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こちらメリヴェール王立探偵事務所7 ~死者は迷宮の底で嗤う~  作者: 恵良陸引
Chapter 11

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 「格の違いだァ?」

 デレクは歯をむき出しにした。

 「どこまでも舐めてくれるじゃねぇか!」


 メルルはちらとレトの横顔を見た。


……レトさんは心でそう思ってても、それを口で言うひとじゃない。あれは『わざと』言ったんだ。挑発するために。相手を怒らせるために……。


 メルルは杖を構えてクラリスと対峙した。クラリスはつまらなそうな顔でメルルを見ている。

 「ねぇ、あんた。変な抵抗しないでもらえる? 私、できたら小さい女の子を矢で射殺すなんてこと、したくないのよ」


 「抵抗しなくても殺すんでしょ?」


 クラリスは肩をすくめる。

 「ま、リーダーの命令だからね。苦しまないようにひと思いでやってあげるからわかってくれるかな?」


 「デレクさんの命令は絶対なんですね?」

 メルルは念を押すようにクラリスに尋ねる。クラリスは顔をしかめた。「何が言いたいの?」


 「もし、デレクさんが負けたら、その命令に従わなくていいってことじゃないですか?」

 メルルはそうでしょ?という顔でかしげてみせる。クラリスは苦笑を浮かべた。

 「あんた、わかってる? デレクがあんたの仲間に負けるわけないじゃない。もう終わりなのよ。あんたたちは」


 「そうですかぁ?」

 メルルはレトたちに視線を向けた。デレクはぶんぶんと剣を振り回してレトに迫るが、なかなか捉えられない様子だ。


 「もし、そう思うのなら、あの戦いが終わるまで私を放っておいてくれませんか? 私、レトさんがデレクさんをぶっ飛ばすところ見たいので」

 そう言うと、メルルはクラリスにはそっぽを向いて、レトとデレクとの戦いを見つめる。その表情は真剣なもので、ふざけている様子はない。

 クラリスはメルルの横顔を不審な目で見ていたが、ため息をひとつつくと腰からナイフを取り出した。


 「いいわ。あんたに時間をあげる。でも、呪文を唱えたり、魔法陣の展開を始めたりしたら、その瞬間にこのナイフで喉をかき切るからね」

 クラリスはナイフをメルルの首の高さで構えて言った。メルルは小さくうなずく。「お好きなように」


 メルルとクラリスのやり取りは、デレクの目のはしでも捉えていた。クラリスがメルルを殺そうとしない様子に、デレクは不愉快そうに顔をしかめた。


 「クソッ! クラリスは何してやがる。肝心なときに女ってこうだ」


 デレクは横殴りに剣を振った。レトはその切っ先を受け止めると、思いきり弾き返した。レトより体格が上回るはずのデレクが数歩あとずさる。


 「ずいぶんとあがきやがる。さっさと楽になりゃいいのによ!」


 「ずいぶんと焦ってきたようですね。さっさと認めれば楽になれますよ」


 「何をだ!」デレクが吠えた。


 「あなたは弱い。その事実をです」


 「まだ言うか、負け犬が!」

 デレクは自分の大型剣をレトの眼の前に突き出す。同時に背後の鞘からもう一本の剣を抜き出した。


……わかってんだぜ、こっちには! お前はふいの攻撃に身体を左へずらして避けるクセがあるってな! 人間てのはとっさに出るクセはどうにもならねぇんだ。俺の『隠し剣』が来るとわかっても、クセが出ちまったときは対処できないもんなんだよ!


 レトは身体を左へずらして避ける。デレクは会心の笑みを浮かべた。


……った!


 前回は後ろに転がって逃れていたが、今回レトの背後には巨大な柱がある。飛び退いても柱に阻まれ、デレクの一撃はレトの喉を確実に貫く……はずだった……。


 レトは突然現れたもう一本の剣を左手の鎧で弾いた。そのまま左手をデレクに向けると、「衝撃波インパクト」とつぶやく。


 どおんという巨大な音が大広間に響き、デレクの身体は吹っ飛んだ。反対側の柱に激突すると、デレクの目の前に火花が散った。


 「ぐぁっ!」


 前のめりに倒れかけるデレクの目前に、レトが剣を構えて迫っていた。一瞬で間合いを詰めたのだ。


――瞬歩? ケタ違いの速さじゃねぇか!

 デレクの足はまだ床に着いていない。踏ん張ることも、床を蹴って避けることもできない。絶望的なほど自分が無防備状態にあることを自覚した瞬間、レトの剣が煌めいた。


 デレクは自分の全身がバラバラになったと思うほどの衝撃を感じた。デレクは分厚い鋼鉄の胸当てを装備していたが、レトはそれに剣を食いこませ、デレクの身体をふたたび柱に叩きつけたのだ。レトの体格からは予想できないほどの強烈な力だ。


 デレクはくたくたと床にくずおれた。全身に力が入らない。下手をすれば、どこかに麻痺が残るかもしれないほどの衝撃を身体中の神経が受けたのだ。


 「く、くそ……」

 床の土臭い味を感じながらデレクはうめいた。


……なぜ、あいつは簡単に対処できた……?


 「僕があなたの『奥の手』に対処できたのが不思議ですか?」

 レトの声が頭上から聞こえる。

 「あなたはこう思っていたのでは? 『こいつはとっさの攻撃には左へ避ける。そのときに使う奥の手には対処できないはずだ』と」


 デレクは両目を見開いた。「まさか……、まさか……、お前……」


 「僕はとっさの回避で左へ避けるクセはありません。あの果し合いのときに見せたのは、『偽のクセ』です。さっきのは、あなたの『隠し剣』を誘うために左へ避けました。あなたはあの技を使ったときのスキが大きいですからね」

……偽のクセ! そんな、バカな……。こいつは俺に『隠し剣』を使うよう仕向けたって言うのか? 一回見ただけの俺の奥の手をわざわざ使わせるだと……?

 「あの果し合いで、僕には目的がありました。それは、あなたの戦い方やクセを見極めること。できれば奥の手も見ておきたかった。もちろん、僕は本来と違う戦い方を見せて、それをあなたに覚えこませる必要もありました。あなたから必要な情報を引き出し、僕からは偽の情報を与えるために……。あなたの戦いぶりは僕にとって理想的でした。あの一回で、僕はあなたの戦闘スタイルを丸裸にできましたから」


……嘘だ、嘘だ、そんなことありえねぇ……。


 「信じられないって顔をしてますね。でも、本当です。あなたが盗掘者かもしれないと思ったあたりから、僕はあなたと戦う可能性を考えていたのです。あなたは僕より体格が大きく、通常の腕力も強いでしょう。そんな相手に初見で対処しきれるかわかりません。一度は剣を合わせ、実力や弱点を測っておきたい。僕はそう考えていたのです」


 「じゃあ、俺がお前と果し合いすることも予想していたのか? そんなこと……」

 「ありえませんか? 僕のことを下等民族と蔑んでいたあなたは、僕が目の前をちょろちょろ動いただけで怒りだしたでしょう?」


 その言葉を聞いてデレクは驚愕の表情を浮かべた。

……あの行動も『わざと』だったのか! 俺の気性を利用し、挑発してやがったのか! 俺はそれにまんまと乗せられて、こいつの意のままに果し合いをさせられていたって言うのか! こいつ、こいつは……。


――格が違う。こうも手玉に取られるなんて……。


 デレクは思い知ると、これ以上戦う意志も完全に消え失せた。

 「食えねぇ奴だ……」

 デレクはそれだけをやっとつぶやいた。


 レトは剣を自分の鞘に納めると、「よく言われます」と返した。

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