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こちらメリヴェール王立探偵事務所7 ~死者は迷宮の底で嗤う~  作者: 恵良陸引
Chapter 10

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 デレクの見立ては正しかった。

 あれから一行は罠を避けながら、罠が多い通路を選んで進んでいくと扉に出会ったのだ。次の階層、第9層へつながる扉――。


 「この扉には開けられた形跡がねぇ」

 デレクは顔をしかめた。

 「ご子息様はどこ行ったんだ?」


 「ほかの通路を探ってみないか」

 オリヴァーが提案した。

 「まずはご子息様の遺体を確保しないと……」


 「たしかにそうなんだがな……」

 デレクは考え込んだ。


 「何か気になることでも?」

 クラリスが尋ねた。


 「第7層は思わせぶりに姿を現したくせに、第8層はあっさり俺たちを行かせてる。理由がわからねぇ」


 「そもそも死者に意志だの意図だのあるの?」

 クラリスは考え過ぎだと言わんばかりだ。


 「だが、あれで探偵はおびき出されてやられちまったぜ」

 オリヴァーはそう返したが、メルルの視線に気づいて口をつぐんだ。


 「たしかに、あれは探偵をおびき出す意図があったかもしれねぇ。だが、それでもおかしいだろ。ご子息様は、いつ、探偵の存在に気づいた? 生前には面識がないんだろ?」

 デレクはメルルに顔を向けた。メルルは静かにうなずく。「ええ」


 「まるで意味不明だなぁ、それじゃ」

 オリヴァーは頭を抱えた。「やっぱり、行動はデタラメじゃねぇのか?」


 「今、ここでルーベンさんの意図を考えるのに意味はあるのですか?」

 メルルはデレクに尋ねた。

 「早く、次の階層に行くべきでは?」


 「黙ってろ、小娘」デレクは相手にしない。


 メルルは黙った。早く下の階層へ向かい、レトの無事を確かめたい……。メルルには焦りの気持ちが募っていた。しかし、場の主導権を握っているのは『悪狼』デレクだ。デレクを出し抜いて行動するのは難しい。それに、単独行動が命の危険につながることはレトが身をもって教えてくれている。


 「考えろ、考えろ、デレク・オーデナリー」

 デレクは自身に呼びかけながら、その場を歩き回った。何か見落としがないか、考えを巡らせているのだ。


 「ダメだ。9層の扉も開かねぇぜ」

 扉を調べていたオリヴァーが諦めた声で言った。「ここも仕掛けが施してあるな」


 「扉を触った形跡とかないか?」デレクはオリヴァーに話しかけた。「ご子息様が触ったような」


 「この扉には蜘蛛の巣ひとつついていねぇ」

 オリヴァーは答えた。「誰かが触ったかどうか、何の痕跡も見つからねぇよ」


 「引き返すぞ」

 デレクは歩き出した。「途中、罠に引っかかるなよ」


 一行はぞろぞろと第7層へ通じる階段の手前まで戻った。ランタンの明かりがドットを覆う聖布を照らすと、布の下から黒い虫がいっせいに逃げ出した。『屍肉齧り』が潜り込んでいたのだ。


