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こちらメリヴェール王立探偵事務所7 ~死者は迷宮の底で嗤う~  作者: 恵良陸引
Chapter 10

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 突入した彼らを待ち受けていたのは暗闇だった。彼らが手にするランタンでは全体を見通すことができなかったのだ。


 「クソッ! 明かりが弱すぎたか!」

 デレクはランタンに手をかけると明かりを強くした。この場面で魔法力の消費を抑えるだの言ってられないと判断したのだ。


 デレクはすばやく辺りを見渡すと、壁に燭台が見えた。デレクは迷わずそれにランタンを載せる。両手が自由になったデレクはさらに奥へ足を踏み出した。


 ガチン!


 デレクの背後で金属的な音が響く。デレクはとっさに振り向いた。「何だ?」


 すると、ガチン、ガチン、という音が部屋のあちこちから響くと、とつぜん部屋に明かりが広がった。


 「こ、これは……」

 アンリは片手でランタン、もう片方で剣を握ったまま棒立ちになる。


 メルルは瞬時に悟った。「燭台が切替器スイッチなんだ!」


 「照明が点いたのか?」

 オリヴァーは役目を忘れて数歩進んだ。


 部屋全体に明かりが広がり、その場の全員が少し動きが鈍くなった。これまで薄暗い状態に慣れていたので、これほどの明るさに目がくらんでしまったのだ。


 「誰もいないわ」

 最初に、明かりに慣れたのはクラリスだった。彼女はロズウェルの隣で、弓を手に身構えていた。


 「誰もいないだと?」

 デレクは目をしばたかせながらつぶやいた。


 部屋は50人ほどが入れる広さだった。最初の印象よりは狭い。壁にはいくつものランプが備え付けられ、それらからまばゆいばかりの明かりが灯っていた。炎によるものではない。これらも魔法石の力で輝いているのだ。

 「ここは魔素でいっぱいだからな」

 リュートがつぶやいた。

 「2千年以上経っても魔力切れにならなかったんだ……」


 さきほどの大広間と違い、ここには柱がなかった。両開きの扉があったわりに部屋の幅は広くなかったのだ。この部屋を造った者は、このぐらいの広さだと柱がなくても落盤の心配はないと判断したらしい。


 そして部屋の奥、彼らの正面には……。


 黄金に輝く小さな像があった。


 「あれは……」グリュックから小さな声が漏れる。「初代様……?」

 グリュックもまた役割を忘れてしまったらしい。像のそばまで駆け寄ると、その像にかがみこんで見つめた。


 「ま、間違いない。初代王、ホッタイト一世の立像!」


 「本当ですか?」

 メルルもグリュックのそばまで駆け寄った。2人並んで像を見つめる。


 「……ここはホッタイト王国の地下城だったんだ……」

 グリュックはつぶやいた。「ついに見つけた……」


 「何、勝手に行動してやがる!」

 デレクが頭から湯気を立てて2人に迫った。「で、何だって?」


 「これ、初代ホッタイト王国国王様の像なんです!」

 メルルは興奮気味に話した。


 「ホッタイト王国? 人間様の土地に亜人の王国なぞあったのか?」

 デレクはじろりとグリュックを見下ろす。「しかも、こんな下等人種に王国だって?」


 「小王朝乱立時代のころは、亜人種もこのあたりで国を持っていたのです」

 アンリが代わりに解説した。

 「ホッタイト族も例外じゃなかったです」


 「で、今では滅んでこの有様ってか」

 デレクは軽蔑したように鼻で笑った。「いいざまだな」


 「しかし、この部屋には隠れる場所はない。ご子息様はここにいなかったな」

 オリヴァーが歩み寄りながら言った。


 たしかにこの部屋は、ほぼ長方体の空間だった。異なるのは、この初代王の立像が納められている、わずかな窪みだけだ。


 「像の裏に誰か隠れられる隙間はない。ここにご子息様はいない」

 デレクも事実を認めた。


 「くそ。ここだと思ったんだがな……」

 デレクは頭をかきながら扉に身体を向けた。


――すると――。


 ガチンと大きな音がふたたび響き渡り、扉付近の明かりが消えた。それに、開けたままだったはずの両扉が閉まっていた。


 「な、何だ?」デレクは立ち止まって大声をあげる。


 間もなく、ガチンと音が響き、今度はさらにもう一列の明かりが消える。どうやら段階的に部屋の明かりが手前方向に消えていくようだ。


 「何が起こっている……?」

 アンリも不安そうに立ち尽くしていた。メルルも辺りに目を向けながら事態の把握に努めた。


……これは罠? ルーベンさんからの攻撃じゃない。この部屋本来の罠だ。でも、どんな罠? これから罠が発動します、なんて予告するような罠なんてあるの?


 「ダメだ! 扉が開かない!」

 いち早く扉に飛びついていたリュートが叫んだ。「閉じ込められた!」


 「くっそう、こんなところで死の罠か!」

 デレクは床を思いきり踏みつけた。


 極限状況に追い込まれたとき、ひとは脳内で膨大な情報処理を行なうことがある。生き残る手段を見つけ出すため、これまで身に着けた知識、目にしたことや耳にした情報すべてを駆使し、生存への道を見つけ出そうとする。今、メルルの頭のなかでは、まさにその状態になっていた。


 ぐるぐると音さえ聞こえるかと思うような勢いで、これまでの記憶が脳内を駆け巡る。


――思い出せ! 気づけ! ここに来るまでに私たちは何を見て、何を知った? これまでのことにこの事態を乗り切る手がかりはなかった?


