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アバスターの継承者  作者: 一枝 唯
最終章 vol.2(2/2)

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06 面白そうだ

「激しい数値の変動が起こったんでしょうね」

 考えるようにしてライノンが言った。

「数値?」

「ええ。こちらでは、たぶん、その観念はないと思うんですが」

 ええと、と彼は眼鏡の位置を直した。

「僕は、ありとあらゆる数値の最大値が軒並み低くて、唯一、低い方がいい数値だけが異常なほど高いんですが」

「はあ」

 シレキは相槌を打った。

「そりゃ、気の毒なこったな」

 数値というのはぴんとこなかったが、とにかく巧いこといかなかったのだなとは判った。

「ええ。でも運がよかったです。あと半年も法律の施行が遅れたら、僕は不適格者として処分されてたと思うんで」

「不適格? 処分?」

「あ、そういう慣例があったんです。法律で禁止されたんですけど」

「むう」

 処分という言葉から想像した嫌なことは、どうやら正解(レグル)でありそうだった。

「おっそろしい国もあったもんだな」

「でもそれが当たり前だったんですよ。そんなに数いる訳でもないですし」

「数がいなければ『処分』していいってもんでもないだろう。俺ぁ調教師で、こう言っちゃ何だが、どうしても役に立たないとなった動物を『処分』することもあった。だが気持ちのいいもんじゃないし、野に返してやれたらよかったのにとも思う」

 実際には、家畜を野に返しても野生の獣の餌になるだけであったり、巧く生き延びれば今度は畑を荒らしたり、人を襲うことだって有り得る。それを考えれば、取れる選択肢は少ない。

「ええと、それらの最大値っていうのは『才能』みたいなもので、成長しても老化してもあんまり変わらないものです。魔術師の魔力が増えたりしないのに似ているかもしれません」

 それは魔力を持つシレキにはいくらか判る説明だった。

「人は常に全力を使ってる訳じゃない。それと同じで、常に最大値が満たされ、使われてる訳でもないんです。ただ、普通の人は最大まで使ってもその半分くらいでも、そんなに変わりません。最大値が高い人であればこそ、変動がはっきりします」

「まあ、何となく判るようだ」

 たとえば弓の名手が三回続けて外したら驚きだが、初心者であれば当然というような感じだろう、などとシレキは解釈した。

「ま、振れ幅が小さいなら小さいなりに、そのなかで一般人も苦労してんだがね」

 口の端を上げてシレキは言った。

「シレキさんは測ったら、余裕で僕の倍以上ありますよ!」

 何やらライノンは憤慨した。よく判らなかったがシレキは謝っておいた。

「えっと、とにかく、彼らはそういう最大値の高い人なんだろうなって。……すみません、長々と」

「いつも楽しませてもらってるさ」

 別に慰めではない。ライノンの故郷の、けったい(・・・・)に思える話を聞くのは実際、楽しい。ある意味、他人事だからかもしれないが。

「んで、〈導きの丘〉、〈はじまりの湖〉がお前さんの当てだったが、巧くなかった。そいで俺の心当たりとして〈エンディアの鏡〉と〈深淵の池〉を巡ったがお気に召さなかった」

「き、気に入らないとかじゃないですよ! ただ、鏡の方は純粋に魔力でしたし、あの池はだいぶ期待できたんですけど、実際、見つからなくて」

 慌てたようにライノンは言い訳した。

「判ってるって。何も俺だって腹を立てているんじゃない。役に立たんですまんなあ、とそういうことを」

「そうは聞こえなかったよ」

 麺麭(ホーロ)をかじりながらジラングが口を挟んだ。

「拗ねてるみたいだった」

「お前な。……拗ねた訳じゃないが、何つうか、残念ではある。ぱぱっと解決とはいかんもんだな」

 彼は頭をかいた。

「特異点自体、そうそうあるもんじゃない。広い範囲に長く伝わって誰でも聞いてるような伝説になっていればともかく、吟遊詩人の歌なんかは作りごとも多いし、狭い地域で長老しか知らんような話を探そうとしたら闇雲になる。時間も手間もどれだけかかるか」

