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こちらメリヴェール王立探偵事務所7 ~死者は迷宮の底で嗤う~  作者: 恵良陸引
Chapter 11

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 「くそっ。神官さん、浄化魔法を! すぐに!」

 デレクが大声をあげると、ロズウェルは狼狽した表情を見せた。


 「も、申し訳ありません。さっきのことで詠唱を中断してしまいました。また一から詠唱し直さなくてはなりません……」


……それを見越して、今攻めてきたのか?


 デレクは突然の襲撃に混乱しかけながらも、どうにか状況を理解しようとしていた。しかし、そこから得られる結論は、自分たちが窮地に陥っているということだった。


 「クラリス! 神官さんを守れ! 詠唱の時間は俺たちで稼ぐ!」

 デレクはアンリの肩をどんと殴ると飛び出した。つられるようにアンリも駆け出す。

 オリヴァーはデレクよりも早く動いて、ルーベンの左手側へ回り込んだ。


 「心臓なんか狙うなよ。狙うのは首だ。首をはねてしまえば無力化できる!」

 デレクはルーベンの右手に回ると、剣を振り上げた。


 ルーベンはすっと後ろへ下がると部屋から姿を消した。開いた扉から下がったのだ。


 「誘ってるのか?」

 デレクはそんな考えが浮かんだが、燭台に置いた自分のランタンを取り上げると、勢いよく大広間へ飛び出した。ランタンを床に滑らせて明かりを確保すると、扉の陰に何もないことを確かめて大広間へ進み出る。


 「無茶するなよ」

 オリヴァーもランタンを掲げながら大広間に入ってきた。

 「相手が待ち構えてたらどうするんだ」


 「奴め、扉の前にわざと足跡を残して、柱の陰に隠れていやがったんだ。俺たちがあの部屋に入るよう仕向けるために」


 「ご子息様は、あの罠に気づいてたのか?」


 「わかるかよ。だが、認めるしかねぇ。死骸者コープスには知恵がある。俺たちがあの罠でダメージを受けるか、それとも混乱すると読んだんだ。スキを見せるつもりはなかったが、まんまと一杯くわされた」

 デレクは悔しそうな声を出した。


 「で、当のご子息様はどこに消えた?」

 オリヴァーはランタンの明かりをあちこちに向けて探した。しかし、大広間は広いだけでなく、太い柱が何本も立っているので、どこにルーベンが潜んでいるのかわからない。


 「大丈夫なのか?」

 アンリがこわごわとした様子で扉からのぞいている。デレクは顔をしかめた。

 「でかいなりして何ビビッてやがる。扉の近くにご子息様はいねぇよ」

 それを聞いて、アンリはそろそろと出てきた。


 「あんたの相棒は?」オリヴァーが尋ねた。アンリは首を横に振る。


 「喉を剣で一突きだ。即死だろうよ。一応、助手見習いのお嬢ちゃんが診てくれているが……」


 そこへ、メルルが扉を開けて姿を見せた。メルルに続いて、グリュック、ロズウェル、そして、クラリスも現れる。

 メルルはデレクの顔を見ると、無言で首を振った。


 「レティーシャとリューゼは?」

 アンリは声を震わせて言った。「彼女たちは無事なのか?」


 「さぁな。大声で呼んでみるか? あの扉を開けてくれるかもしれねぇぜ」

 デレクは奥を指さした。その先にはデレクが『制御室』と呼んだ部屋がある。


 「だ、ダメだ。無事だったらなおのこと、彼女たちは巻き込めない」

 アンリは両手を広げて言った。「地上へ戻れるかどうかは、もう彼女たちにかかってるんだ」


 「だよな」

 デレクはつぶやいた。大広間の中心をゆっくりと歩く。左右に視線を送りながら注意をはらう。天井を支える柱とは均等に距離を取り、急な襲撃に対応できるようにしている。


 「おい、副団長」

 オリヴァーはランタンを持ち上げながらアンリに話しかけた。

 「俺は右側の壁から探っていく。あんたは左側を探ってくれ」


 「お、俺ひとりでか?」アンリは顔を引きつらせた。


 「デレクが中央から行ってるんだ。俺たちが左右から回り込まなかったら意味ないだろ。神官様の浄化魔法が発動するまで、クラリスはそばを離れられねぇ。残りは役立たずの荷物持ちと、ちっちゃいお嬢ちゃんだぜ。あんた以外に接近戦できるのがいるか?」

 オリヴァーは当たり前だろと言わんばかりだ。

 アンリはグリュック、続いてメルルに目を向けた。そして、深いため息をつく。「……わかった」


 「ご理解いただけてけっこうだ。さ、行くぜ」

 オリヴァーはそう言うと、最初の柱からだいぶ距離を取ったところからランタンをかざす。柱のそばへは近づかない。

 アンリもまた、オリヴァーを倣うように柱から距離を取って死角になる箇所へ明かりを照らす。照らし出された光の輪の中に柱以外見当たらないと、ほっと息を吐いた。


 「ぐずぐずするなよ。デレクはもうだいぶ先を行ってるぜ」

 オリヴァーは次の柱を検めながら言った。アンリは慌てたように次の柱を目指す。「きゅ、急に言われてもな……」


 デレクはランタンを小刻みに蹴飛ばしながら進んでいる。ランタンを持つことで片手がふさがることを避けているのだ。初めは無表情だったが、大広間の半ばを過ぎたあたりでデレクの表情に焦りの色が浮かんできた。


