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こちらメリヴェール王立探偵事務所7 ~死者は迷宮の底で嗤う~  作者: 恵良陸引
Chapter 11

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 「お願いです、どうか!」


 メルルが大広間に飛び出すと、グリュックはデレクに取りすがって訴えているところだった。デレクはそれをうるさそうに払いのける。


 「うっせぇな。お前の事情など、こっちが知ったこっちゃねぇだろが。いいか? 今回は勝手にいただくって話じゃねぇんだ。ご領主様から、ちゃあんと許可いただいてんだぞ。『見つけた宝は好きに持って帰っていい』ってな」


 たしかに、マドラス伯は「宝飾で彩られた王冠であろうと好きにしてくれ。持ち出し自由だ」と言っていた。だからと言って……。


 「私からもお願いします! ここはグリュックさんが探し求めていた先祖の遺産なんです! あの像は、冒険者のお宝として簡単に手をつけていいものじゃないんです!」

 メルルも大声で訴えながらデレクのもとへ駆け寄る。デレクは振り向きざまにメルルを蹴り飛ばした。


 「きゃあ!」

 メルルは柱のひとつに激突して床に転がった。


 「お前もうっせぇんだよ、チビが!」

 デレクは吐き捨てた。


 「奥の間に据えられている黄金の像」

 遠くから誰かの声が響いてきた。レトの声だ。


 「悪いことは言わない。その像のことは諦めたほうがいい」


 「お前まで口を出すか」

 デレクは怒りで顔を真っ赤にさせた。

 「お前、いつからそんな口をきいていいって許可をもらった?」


 「緊急事態ですからね」

 レトはまったく意に介していない様子だ。デレクはますます険しい表情になる。「緊急事態だぁ?」


 「下手すると、僕たち全員が生命を落としかねませんからね」

 レトは落ち着き払って言った。

 「あなたの欲のせいで」


 「意味がわからねぇ。お前、何を言っている?」


 「考えてもみてください」

 レトは両手を広げた。


 「ここは先住民が放棄した城です。自発的に出ていったんです。そんな彼らが、財宝の類を置いて出ていくと考えられますか? 僕たちは第1層の街を知っています。あそこに何か残っていましたか? めぼしいものはおろか、食器や衣服など、生活に使ったものさえ彼らは残していなかったんです。なのに、どうして、黄金の像だけ残っていたのでしょう?」

 「知るかよ」

 「それは、あの像に手をつけられない訳があったからではないですか? たとえば、あれに触れると死の罠が作動するとか」


 いらいらした様子だったデレクの表情が変わった。「罠だと……?」


 「そうであれば、彼らが手をつけなかった理由がつきます。持ち去りたくてもできなかったんですよ。もし、あの像を持ち去ろうとすると、この迷宮全体が崩落する……。そういう破滅的なものであれば、ぜったい、誰も持っていこうとはしません」

 「バカ言え。そんな罠があるとどうしてわかる?」


 「あの像は初代王を模したものです!」

 グリュックが叫んだ。レトの考えを理解したらしい。

 「ホッタイト族の民は不可侵の存在として持ち去ろうとはしないでしょう。ですが、その像が持ち去られるということは、この城が落とされて、敵の手に渡ったことを意味します。像に迷宮崩壊の罠を仕掛けるのは、侵略者を城もろとも皆殺しにすることができる、最後の手段です!」

 それを聞いてもデレクは納得しなかった。呆れたように息を吐くだけだ。

 「はっ、バカバカしい。そんな『与太』に俺をつき合わせるな。いいか、こっからは命令だ。お前たちはもう邪魔をするな。殺すぞ」


 「さすがに、この場面で折れませんか」

 レトも呆れた様子だ。「ずいぶん、ご執心だったみたいですからね」


 「はぁ? 何を言ってる。俺を馬鹿にしてんのか?」


 「そうじゃないんですか?」

 レトはデレクの声にたじろぐ様子も見せずに言った。

 「あなたは、これまでずっと、ここを盗掘するために忍び込んでいたのでしょう?」


 レトの言葉はまるで魔法のようだった。時が止まったように誰もが無言で立ち尽くしている。

 メルルもまた、起き上がりかけた姿勢のまま、呆然とレトの横顔を見つめていた。レトの言葉の意味がすぐに理解できなかったのだ。


 「そうです。あなたがたは今回初めてこのダンジョンに入ったわけではない。少なくとも数回は出入りしていた。もちろん、マドラス伯の許可を得ずに。許可を得ない迷宮探索は、盗掘に入ったと同義ですよね?」


 「ずいぶんと言ってくれるじゃねぇか、アージャ族のクソガキ。根拠でもあるのか?」

 デレクの表情は怒りを通り越えた危険なものに変わっていた。怒気が満ちていた目に、今度は殺意のこもった危険な光が宿っている。


 「初めに抱いた違和感は、このダンジョンの入り口で出会ったゴズワルさんの言葉でした。彼はあのとき、たしかこう言いました」


――今日は大勢で来なさったな。ここ何回かこいつのためにお会いしましたが、ようやく、お仲間みんなで探検されるんですな……。


 「何げない言葉でしたが僕は変だと思いました。その言葉を聞く前に、僕はワッケナルさんから、このダンジョンはしばらく封鎖されていたと聞いていたからです。再調査の許可が下りたのは最近のことで、探索再開の最初にダンジョンへ入るのは自分たちだと言っていました」