「でも僕は、それをやるしかないので」

 悲壮にも聞こえる言葉だが、言いようは意外とあっさりしていた。

「――これまで有難うございました。シレキさん、ジラングさん」

「あ?」

「仰る通り、闇雲に当たるしかない話です。この先はナイリアンを離れることになるでしょうし、僕ひとりで」

「馬鹿」

 シレキは手を伸ばしてライノンの頭をはたいた。

「いたっ」

「何を気遣ってんだ。そりゃ俺にはナイリアンは故郷だが、騎士でもないんだ、離れちゃならんってことはない。だいたい、異国ってのも面白そうだ。なあ、ジラング?」

「そーね。あたしも楽しいよ。特異点っての? 何か、変な場所だったり物だったりするじゃん? ああいうの好きだし」

「そうそう。こいつは鼻も効くからな。近くにおいてときゃ便利だぞ」

「ちょっとー。テュラスみたいに言わないでくれる」

 猫は大いに文句を言ったが、調教師は鼻を鳴らしただけだった。

「シレキさん、ジラングさん……」

 ライノンは感激したように目を潤ませ、またしても「泣くな」と厳しく言われた。

「ま、もう少しつき合わせろってこった。エルテミナに行くなんて言い出すんじゃなけりゃな」

 笑って彼は言った。ライノンはきょとんとした。

「エルテミナって何ですか?」

「おいおい。知らないのか」

 シレキは苦笑した。

「伝説の都だよ。千年に一度、無限砂漠(ゴズ・ディバルン)のどこかに現れるっていう」

「千年に、一度……」

 ライノンは繰り返し、目を見開いた。

「それ! 僕、行きます!」

「おいっ」

 慌ててシレキは声を上げたが、ライノンは目をきらきらさせていた。

「だって! それってすごいじゃないですか! それだけの大きな力が存在するなら、きっと僕の探すものも」

「千年に一度だと言ったろうが! 一生待ってたって現れんかもしれんのだぞ。第一、正確な場所も判らない。無限って言うくらいだから、東の砂漠はそりゃもう、広いんだぞ!?」

「でも、行ってみます」

 青年はにこっとした。

「じゃあ、お気持ちは有難かったですけど、やっぱりここで」

「だあっ。判った! つき合う!」

 思わずという調子でシレキは叫んだ。

「えっ?」

「エルテミナも知らんような奴、放り出せるか!」

「で、でも、さっき、そこまではつき合えないというようなことを」

 ぱちぱちとライノンはまばたきをする。

「千年一緒に待ってはやれんって程度だ。ナイリアンを出ることは考えてて、面白そうだと思ってたのは事実。それに、実際に砂漠まで行かんでも、途上で何か見つかるかもしれんだろ?」

「もしそうだったら、いいですけど……でも……」

「『もう少しつき合わせろ』は変わんないってこと。でしょ? シレキ」

「そういうこった」

 うんうんとシレキはうなずいた。

「俺もしばらく静かにしてたが、正直、この前の騒動から冒険の血が騒ぎ出してなあ。俺が直接関わったことは少なかったが、あんときは『やれやれ、こんなもんで助かった』と思ってたのが、お前さんにつき合う内」

 彼はにやりとした。

「『もっと俺にも何かやらせろ』になってきてな」

「あ、はは」

 ライノンは笑った。

「本当言うと、すごく、助かります。ここは二回目なんでだいぶ慣れましたけど、やっぱりときどき変なこと言っちゃうみたいですし、カチエさんやディナズ先生みたいな賢い人が助け船を出してくれたら安心です」

「識士の先生みたいにはいかんだろうが」

 シレキはうなった。

「少なくとも世間には慣れてる。異国じゃ違うこともあっても、そう大幅には違わんだろう」

 よし、とシレキは両腕を組んだ。

「んじゃ目指すは東、タインラス国方面だな。何ならラシアッドを経由して、スイリエでフィルンに挨拶を」

 彼の口から出てきたのは仔猫の名前だった。

「浮気する気」

「あのな。フィルンを使ったのはお前だろうが。それに、おもちゃを作ってやると約束したんだ」

「ふうん。まあ、いっけどぉ」

 不満そうに尻尾が揺れる様子が見えるかのようだ。

「とにかく、決まりだ。飯食って今日は休もう。ああ、ちょうどいい、あっちに詩人がいるな。あとでエルテミナの歌を聴かせてもらおうじゃないか」

「はい!」

 嬉しそうにライノンは言った。

 そうして、魔力を取り戻した調教師と、人化する黒猫と、特異点に生まれるという〈時の石〉を求める不思議な青年は、東への旅をはじめた。


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