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こちらメリヴェール王立探偵事務所7 ~死者は迷宮の底で嗤う~  作者: 恵良陸引
Chapter 3

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 「最後のあれは警告ですか?」

 けっきょく、食器をグリュックに預け、部屋へ戻る廊下の途中でメルルはレトにささやいた。


 「せめて忠告と受け取ろう」

 レトは訂正した。「グリュックさんは本当に優しいひとだよ」


 「でも、そんなに優しいグリュックさんが『銀狼団』にいるってことがわかりません」

 メルルは洗い場のあった方角にちらりと目をやった。

 「何か弱みでも握られてるんでしょうか?」


 「さぁね。それを推理できる情報は得られてないよ」レトも小声で答えた。あたりにひとの気配がないとはいえ、どこかに『銀狼団』が寝泊まりする部屋もある。こんな会話を彼らに聞かれたくはないのだ。


 「レティーシャさんが、オーデナリーさんを『悪狼』と呼んでいましたが、『銀狼団』ってどんなパーティーなんです? 知ってますか?」

 メルルの質問にレトが顔をしかめたのがわかった。ランタンの暗い明かりが、レトの表情をさらに暗いものにしている。


 「……『銀狼団』は暴力沙汰など、もめごとに介入することを仕事にしている。いわゆる荒ごと専門のパーティーだ。その解決に暴力を使うことなど厭わないので、リーダーのデレク・オーデナリーはパーティー名から『悪狼』と呼ばれている」


 「そういう人たちでも冒険者と呼べるんですか?」

 メルルは少し憤った。


 「ひとことで冒険者と言っても、その性格や得意とする分野はさまざまさ。それに、冒険者も職業のひとつだ。収入がなければ冒険者を続けることはできない。

 たとえば、『マドラス団』は探索を専門にした冒険者パーティー。それが主な収入なんだ。

 そして、『銀狼団』は今回のような『もめごと』で収入を得ているわけさ」

 「もめごとって……。別に『マドラス団』の人びとは、マドラス伯ともめていたわけじゃないと思いますけど……」

 「でも、彼らが隠し事をしているのはたしかだね。マドラス伯もそれがわかっているから『銀狼団』をわざわざ雇ったんだ。暴力に訴えてでも彼らの口を割らすつもりじゃないかな」


 「マドラス伯って、けっこう怖いひとですね……」

 メルルが首をすくめてつぶやいたとき、レトが掲げるランタンの明かりのなかに、ひとりの男が姿を現した。メルルは驚いて身体をビクッと震わせた。


 「ちょっと話ができないか?」話しかけたのはアンリだった。


 「いいですが、ここで、ですか?」レトは尋ねた。アンリは首を振る。

 「案内する。正直、誰にも聞かれたくない話なんだ」


 アンリが先に立って歩き出すと、レトはメルルにうなずいてみせた。「行こう」


 アンリは『宿屋』から出ると、ダンジョンの入り口に向かって歩き出した。ふたりは黙って後に続く。


 やがて、アンリはひとつの小さな建物にふたりを招き入れた。『宿屋』からはかなり離れており、小声で話す分には誰にも聞かれないと思われた。


 「悪いが、明かりを消してくれ」

 アンリは自分のランタンの明かりを消しながら言った。「ここにいることを誰にも気づかれたくない」


 レトは言われるままに明かりを消した。部屋のなかは完全に暗闇となった。


 「すまないが、この状態で話させてくれ」アンリはささやき声で言った。


 「どうぞ、続けてください」レトも小声で応じる。


 「悪いな。あんたたちをここまで来てもらったのは、正直なことを話そうと思ったからだ。つまりだな……。あんたが言った、『隠しごと』のことだ」


 「本当のことを話してくれるのですか?」


 「ああ。だが、信じてほしい。俺はルーベンの死に無関係だ。殺しはもちろん、傷つけてもいない」


 「まずは話してくれませんか? 話を聞かなければ、あなたの言うことを信じることもできません」


 「……わかった。話そう。実は、ルーベンは、死に際に俺たちを見ながら『裏切り者』と言ったんだ」


 「『裏切り者』、ですか」


 「あいつが誰に対して、また、どのことを指して『裏切り者』と言ったのかわからない。

 ただ、あのときの俺は動揺してしまい、その後のことが考えられなくなった。それで、あいつの遺体をそのままに撤退したんだ。いや、今なら正確に言える。俺はその場から逃げ出したんだ」


 「『裏切り者』の言葉に、逃げ出すほど動揺したということは、あなたにはそう言われる覚えがあるのですね?」

 レトの声は追及するというより確認するような淡々としたものだった。その声で安心したのか、アンリがうなずく気配がした。「そ、そうだ……」


 「それを話してくれますか?」

 レトの求めに、すぐ返事はなかった。告白することを決意したのに、いざそのときになってためらいが生まれたようだ。


 だが、レトが辛抱強く無言で待っていると、アンリも腹をくくったようだった。

 「実は、今回のダンジョン攻略に向かう前日のことだ……」

 アンリは告白をはじめた。

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