……どういうこった? 柱の陰に何かが潜んでいる気配は感じられねぇ。あの短時間だ。大広間の反対側まで駆け抜けたとは考えにくい。じゃあ、奥にある制御室か? いや、あの部屋は扉がずっと閉じたままだった。ご子息様が入り込んだのなら、扉が開閉する音が聞こえたはずだ……。


 アンリが恐れたように、デレクにとってもレティーシャやリューゼが犠牲になるのは痛い。『銀狼団』には古文書解読や魔法陣の解析ができる者などいないからだ。『制御室』が静かなのはデレクでも不安にさせる。


……だが、無事を確認するために扉を開けたり、あいつらに声をかけるのはまずい。逆に2人が狙われることになったら、とんだ『ヤブヘビ』ってやつだぜ……。


 デレクは立ち止まって後ろを振り返った。細かく指示していなかったが、オリヴァーとアンリが左右に分かれて、デレクから死角になる柱の陰を探っている。実質的に挟み撃ちになるのだが、標的は未だ網にかかってこない。


 デレクはふいに寒気を感じた。改めて気づいたのだ。自分が今、相手をしているのは人間であって人間ではない。かつて人間であっただけで、今はまったく別の存在だということに。


……俺は、つい、相手を人間という『物差し』で測っていた。だが、人外だと考えればどうだ? この場合、奴らがひそめられるのは柱の陰だけでなく……。


 ふいに、デレクの頭に最悪の想像が浮かんだ。思わずデレクは叫んだ。「オリヴァー、戻れ! 今すぐ! 神官のところへすぐだ!」


 デレクの声にオリヴァーはすぐに動けなかった。困惑した表情を浮かべ、デレクと、だいぶ後ろに立っているロズウェルたちを交互に見ている。


 「くそっ!」

 デレクは自分のランタンはそのままに駆け出した。


……柱があまりに太いから人間は登ることができないと決めつけていた。だから、柱の上はまったく確かめていねぇ。だが、これまで想定外のことをやってのけた死骸者であれば……。


 ロズウェルたちが立っているところに一番近い柱の上から何か蠢くものが見えた。『それ』は何かをきらめかせながらロズウェルたちめがけて飛び降りる。剣を逆手に持ったルーベンだ。


 「よけろ!」デレクは走りながら怒鳴った。


 自分たちめがけて飛び降りるルーベンに気づいたのはメルルだった。メルルは浄化魔法の詠唱をしているロズウェルの服をつかむと後ろへ引っ張った。


 ルーベンが剣を閃かせ、血しぶきがあがる。ルーベンの剣はロズウェルの腹部を斜めから刺し貫いていた。


 「ロズウェルさん!」

 メルルが叫ぶと同時に、ロズウェルの身体がくずおれた。


 クラリスは思いきり飛びずさると矢を放った。クラリスの腕はたしかで、矢はルーベンの頭を真横から貫いた。しかし、ルーベンは倒れはしなかった。片手をクラリスに向けると、そこから黒い塊が網のように広がってクラリスに襲いかかる。


 「虫だ!」ようやく駆け出したオリヴァーが大声をあげた。メルルも記憶にある虫を使った攻撃だ。


 「きゃあ!」

 黒い虫は一瞬でクラリスを覆いつくした。クラリスは虫から逃れようと床を転がりまわる。


 「あっちへ行ってください!」

 グリュックが叫びながらリュックを振り回した。武器を持たない彼が唯一武器にできるものだ。


 ルーベンはそれを難なくかわしながら後ろへ下がった。


 「そっちへ行ったぞ、副団長!」

 オリヴァーは剣を振り上げながら怒鳴った。


 アンリもまた剣を抜いてはいたが、構えているとは言えない中途半端な姿勢で立っている。

 「わ、わかってる。わかってるんだ、俺だって!」

 しかし、血を滴らせる剣を手にしたルーベンに、アンリはまったく手を出せずにいた。戦意はすでに見られない。


 ルーベンもまた、アンリには目もくれず、グリュックたちに向かって駆けだした。ロズウェルは腹を押さえて苦しんでいる。そのロズウェルにとどめをさそうとしているようだ。

 「やめてください、ルーベンさん! お願い!」

 メルルはロズウェルの前に立ちふさがって懇願した。死骸者に話が通じるかどうかなど考える暇などなかった。ただ、ロズウェルをかばうため。そのためだけにメルルは身を投げ出す行為に出たのだ。


 メルルの必死の声にもルーベンは応えない。機械仕掛けの人形のように剣を振り上げ、メルルの頭めがけて振り下ろした。


 その場にいた者すべてがメルルは斬られると思った。


――しかし……。


 ガキンという金属同士がぶつかり合う音が響き渡り、ルーベンの剣はメルルの頭上で止まった。もうひとつの剣がそれを受け止めていたのだ。

 メルルはルーベンの剣を受け止めた相手を振り返った。相手がわかると、その目から涙があふれ出す。


 「すまない。遅くなった」

 ルーベンの剣を受け止めたのは、レトだった。

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