外出―十月
三題噺もどき―ごひゃくよんじゅうさん。
玄関を出て、あまりの眩しさに引き返す。
しかし、母に早く出なさいと言われ渋々外へと出る。
今日は休みだと言う母と共に、買い物ついでに昼食を食べに行くことになったのだ。
どこに行くかは決めてはいないが、まぁ特に時間制限もないし、どこでもいいだろう。この辺りは選び放題といえるほど飲食店があるわけでもないし。割と店の好みがあるので、行く場所は俄然限られてくる。飲食店で働いた経験もないのに、なぜか回転率とか気にすることがあるのだ、我が家は……あと、店員の態度とか。
「……」
目の奥が焼かれたようにジクジクと痛む。
半引きこもりみたいな生活をしているせいか、こうして昼間に外に出ると太陽の眩しさに毎回やられる。何回やってもなれない。この後にちらつく光の影が鬱陶しくて仕方ないので、ホントに嫌いなのだ。
瞼を閉じても差し込んでくる光の圧に、もうさっさと車に乗ろうと決め込む。
「……」
うっすらと目を開けたまま、母の車に乗り込む。
買った当時は比較的新しい車で、乗っている人はそこまで多くはなかったのだが。その後人気がすごすぎて、同じカラーリングの車を毎日何台もみるようになった、母の車だ。
軽の割には車内が広いので、新車を買うならこのタイプかなぁなんて思ってもみる。まぁ、自分の車に慣れると、この車は若干ハンドルが細くて運転しずらい。
「……」
後部座席に乗ろうかと思ったが、なんとなく助手席に座ることにする。
母はあまり気にしないらしいが、車に乗っている間の音楽って割と大切だと思うのだ。
ずっと同じCDばかりだとさすがに飽きが来てしまう。それを変えたりするのに助手席は丁度いい。スマホと連携もできるから、今日はそっちにしてみようか……。
「……」
エンジンをかけると同時に、エアコンが入る。
自動にしているので、最初はかなり風速が強めになっている。
昼間ということもあって、まだ車内は暑い。
「……」
うだるような暑さ―とまではいかずとも、昼間はまだ暑いと感じる日々が続く。
陽が照っているのもあるんだろうけど、昼間に外を歩いているご老人を見ると少々心配になってしまう。公園でグランドゴルフしている人たちはそうでもないんだけど。元気そうで何よりだ。暑そうではあるけど。
「……」
エアコンが完全に効きだす前に、CDの音が鳴り出す前に。
母は車を発進させる。
だから、早い。私はまだ、シートベルトをつけ終わっていない。
引っ張っただけだ。
「……」
かちりと、音がするまでしっかりと嵌める。
パネルを操作しながら、自分のスマホと連携させる。
最近つながりが悪いのか、あまりうまくいかないのだけど……お。
「……」
繋がったのを確認し、適当にプレイリストを選ぶ。
まぁ、母もよく聞く人の曲なので良いだろう。
ほんとは、アニソンとかゲームのとかかけたいが、興味のない曲程つまらないものはない。あくまで運転は母がしているので、そのあたりは少し気にしておく。1人なら別にいいんだけどな。
「……」
しっかし暑いなぁ……。
もう、10月だと言うのに、まだ半袖を着ているのだが。
きっと去年の私が見れば、さぞ驚いたことだろう。
寒がりのお前が、この時期にまだ半袖なんかをきているのかと。上着も持たずに。
寒くないのか……暑がりになったのか…この一年で…なんて、戸惑いを見せたかもしれない。まぁ、そんな余裕はなかったがあの頃は。
「……」
最近、ようやく朝晩は冷えてきたと思っていたが。
夜寝るときは、未だに暑いと思うことがある。
ベッドがよくないのか、何なのかは分からないが……薄手のブランケットみたいなものをかけているだけなのに、酷く暑くて、寝つきが悪い時がある。
汗をかくまではさすがにいかなくなったけど、それでも暑くてぐるぐると体を動かしている。少し足を出してみたり、腕を出してみたり。
「……」
まぁ、扇風機でも回せばいいんだけど。
それはそれで寒くて寝れないのだ。
……もう、どうしたらいいんだろうな。
「……ぇ、なんて」
ぼうっと、そんなことを考えて居たら母に何かをたずねられた。
全く聞いていなかった、なんか話してたのか。
いや、聞こえてはいたんだが、若干思考の方に重心が傾いていたので、聞き流していた。
「ぇ、あぁ、どこでもいいよ」
問題は、昼食をどこで食べるかという話だった。
とりあえず、買い物を先に済ませてしまえばいいのにと思ったが、そういうわけにもいかないのだろう。
「……あそこでいいんじゃない」
とりあえず、目の間に見えてきた店をさし、伝える。
特にそこまでこだわりがないので、ホントにどこでもいい。
行った店で、食べられるものを食べるから。
「……じゃあ、そっちに行けばいいじゃん」
人に聞いておいて、断るのは訳が分からんが。
お題:うだるような暑さ・戸惑い・驚き