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こちらメリヴェール王立探偵事務所7 ~死者は迷宮の底で嗤う~  作者: 恵良陸引
Chapter 9

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 「どうしてです! どうしてレトさんを助けに行っちゃダメなんですか!」

 メルルの声は絶叫に近かった。


 メルルは床を指さした。

 「レトさんは絶対、この下にいるはずなんです!」


 メルルが指さしているのはレトが落ちた、あの『落とし床』の罠があるところだ。


 「可能性としてはそうだがな」

 デレクはぽりぽりと自分の頬をかいた。

 「だが、わざわざ罠を作動させて確かめるってか? ほかの罠が作動して、今度はこっちが遭難するかもしれないんだぞ」

 冷静で、論理的とも思える答えだ。しかし、メルルはその言葉が真意だとは思えなかった。


 「レトさんがアージャ族だからですか? アージャ族の血を引いてる者だから助けないんですか?」


 それを聞いたデレクの反応は鈍いものだった。

 「ま、そう取られても仕方ないかな。お嬢ちゃんには」


――ひとでなし!


 メルルは叫ぼうと口を開いたところを誰かの手で押さえられた。


 「落ち着けよ、お嬢ちゃん」

 リュートだった。

 「聞けば、あの探偵さん。マイエスタ渓谷の高い崖から落ちたことがあったんだろ? それなのに無事に生還したじゃないか。変な言い方だけど、落ちるのは得意じゃないのか?」


 「落ちるのが得意なんてひと、いません!」

 メルルがリュートを睨みつけると、リュートは縮こまった。「だ、だから変な言い方だけどって言ったじゃないか……」


 「くだらないこと言ったリュートが悪い」

 リューゼはリュートからメルルを引き剥がすと、その両肩に手を置いた。

 「メルルちゃん。リュートみたいな考えじゃないけど、それでも探偵さんは生きていると思う。あのひとは私たちが経験したこともないような死線をくぐり抜けてきたひとなんでしょ?」


 メルルはうなずいた。「ええ」


 「だったら、あなたが一番に信じてあげなきゃ。あなたが信じてあげなきゃ、あとで探偵さんにがっかりされちゃうわよ」


 「……そうですね……」


 とても納得できる話ではないが、今のメルルにはうなずくしかできなかった。ひとりきりでは、この状況をどうにもできないのだ。諦めきれないが、レトが生きていることを信じるしかない。いや、信じたいのだ。


 「話はすんだか」

 デレクが口を挟んできた。

 「だったら、このままこの先に進むぞ」


 「この先? ほかの通路は調べないのか?」

 アンリが尋ねた。


 「副団長さんよ。どうして、ここだけ、こうも派手に罠が仕掛けられてるかわからねぇか?」

 「え?」


 「この階層で拠点にした部屋の周囲も、その部屋に至る通路にも、こんな罠は存在しなかった。なのにどうしてこの通路だけ罠満載なんだ? それはな、ここより先に部外者を通したくないからさ。なぜ? この先が第8層へ通じているか、それとも司令部に通じているかのどちらかってことだろが」


 「あ……」


 「しっかりしてくれよ。こんなのダンジョン攻略の初歩だろう?」


 デレクの言葉に、アンリはうなだれるしかなかった。


 「出発するぞ」

 デレクはうなだれるアンリにかまわず先に歩き出した。周りの者も無言で続く。メルルもリューゼにうながされるまま歩き出した。目のはしで『落とし床』を見つめながら……。


 「蜘蛛の巣のあるところだけ踏んで進むんだ。きれいなタイルを踏むと串刺しだからな!」

 デレクは大声で注意しながら先へ進んでいく。


 メルルは何度も振り返りながら先へ進んだ……。


********************


 ツヴァイ迷宮のはるか地下――。

 明かりがひと筋もささない暗闇に、どうどうと音を立てながら大量の水が流れていた。迷宮地下の水脈から流れ落ちる水だ。地下の洞窟をまるで川のように勢いよく流れている。


 その『川』から一本の腕が伸びていて、洞窟の岩壁にとりついていた。武骨で大きな魔形まぎょうの手。人間のものとはかけ離れた手だった。

 ざぶっと音を立てて、もう一本の腕が伸びる。それは白銀の鎧を身に着けていた。さきほどの手が右手で、今度のは左手だ。

 両手を岩壁にかけた者は、自らの身体をぐいっと持ち上げて『川』から姿を現した。

 全身すべてが筋肉に覆われているような隆々とした体格、暗闇で実際には見えないが、皮膚の色は赤黒く、目は人間本来の白目部分が黒く、瞳は金色に光っていた。額にはもうひとつ目が開いており、その目がぐるぐる回りながら辺りを見ている。どうも、この第3の目はこの暗闇のなかでも物が見えるらしい。

 『川』から姿を現したのは、人間とはかけ離れた姿をした『魔族』だった。もし、過去の歴史に詳しい者が見たら、それを現在では絶滅した『デーモン族』だと指摘したことだろう。


 『デーモン族』の姿をした者は岩壁をよじ登ると、身体を横にできる場所を探し出した。その場に身体を横たえると、みるみる身体が小さくなっていく。鋼の剣すら弾き返しそうな逞しい筋肉は姿を消し、額にあった第3の目も姿を消した。目の色も人間のものに変わり、そこには息も荒く喘いでいるレトの姿があった。


 『もし、『魔人化』するのが遅れていたら僕は助からなかった。あんな高さから落ちて無事でいられる人間なんていない。それに……、この地下水脈……。落とした敵を自動で処分する天然の仕掛けか……。万が一助かっても溺死は免れない……。こんな状況で生き伸びられるのは、人間を超越した魔人、デーモン族ぐらいだったか……』


 『魔人化』――。


 レトの左手に宿る『デーモン族』の力を解放した能力。レトが装備する魔剣の力によって可能になるその力は、レトにとって『最後の手段』だった。まさか、こういうことで使うことになろうとは。レトは自嘲気味に思った。しかし、これ以外に助かる手段がなかったのはたしかだ。レトはため息交じりの息を大きく吐き出した。全身は疲労感いっぱいで、起き上がるのも億劫おっくうだ。


 レトはごろりと身体の向きを変えるとうつ伏せからゆっくりと身体を起こした。


 『さて、ここからどうやって上へ戻る? いや、せっかく下まで来たのだから、第7層ではなく、最下層に向かいたいところか。でも……』

 レトはふたたびごろりとその場で横になった。


 「もう少し休ませてもらおう……」

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