表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらメリヴェール王立探偵事務所7 ~死者は迷宮の底で嗤う~  作者: 恵良陸引
Chapter 11

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/55

49

 ルーベンめがけて走っていたデレクは思わず立ち止まってしまった。


 「探偵? 生きてやがったのか!」


 「ええ。それより状況を!」

 レトはルーベンの剣を弾き返すと、メルルたちをかばうようにして身構えた。


 「2人やられた。女たちは別室だ。それに今、神官がやられた」

 デレクは手短かに状況を伝えた。


 「優勢とは言えないですね……」

 レトは顔をしかめた。メルルにちらりと顔を向ける。

 「ドラクロワさんを襲っている虫を焼き払ってくれ」


 メルルはうなずいた。「わかりました」


 「グリュックさんは神官長様を連れて、この場から離れてください。僕が死骸者コープスを抑える間に、早く!」


 「は、はい!」

 グリュックはロズウェルにかがみこむと、ゆっくりと引っ張りはじめた。ロズウェルはすでにぐったりしていて、抱えて運ぶのは難しい状況だったのだ。


 レトはルーベンめがけて突進した。思いきり剣を振り下ろす。ルーベンはまるで避けようとせず、肩から剣を受けた。レトの剣はざっくりとルーベンを肩から胸にかけて切り裂いた。同時にルーベンもまた剣を突き出す。剣の切っ先は正確にレトの喉を狙っていた。レトはその剣を鎧に覆われた左手で弾いて防いだ。


 「なんて奴だ。わざと剣を受けて攻撃しやがった!」

 デレクは戦慄を覚えながら叫んだ。これが死者の戦い方か。致命傷を負うことをまるで恐れない攻撃。本来であれば、レトの一撃で勝負は決まっていたのに、ルーベンは平然と攻撃を続けている。相手に攻撃させて、そこで生まれた隙をつく。レトが攻撃を防げたのは運が良かったとしか思えない。自分が初見であれに対していたら、喉を確実に刺し貫かれたことだろう。


 「レトさん、大丈夫ですか?」

 クラリスを覆っていた虫を『火球衝撃ファイアーボール』で焼き払ったメルルが尋ねた。


 「僕は問題ない。さすがに死者との戦い方にも慣れてきた」

 レトは冷静な口調で返す。レトのいつもの感じにメルルは安心した。


 「ルーベンさん。もう、あなたに話を聞いてもらおうなんて考えません。ですから、僕はこれから、あなたを仕留めます」

 レトはルーベンに話しかけた。ルーベンは首をかくんと傾ける。

 「仕留める? しと……める? しと、しと、しとしとしとしと……」

 ルーベンの声を聞いて、アンリの顔は真っ青になった。声はだいぶ変質していたが、それでもルーベンの声だとわかるからだ。

 そして、レトの呼びかけに対する異常としか思えない反応。これにはアンリだけでなく、その場にいる者全員を戦慄させた。

 「まともじゃねぇ……」オリヴァーが声を震わせる。


 ルーベンは首の位置を元に戻すと、剣を振り上げレトに向かっていった。迎え撃つレトは剣を中段に構える。

 「ぐわぁああ!」

 ルーベンが奇声をあげて剣を振り下ろすと同時にレトも剣を振った。

 ガツンと固いものがぶつかる音が聞こえ、レトは右側に身体をよろめかせた。

 「まさか……」

 レトが驚いたようにつぶやく。「喉に硬いものを飲み込んで剣を防ぐなんて……」


 レトの剣は正確にルーベンの喉を狙ったのだが、首を斬り落とすことができなかった。喉にはレトが斬った跡があるが、その切り口から白い石のようなものが見える。メルルはそれがクラリスの魔法で破壊された床のがれきと同じ色だと気づいた。


 ルーベンはレトのかたわらを駆け抜けると、そのままメルルに向かって走っている。メルルは杖を構えたが、ルーベンはメルルもかまわずかたわらを駆け抜ける。その先にいるのはグリュックとロズウェルだ。