 そのとき、何の脈絡もなく、グリュックとの会話が甦った。


――その像より頭が高い位置にあるのは不敬とされたそうです……。


――国民は皆、初代王の立像から許しを得るまで座礼の姿勢を続けなければなりませんでした……。


 まさか。


 メルルは怖いものを見るようにかたわらの立像に目を向けた。


 まさか、まさか、まさか――!


 ガチン!


 音が響くとさらに明かりが消える。彼らが立つあたりまでもうわずかだ。


 「皆さん!」

 メルルは床に伏せながら叫んだ。

 「床に伏せてください!」


 それを聞いてグリュックはハッとした表情になると像に向かって平伏し、額を床につけた。


 「な、何をしてる?」デレクは戸惑った声をあげる。


 「時間がありません、早く! 皆さんもグリュックさんの真似をして、あの像の頭よりも低い位置になるように!」


 ガチン!


 明かりの消える音が響く。部屋の明かりは像の付近の列だけになった。


 メルルの言葉を理解したわけではない。しかし、メルルの必死の叫び声を聞いて、残りの者たちも床に伏せ、ある者はグリュックと同じように平伏する姿勢になった。


 ガチン!


 音が響き渡り、最後の明かりが消えた。同時に頭上をヒュンと音を立てて何かが飛び去る気配を感じた。その音には全員聞き覚えがあった。第8層へ向かう階段で、ドットの首をはねた罠と同じ音……。


 「まさか、あの仕掛けか!」

 床に這いつくばったまま、デレクは思わず叫んだ。


 かちり……。


 これまでとは控えめな音が聞こえると、部屋がふたたび明るくなった。壁の明かりがいっせいに灯ったのだ。部屋は何ごともなかったかのように沈黙している。


 「お、おい、これを見てくれ……」

 扉のそばでへたりこんでいたリュートが片手をあげた。

 「お、俺の杖が……」


 リュートの手には先端が切断された杖があった。リュートは身体だけひれ伏したが、杖はその場に立たせた状態だったのだ。


 「た、助かったの……?」

 クラリスはゆっくりと立ち上がりながら、誰ともなく尋ねる。


 「見た? 見た? 俺の杖……。へ、へへ。下手すりゃ、俺がこうなってた……」

 リュートはガタガタ震えながら笑っている。安堵の気持ちに、こみあげる恐怖心が混じって、リュートの笑顔は引きつっていた。


 「そうだな。良かったじゃねぇか、まだ首と胴体がくっついててよ。このお嬢ちゃんに感謝しな」

 デレクはわかったわかったと言わんばかりに両手をひらひら振った。


 「そ、そうだなお嬢ちゃん、あ、ありがとう。ど、どうして、さっきの罠がわかった?」


 「グリュックさんのおかげです。グリュックさんが、ここがもしかしたら先祖の遺跡かもしれないと言ってくれて。もし、そうであれば、掟を破る者を誅殺する仕掛けがここにあるって教えてくれたんです」

 メルルが説明すると、グリュックは右手をぶんぶんと振った。

 「そんな具体的なこと話してません。伝承について、ふわっと話しただけです。私だって、メルルさんが叫ばなかったら罠のことに気づけませんでしたよ」


 「どっちでもいいさ。助かったんだから」

 デレクはやれやれと肩を振り回した。すっかり安心したようだ。その様子を見て、リュートもだいぶ落ち着きを取り戻せたらしい。

 「ああ、せっかくの杖が台無しだ。これ、けっこう高かったのに……」

 先端を失った杖を見つめてぼやきだした。


 杖を見つめるリュートの背後から、片方の扉がほんの少し、すっと開いたのはこのときだ。この瞬間はリュートの陰だったこともあり、誰も気づかなかった。ただ、リュートだけは自分のすぐ背後の気配に気づいて振り返った。


 リュートは突然、自分の喉を刺し貫かれる感触に襲われた。

 「が……!」

 リュートは目だけを動かして、自分の喉を貫いたものを見つめた。細身の剣だと気づいたが、そのときにはすでにリュートの意識は消えかかっていた。


 「リュートさん!」

 異変に気づいたメルルが叫ぶ。リュートは扉にもたれかかるようにして倒れると、そのままずりずりと床に寝転がった。扉の陰からは切っ先を血で濡らした剣がのぞいている。


 「何!」

 「リュート!」

 デレクとアンリが同時に叫んだ。


 扉がさらに押し開かれ、ひとりの男が姿を現した。男……と表していいのか。その男は全身を黒い虫に覆われていた。おかげで身体つきでかろうじて人間の男だとわかる程度だ。顔半分は完全に虫で覆われて、虚ろな目がひとつ、こちらを見つめていた。


 「こ、こんな場面で……」

 デレクは怒りで身体をぶるぶる震わせた。「死骸者コープスめ……!」

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