 「布をめくらないようにしろよ」

 デレクはメルルたちに話しかけたが、布の下がどうなっているか想像すると、それをめくって確かめる気にはとてもなれない。


 「さて、質問だ」

 デレクは全員を前にして腕を組んだ。

 「ご子息様はどう行動したと思う?」


 レティーシャとリューゼは困惑したように互いを見合わせた。「どうって言われても……」レティーシャは困ったようにつぶやく。


 「これまで、お前たちが未知のダンジョンを攻略したとき、ご子息様はどう判断して、どんな指示を出していたんだ?」


 「地道に一歩ずつだよ」答えたのはアンリだ。

 「その意味では基本に忠実で、優秀なリーダーだった」


 「一歩ずつとは具体的にどういうことだ?」


 「次の階層に入れば、周囲の確認。罠は当然だが、ダンジョンがどのような性質のものなのか調べていたよ。ときには壁の一部を崩して、その材質を確認したりしてね」


 「それだ」

 デレクは腕をほどいた。「この階層で、ご子息様が調査した跡は見つかったか?」


 「いや……。思い当たるものはないなぁ」

 アンリは頭の後ろをかく。


 「さっきの水場はどう?」

 レティーシャが思い出したように言った。

 「罠が見当たらないエリアがあったじゃない。あそこで見つかった水場。あそこの床板を外して、また水路に潜ったんじゃない?」


 「あそこの床板に動いた形跡はなかった。その可能性はないんじゃないかな」

 リュートが首をひねりながらつぶやく。


 「もうひとつあります。ルーベンさんが下の階層へ行った手段」

 メルルが静かに手をあげた。


 「何だと? 水路以外でそんなものあるか?」デレクは半ば馬鹿にした表情だ。


 「レトさんを落とした『落とし床』の罠。ルーベンさんもその罠を使って下層へ進んだ……」


 デレクの顔から馬鹿にした笑みが引っ込んだ。


 「死骸者コープスに学習能力があるのなら、レトさんを下層へ落としたことで、わざわざ扉を進まずに下層へ行く方法があると気づいたかもしれません」

 メルルは説明を続けた。

 「なにせ、死者はこれ以上、罠で死ぬ恐れがありませんから」


 「……その意見に、私は1票」

 クラリスが手をあげた。それを聞いて、オリヴァーも手をあげる。「俺も……」


 「発想のもとが違い過ぎる……」

 アンリは賛成票をあげなかったが、その口ぶりはメルルの考えを支持したも同然だった。「死んでること前提の攻略なんて……」


 「……この階層で、落とし床の罠はどこにあった?」

 デレクは暗い声で聞いた。グリュックが慌ててマッピングした地図を広げる。


 「9層の扉があった場所から2つ角を戻ったところです。そこ以外に落とし床の罠はありませんでした」


 「……そこへ行ってみるか」

 デレクはちらりとメルルを見てから歩き出した。


……あの小娘。探偵が目立っていたおかげで気づかなかったが、大した観察眼を持ってやがる。いや、だからこそ、あのアージャ族はこいつを助手見習いに連れて来たってことか……。


 遅ればせながらメルルの資質に気づいたようだ。デレクは不機嫌な表情のまま先を急いだ。


 グリュックがチェックしていた罠の場所に着くと、デレクはクラリスに顔を向けた。


 「クラリス。あのタイルを撃ってくれねぇか」

 離れた場所にある一枚のタイルを指さす。クラリスは黙ってうなずくと矢をつがえた。


 クラリスの矢は狙い違わずタイルに命中した。落とし床の罠が作動し、ばかんと床が大きく開く。


 デレクは奈落に目をこらした。「おい、みんなも何か見えるか?」


 「真っ暗だ」オリヴァーが言うと、リュートが進み出た。

 「ここを空けてくれ」オリヴァーたちの間に割って入る。


 リュートは奈落のふちに立つと、杖の先端を奈落に向けた。「『火球衝撃ファイアーボール』……」


 杖の先端から火の玉が生まれ、奈落の底へ向かって飛んでいく。炎の玉は、奈落を照らしながら奥へ消えていった。


 「……なるほど……」

 オリヴァーが唸った。「そういうことか……」


 この落とし床はレトを落としたものとは構造が違っていた。無限の穴というわけでなく、かなり深いところに底が存在していたのだ。その床には無数の穴があり、炎が床に接した瞬間、勢いよく槍が飛び出したのだ。

 槍が飛び出したのは一瞬で、すぐに穴のなかへと戻っていく。


 「骨折してもいいならここを飛び降りていいわけだ」

 オリヴァーが首を振りながら言った。

 「ついでに串刺しになってもいいならな」


 「ここを使って9層を飛ばして進んだということか……」

 デレクも唸った。

 「あそこから入れるみたいだな」デレクはランタンを放り投げた。ランタンは糸を引くように落下し、激しく底に当たって砕けた。魔法石が床に散らばり、細かな明かりが底を照らす。


 「お、おい……」オリヴァーが動揺したように声をあげた。


 「1個ぐらい、かまわねぇ」デレクは平気な様子で言う。


 ランタンから散らばった魔法石は、これも槍の攻撃を受けたが明かりが消えることはなかった。弱々しいが底の部分を照らし続ける。


 「見ろよ……」


 デレクは底の一部を指さした。罠の底にはひとの出入りができる横穴があった。そこからその階層の奥へ進むことができるようなのだ。


 「メルルちゃん、正解みたいね」

 リューゼがメルルの頭に手を置いた。


 「ここでは殺した者の遺体を処分するために出入りしたか……、または生き残った者を捕虜にするために出入りできるようにしたか……」

 アンリが考えを口にした。学術的な関心を持ったらしい。


 「その両方じゃない?」レティーシャも同じ気持ちのようだった。


 「どっちでもいい」デレクはアンリの考えを一蹴した。「ここを降りる算段つけるか」

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