 「野郎! あくまで神官狙いか!」

 デレクはふたたび駆け出したが距離がありすぎる。決して間に合わない。


 「いえ、好都合です……」

 ロズウェルは小声でつぶやいた。「向こうから来てくれるんですから……」

 ロズウェルは右手を弱々しく持ち上げた。向かってくるルーベンに向けて差し伸べる。


 「『神聖結界セイクリッドウォール』……」

 ロズウェルは神聖魔法を唱えた。ロズウェルの身体が光に包まれる。その光はどんどん大きく広がり、瞬く間にルーベンも包み込んだ。ルーベンの足が止まる。


 「神聖結界……。これが……」オリヴァーもまた立ち止まってつぶやいた。


 ルーベンの身体にはまだ無数の虫がとりついていたが、ルーベンが光に包まれると一斉に逃げ出した。床にばらばらと落ちると、一目散に光の届かないところへ走り去っていく。

 ルーベンの身体にも変化が起きていた。顔や手が白くなり、まるで砂でできていたようにさらさらと崩れ始めたのだ。ルーベンは剣を落とし、両手を自分に向けて眺めている。自分の身に何が起きているのか理解できないようだ。

 いや、理解したのかもしれない。

 「は、は、は、は、は、は、は、は……」

 ルーベンは口を開くと、急に笑い声をあげはじめた。目は虚ろなままだったが、口元は愉快そうに見える。

 「はは、はは、はははははは……!」

 聞こえるのは哄笑だった。大広間全体にルーベンの笑い声が響き渡る。


 「ルーベン……」

 柱の陰から声が聞こえ、メルルが目をやると、そこにレティーシャとリューゼの姿があった。2人は無事だったのだ。大広間の騒ぎを聞きつけて部屋から出て来たらしい。さきほど聞こえたのはリューゼのつぶやき声だった。


 さらさらさら……。

 ルーベンの身体はみるみる崩れていく。ルーベンは急にがっくりとひざをつくと、そのまま天を仰いだ。脚も同様に砂となって崩れており、自力で立つことができなくなったようだ。笑い声は続いている。


 「はははははは……!」


 ルーベンは嗤い続けた。何かを嘲るように。何かを笑い飛ばすかのように。死者がどのような思考で今の状況を考え、そして嗤っているのか。メルルはおそらくわかることはないだろうと思った。少なくとも自分が死ぬ、そのときまで。


 ルーベンだった者の姿はどんどん崩れ、やがてそこには鎧や服、そして、灰のような砂の塊だけが小さな山を形作っていた。ルーベンの嗤う声はとっくに消えているのだが、みんなの耳には残響のように残っていた。


 「神官様、やりましたよ……」

 グリュックはロズウェルの頭を優しく抱きかかえたまま語りかけた。「死骸者は神の御許みもとへ旅立ちました」

 メルルはそのかたわらで、必死になって回復魔法をかけている。しかし、メルルの回復魔法では効果が現れない。ロズウェルが倒れている床に血がどんどん広がっていった。


 「ようやく、ようやくやり遂げました……」

 ロズウェルは小声でつぶやく。目は虚ろで、顔色はすでに死人と変わらなかった。

 そこへレトが駆け寄った。「神官長様!」


 ロズウェルは弱々しく手を振る。

 「よしてください。何度も言いますが、私は神官長はもちろん、神官ですらないのです。皆さん、どうしてもそう呼びますが……。ですが、私はようやく、人生最期のときにようやく、その役割を果たすことができました。こんなに満ち足りた気持ちで今を迎えられること……、私はなんて幸せなのだと思います……」

 「神官長様……」

 ロズウェルは笑みを浮かべた。レトに手を伸ばす。レトは急いでその手を取った。

 「レト殿。どうか、どうか、あの方をよろしくお願いします。私たちにとって、真の英雄であるあの方を」

 「……団長、ですか……」

 「あの方は孤独でした。今では味方する者も少ないでしょう。あなただけです。あなただけが、あの方を救うことができる……」

 「どうして、どうして僕が団長を救えるなどと? 僕にできることなど……」

 ロズウェルは小さく首を振った。「四候アンタレス……」

 「え?」

 レトは硬直した。

 「のひとは、あの方とあなたが出会うだろうと言いました。いずれ、と……」

 「あなたは四候に会ったのですか? いつ?」

 レトは思わず大声をあげた。

 「レトさん!」

 メルルはレトの肩に手を置いて揺さぶった。

 「もう話させちゃいけません!」

 レトは、はっとした表情になって身体を遠ざける。

 「どうか、あの方にも救いを……」

 ロズウェルはそうつぶやくと目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