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こちらメリヴェール王立探偵事務所7 ~死者は迷宮の底で嗤う~  作者: 恵良陸引
Chapter 5

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 「ふたりとも姿が見えないから戻ってきたの。何をしてるの?」

 リューゼはレト、メルルの順に顔を見ながら尋ねた。


 「ここの調査です」

 レトは短く答えた。「ルーベン氏を見つける手がかりがあるかもしれないので」


 「ここでルーベンを?」

 リューゼは目を丸くした。そして、レトがさっきのぞいていた穴に視線を移した。

 「……ひょっとして、この穴に死骸者コープスが隠れているとでも?」


 「無理でしょう」

 レトは即答した。「けっこう大きい穴ですが、大人が隠れるには小さい。僕は無理ですね。メルルであれば潜り込めそうですが」


 「ですよね」リューゼはうなずいた。


 「あの……。アンリさんは、この部屋に罠が無いか調べたっておっしゃってましたけど、その壁も調べたんですよね?」


 メルルの質問にリューゼはふたたびうなずいた。

 「もちろんです。壁は叩いて空洞部分が無いかなど調べています。もし、罠が仕掛けられているのであれば、からくりを収めるために空洞部分があるでしょうから。ですが、そんな空洞は存在せず、その壁は全面岩だと確認しました。

 そちらの開口部も、ただの空気穴でした」


 「穴の奥も調べたんですか?」レトは背後の穴を見上げた。


 「納得なさらないんですね」

 リューゼは首を振りながら言った。少し呆れているような口ぶりだ。

 「私がランタンで照らして差し上げますから、ご自分の目でお調べになりますか?」

 リューゼは腰にぶら下げていたランタンを手にすると、レトのそばへ歩み寄った。


 「そうですね。よろしくお願いします」

 レトはそう言うと丸椅子に乗った。リューゼはレトの隣まで進むと、ランタンを高く掲げて穴のなかを照らした。「どうです? 見えますか?」


 「よく見えます」

 レトは開口部に目をやりながら言った。さらに、片手を突っ込んでなかの様子を探る。


 その間、メルルはハラハラしながら見守った。もしかしたら、ふたりの身体が真っ二つにされるかもしれないと思うと気が気でない。


 しかし、いや、幸い、そんな大事件は起こらなかった。


 「何もありませんね」レトはあきらめたように手を引っ込めた。

 「納得いただけました?」リューゼの顔は微笑んでいた。


 「レトさん、手に異常はないですか?」

 メルルはレトに駆け寄りながら尋ねた。レトは右手を握りしめたり開いたりしてみせた。

 「どうもないよ。ほこりもあまりないし、ぐらぐらする箇所もあったけど、何も作動しなかった」


 「作動したら危ないじゃないですか」メルルは子供を叱る母親のような顔になった。


 「でも、作動しなかったよ」

 レトはどこかさっぱりとした表情だった。それを見て、メルルはもう何も言えなくなった。


 「ここの調査はすみましたか?」リューゼは微笑んだ表情のまま尋ねた。調査と言うより『気はすんだか?』と言われた気になる。メルルは苦笑を浮かべてレトの表情をうかがった。


 「すんだとは言えませんが……」

 レトは部屋を見渡しながら答えた。「ですが、皆さんと行動を合わせましょう」


 そのときだった。


 「おい、ここはどうなんだ?」

 太い男の声が聞こえてきた。デレクの声だ。

 3人は反射的に扉へ視線を向けたが、そこに人影はない。


 「ぐるっと回った先の袋小路みたい」この声はクラリスだ。

 声は聞こえるがふたりの姿はまるで見当たらない。部屋のすぐ外にいるわけでもないようだ。


 「ここから声が聞こえるんだ」

 レトが後ろを振り返ってつぶやいていた。レトの視線の先には、さきほどまで調べていた四角い通気口がある。


 「ダンジョンのどこかにつながっていて、そこからの音が伝わってるんですか?」

 メルルはレトに訊いた。


 「おい、なんだ。誰がしゃべってる?」

 こちらの声が届いたらしい。デレクの声が飛んできた。


 「レト・カーペンターです」レトが答えた。「今、ルーベン氏が倒れていた部屋から話しています」


 「あの部屋からだと……? どこから声が……。あ、あれか」

 どうやら向こう側にも同じ通気口があったらしい。すぐに、「ここから声が聞こえてるのか?」と、デレクの声がより大きく聞こえてきた。通気口に顔を近づけてしゃべっているらしい。


 「そうです、この通気口がつながっているんです」レトは返事した。


 「お前たちはそこで何をしている?」


 「この通気口を調べていたんです。何も見つかりませんでしたが」


 「ここに死骸者が隠れてると思ったのか?」デレクの声は馬鹿にしたものに変わった。「そんなに大きくないだろ、さすがに!」


 「そうですね」レトは逆らうことなく肯定した。


 デレクはそれでこれ以上の興味を失ったようだった。「おい、行くぞ。ここには何もねぇ」

 デレクの声が急に遠くなったかと思うと、立ち去っていく足音だけが聞こえていた。それもやがて消えて、あたりは沈黙に包まれた。


 「さて、こちらも皆さんと合流しましょう」

 レトはメルルたちに振り向いた。


********************


 「おい、リューゼ! 今までどこに……」

 リューゼの姿を見つけたアンリが大声をあげかけたが、すぐ後ろにレトとメルルがいるのに気づいて口をつぐんだ。3人は何かの扉の前で『マドラス団』と合流した。


 「探偵さんたちを連れて来たの」リューゼは軽い口調で答えた。「一緒に行動しないといけないでしょ、やっぱり」


 「そ、そうだな……」うなずくものの、アンリの口調は歯切れが悪い。


 「探偵さんがたは今までどこを捜してたんだ?」リュートは気にしていない様子で尋ねる。


 「ルーベン氏が倒れていた部屋を調べていたんです」

 レトが答えると、リュートの表情に緊張の色が浮かんだ。「ほう」


 「何か見つかった?」

 レティーシャが不安とも期待ともつかない様子で尋ねる。


 レトは首を左右に振った。「いいえ。何も」


 「そう……」レティーシャの顔には失望の色が浮かんだ。メルルは意外に思った。このひと、レトさんに何か期待していた?


 「何も見つからなかったからこそ、疑問に思うことがあります」

 レトは淡々とした口調で言ったが、それにはレティーシャの表情もこわばった。「な、何です?」


 「ワッケナルさん3人がルーベン氏のいた部屋に入ったとき、あなたはひとり、ルーベン氏の隣に座っていたとのことでした」


 「ええ……」レティーシャはあいまいにうなずいた。


 「そのとき、あなたは戸口から見てルーベン氏の向こう側に座っていたそうです。疑問に思ったのは、ルーベン氏が倒れているのを見つけたとき、なぜ、『わざわざ』向こう側に回ったのか、ということです」

 レトの声は、容赦ない響きを感じさせた。

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