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こちらメリヴェール王立探偵事務所7 ~死者は迷宮の底で嗤う~  作者: 恵良陸引
Chapter 11

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 リュートとロズウェルの遺体は『制御室』まで運ばれた。2人とも聖布にくるまれ、ランタンの明かりが布をオレンジに染める。どうも、この明かりのもとでは、ダンジョン虫の類は近づいてこないようだ。こうしておけば『屍肉齧り』などに齧られることはなさそうだ。

 「ドットさんのときに気づいてあげればよかった……」

 手を組んで黙とうしながらメルルはつぶやいた。


 「しかし、よく無事だったな」

 アンリはレトの肩を叩いた。さっきまで震えていたとは思えない、ずいぶんと馴れ馴れしい様子だ。恐怖心から解放された反動で、レトに親しみを覚えたのか。


 「まぁ、運が良かったんです」

 レトは言葉少なだった。実のところ、どうやって生還したか詳しく話したいと思っていなかった。


 「そう言えば、レトさんは、さっきどこから来たんですか?」

 メルルは思い出したように尋ねた。レトが現れたのは誰もいなかったはずの初代王が祀られていた部屋の方角だったのだ。


 レトは諦めたようにため息をついた。

 「僕は落とし床の罠にかかったんだけど、底は地下水脈が流れるところだった。僕は水が衝撃を押さえてくれたおかげで助かった」

 半分近くは本当だが、それでも正確な話ではない。

 「そこからなんとか這い出して、あとはひたすら崖昇りだ。途中で横道を見つけて、そこから出口を探したんだ。おそらく、最下層から地上へ逃れるための隠し通路だったんだと思う」


 「隠し通路? じゃあ、地上に出られる道があるのか?」

 アンリは大声をあげた。しかし、レトは首を横に振る。


 「そこへ通じると思われるところは岩や土砂で埋まっていました。長年のことで崩落したか、ダンジョン本来の持ち主がこの地を離れる前に誰も使えないよう埋めたようです」

 「そうか……」アンリは落胆して肩を落とした。


 「あてどなく進んでいたところで、頭上から誰かが叫んだり駆けまわる足音が響いてきました。見上げれば、一部、床板らしい箇所が目についたのです。おそらく、そこが抜け道へ入るための蓋だと見当をつけて、僕はそこから大広間へ這い出したんです」


 あの瞬間にレトが駆けつけてくれたのは騒ぎが聞こえたからなのか。ただの偶然じゃなかった。メルルは思った。レトが颯爽と駆けつけたときは運命的なものを感じだのに……。


 「ところで、5層の階段は操作できるようになったのか?」

 デレクがレティーシャに話しかけた。彼は仲間だったはずのロズウェルを悼む様子も見せず、平然としている。むしろ、自分たちのことしか意識になく、ほかの関心は持っていられないようだ。


 「5層の階段を動かすメドは立ちました」

 レティーシャは壁の一部を指さした。壁に刻み込まれたいくつかの古代の魔法陣が光を帯びている。レティーシャたちが作動させるのに成功したのだ。

 「ただ、この仕掛けを動かすのに、そちらのグリュックさんの協力が必要ですが」


 「私の?」グリュックは自分を指さした。


 「ええ」レティーシャがうなずくと、リューゼが進み出た。

 「あの階段は、ホッタイト族の血液で動く仕組みなのです」


 グリュックは狼狽した。「私たちの血液……?」


 「5層に水場と、手水がありましたでしょ? ただ、あの手水は水を貯めるというより何かを水と一緒に流し込むような穴が空いていましたが、あなたは自分のケガをあそこで洗い流していましたね。まさに、あれがホッタイト族の血を注ぎ入れる、5層の階段を動かす切替器スイッチだったのです。あなたの血に反応し、あの階段は動いたのです」


 「5層の階段脇の文言の意味はそれを示してたんですね!」

 メルルは声をあげた。


――警句。下層へ向かう者は上層に断りを入れるべし。

  下層へは直接進むこと能わず。

  ブルトの者は、自らのブルトをもって、道を築くべし。


 6層へ至る扉のそばで見つけた暗号めいた文言。

 ブルトはたしか、ドルチェ語で『血液』、あるいは『血族』だと思われた。その解釈は正しかったのだ。つまり、「ホッタイト族の血を持つ者は、自らの血でこの階段を動かせ」と言っていたのだ。


 「ここでは階段を上にあげる指示はできますが、直接作動させることはできません。ですが、あの水場でグリュックさんが自分の血をふたたび流し入れてくれれば……」


 「4層へ階段がつながるのですね?」

 グリュックは理解したようだった。「わかりました」


 「つまり、このダンジョンは、こいつがいなけりゃ攻略不可能、ってことだったのか?」

 オリヴァーが呆れたような顔を見せる。

 「どうりで……」


 「おい」

 デレクがオリヴァーの肩を殴った。

 「何だよ」オリヴァーは痛そうに肩を押さえる。


 「このまま『ただ』で帰るつもりはねぇだろ?」


 デレクの言葉に、オリヴァーの目が輝いた。「そう言えば……」


 グリュックもまた、デレクの言葉に反応した。「まさか……」


 「お宝をいただいて帰るんだよ」デレクは部屋を出ていった。大広間の方向だ。

 グリュックは蒼ざめた顔で、「ま、待ってください!」とあとを追った。オリヴァーとクラリスもあとに続く。


 「お宝って……、まさか!」

 メルルも気づいたように顔をあげた。「初代王の像!」


 「初代王?」

 像を見ていないレトがメルルに尋ねる。「何か見つかったのか?」


 「黄金の彫像です!」

 メルルはレトの手を引っ張った。


 「あのひとたち、ホッタイト族の宝に手をつけようとしてるんです!」

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