 メルルはそのことを聞いた覚えがあった。たしかに、そうであればゴズワルが「ここ何回」と口にしたのは変だ。


 「ワッケナルさんが嘘を言う必要はありません。そのときのリーダーはマドラス伯のご子息、ルーベン氏ですから。勝手にダンジョンに出入りしたとしても咎められたりはしないでしょう。ですから、あのとき、ゴズワルさんが何か勘違いしたのかもと思い、あまり気にしなかったのですが。

 しかし、あなたがたのふるまいを見て考えを改めました。あなたがたは、まるで以前にここへ入ったことがあるかのようでした。宿にした建物で、居心地の良い場所を先に取ったこと。他人がマッピングした地図にもかかわらず迷わず先に進み、それどころか地図の誤りさえ指摘しました。それも道に迷う前にです」


 レトは淀みなく話し続ける。


 「そう。あなたがたは知っていたのです。このダンジョンのことを。第1層で宿にふさわしい建物はどれで、一番居心地のよい場所はどこなのか。左右の分かれ道で、どちらが次の階層へ通じているのか。あなたがたはあらかじめ知っていた。それはなぜか。あなたがたはマドラス伯の許可を得ずに、このダンジョンに踏み込んでいたからなのです。どこからか入り口のカギを管理しているのがゴズワルさんだと聞きつけて、あのひとにマドラス伯から許可を得たと騙してカギを借り、何度かここの探索を行なっていたのです」


 レトはグリュックに顔を向けた。「そうですね?」


 グリュックは首を横に振ったが、「し、知りませんでした。私はてっきり、許可をいただいていたものだと……」


 「お前は黙ってろ」

 デレクはグリュックも蹴り飛ばした。グリュックは何度も床を転がって、うつぶせで動かなくなった。


 レトは少し険しい表情で倒れているグリュックを見つめていたが、すぐにデレクに視線を戻した。


 「おそらく、あなたがたも第5層までは探索できたのでしょう。ですが、先へ進むことができず行き詰っていた。そこへマドラス伯から、ダンジョンに入る依頼が舞い込んできました。もっと自由に探索する機会を探していたあなたがたにとっては渡りに船の話だったでしょう。その話にとびついた。

 今回、この攻略であなたがたは仲間をうしなうほどの損害が出てしまいました。さっきあなた自身が言っていたように、『ただでは帰れない』状況なのでしょう。それに、目の前にはお宝がぶら下がっている。もともと、それが目的のあなたがたにすれば、迷わず飛びつきたいところですか。ですが、さっき、グリュックさんの言ったことが真実です。

 あの像に手を出してはいけません。あなたがたが死ぬのは勝手ですが、それに僕たちも巻き込まれる恐れがありますからね。今回は何が何でもこっちの言うことを聞いてもらいます」


 「何が何でもだと……」

 デレクは剣を抜き放った。

 「よくもまぁ、余計なことをぺらぺらぺらぺらと……」


 デレクはオリヴァーに顔を向けた。


 「オリヴァー! そこで突っ立てる連中を部屋に閉じ込めろ。クラリスは魔法使いの助手をやれ。こいつらはここで始末する」


 「何だって!」

 アンリは叫んだ。「お前、正気か?」


 「お前は本当に馬鹿だな!」

 デレクは吠えた。


 「こいつはお前たちに不審な点がないか探るために雇われた奴なんだぞ! こいつから伯爵様にあることないこと吹き込まれてみろ。お前たちがどんな目に遭うか想像もつかないか? こんな奴はここで始末したほうがお前たちにとっても得だろうが!」


 「だからって殺すほどじゃ……」

 アンリは身体を震わせている。「でも、それで俺たちは安全になるのか?」


 「手を貸せとまでは言わねぇよ」

 デレクは請け合った。

 「黙ってさえいればいいんだ。伯爵様には探偵も尊い犠牲になったと俺から報告するさ。俺たちもお前たちも、仲間を喪うほどの犠牲が出たんだ。ダンジョン攻略の経験もないのがあと2人死んだところで不思議はねぇだろ?」


 「そ、そうかな……」アンリはうつむきぎみにつぶやく。その肩をレティーシャがつかんだ。「だめよ」声には出さず口の動きだけで伝えようとしている。しかし、アンリは気づかない様子だ。


 「僕を殺しますか」

 レトは落ち着いた声で言った。デレクの言葉にまるで動じていない。


 「わかってねぇようだな、劣等民が! お前はもう俺に負けてんだよ。格付けはすんでるんだ。お前が俺にかなうはずがないだろうが!」


 「格付け? あの果し合いは格付けでしたか」

 レトもまた、すらりと剣を抜いた。白銀の美しい剣がランタンの明かりを受けてきらりと光る。

 「あれであなたが上だと決まったのですか?」


 「さっきも言っただろうが。お前は負けたんだよ!」

 デレクは剣を振り上げレトに襲いかかった。レトはすっと飛び下がってデレクの剣をよけた。


 「仕方がないですね」

 レトは剣を構え直した。

 「格の違いってもの、わからせるとしますか」

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