでいる。

澄江が杖先で小川を結界で清めると、澄んだ水面に太陽の光が映り、彼女の顔を淡く照らした。


「とりあえずは……ミラノーラへ向かいましょう。何かあれば、また進展があるかもしれませんから」


杉本の様子の変化を感じ取り、あえて明るめの口調で、澄江は声をかける。

歩みを止めなければ、望む未来がきっと見えてくるから──と。


そうだな。

澄江の言葉に頷きながら、杉本は天を仰ぎ見る。


正直、今は何をしていいかも分からない。何をするべきなのかも。

長瀬はどうするつもりなのだろうか。

あいつは俺よりも機転が利いて、頭も良い。

ルーメンへ戻った長瀬とは、また離れ離れになってしまったが、奴は奴なりに何かを企んでいそうな気がする。


俺は……ダメだな。こまごまと何かを考えるのは性に合わん。

まあ、何かあったら長瀬に押し付けちまおうか。

奴なら、なんとかしてくれるだろう。


そんな穏やかならぬ希望を胸に抱きながら、杉本はまた──天を見上げた。

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